大倉くん…好きな人の家にあがると思うと緊張してしまい、顔がこわばってしまった。おじゃまします、と小さな声で言って家へ上がり
大倉くんの部屋へ通された。とても年頃の男子の部屋って感じではなく、とても綺麗で清潔感があった。
「……本当は真部に会いたくなかった」
下を向いた大倉くんはそう告げた。そりゃそうだ。私は酷いことをしてしまったんだから。
「そのことを謝りにきたの。ごめん!!…みんなの前とは言え傷つくこと言ってしまって」
私は頭を下げた。下げても下げても、悔やんでも悔やみきれない。でも一番辛かったのは大倉くんだろう。
「あれはお前だけのせいじゃない……俺にも非はある」
「そんなこと……!!!!」
勢いよく大倉くんの顔に近づいてしまったけど、もう止まらない。溢れる気持ちを全部出した。
「あのとき逃げた私が悪いの。みんなの視線が気になって。卒業までネタにされたら嫌だなって。けど、大倉くんが学校に来なくなってから色々気づいたの。学校つまんないな、とか。他にも大倉くんなら手伝ってくれるのにな、とか…言い出したらきりがないくらい」
私の言葉に圧倒されて黙ってしまった大倉くんの顔がだんだん茹で蛸のように赤くなってくる。私の勢いも止まらない。
「亜由美に言われて気づいたの。今まで恋なんてしたことないって逃げてるだけだって。本当は大倉くんのこと好きな気持ちから逃げてたんだって」
私は握りしめていた用紙を大倉くんに差し出した。もちろん何も書かれていないので大倉くんの頭にはハテナが浮かんでいた。
「担任がここに大倉くんにメッセージ書けって言ったんだけど…私は直接言いたくて来ちゃった」
そう苦笑いすると顔を赤くしたまま大倉くんは大笑いした。また知らない一面を見た。
「真部さんがそんな面白い子だとは思わなかったよ、ふふ」
「私もこんなに行動力あるとは思わなかった…」
一瞬の沈黙。急に真剣な顔になった大倉くんが私に向き直った。あの時の同じように。
あの日直の日みたいに。あの時と違うのは私は今とてつもなく緊張している。
「改めて言うね。俺、真部さんが好きです」
「私も大倉くんのこと好きです…」
なんだか恥ずかしくなってお互いの顔を見て笑ってしまった。好きってこんなもどかしくて、熱くて、幸せな気持ちなんだね。
「大倉は親御さんの関係で転校した。転校前にみんなに顔出せなくて申し訳ないと謝っていたぞ。そして一人一人に手紙がある」
そう言って先生はみんなに手紙を配った。さすがにあの時は悪ノリしすぎてしまったとみんな反省していたようで、
手紙を受け取ってから泣く生徒までいた。私は手紙をみながら微笑んだ。
「柚子にはなんてかいてあったの?」
意地悪な顔をした亜由美が近寄ってきた。私は秘密〜って言いながら笑った。亜由美と二人で窓から空を見た。
「私のところには柚子をよろしくって書いてあったよ」
空を見上げながら亜由美は言った。ちょうど飛行機雲が見える。この飛行機に乗ってんのかなぁ、なんて呟いていた。
そんなわけないのに、私に気を遣ってなのか。私は笑って亜由美の肩を軽く叩いた。
「私のところには『待っててください』って書いてあったよ」
それと新住所と電話番号を載せて。私は待ってるよ。私に恋を教えてくれてありがとう。この先、私はこの気持ちを忘れることはないでしょう。