「キャー!!」
「今の見た!?柴田先輩のシュート!!」
今日も昼休みのグラウンドは黄色い声援で包まれていた。私たちの通う学校は、3年生だけが使っていいという昔からのルールがある。
なので私たち2年生は使えないのだ。代わりにかっこいい先輩がいれば見放題なのだ。
その中に柴田先輩って名前のうちの学校の中で一番人気な先輩がいる。その先輩がグラウンドで遊んでれば女子はみんな見るわけで。
いつも一緒に行動してる友達の亜由美は先輩にいわゆるゾッコンで先輩に「恋」してるそうだ。
正直、私にはその「恋」の感情が分からないのだ。小学生の頃は樹や琢磨、真也と一緒に遊んでいたが茉由と同じで「友達」
という感じだ。一緒に馬鹿するだけの仲間。私は全然興味もない柴田先輩の姿を応援するわけでもなくただ見ていた。
「ねぇ、柚子は放課後どうする?」
「ごめん、今日日直だから先輩の応援の付き添いはできないや。ごめんね」
わかった!と元気に廊下へ出て行った亜由美を見送り、学級日誌を書く。本当だったら隣の席の男子もいるはずなのに、
ばっくれてそのまま部活へ行ってしまったのだ。私は一人ため息をはいてひたすら手を動かしてた。
「一人で日直仕事してんの?」
ドアの方から声が聞こえてきて、そちらを振り向くとクラスメイトの大倉くんが驚いた顔をして見ていた。大倉くんは見た目はメガネを
かけており、ザ・優等生という感じだ。手に持ってるのも図書館で借りてきたであろう本で本当に真面目な人なんだなと思った。
そんな大倉くんが私の目の前の席へ座って学級日誌を覗いてきた。私は急に恥ずかしくなって両手で慌てて隠す。
「ちょ、見ないでよ!!」
「真部さんって字、綺麗だよね」
急にそんなこと言われたら赤面してしまう。私はびっくりして持っていたシャーペンを落としてしまった。
「大丈夫?はい、早く書かないと」
シャーペンを拾って私に渡してくる。何なの。なんだか調子が狂う。私が書いてる間は借りてきた本をじっくり読んでる大倉くん
「あの…先に帰っていいんだよ?」
「そのノート、一人で持ってく気?」
大倉くんが指さした先には大量のノート。ちゃんと授業を受けてるか先生がチェックするために時々集めるのだか、よりによって
私が当番の日に集めることになってしまったのだ。
「女の子にこんな重いもの持たせられるわけないだろ。その為の男女で日直のはずなんだが」
ため息をついた大倉くんは本を閉じて鞄にしまった。それと同時に学級日誌を書き終えて、私は慌てて帰り支度をした。
慌てなくていい、と大倉くんが笑う。笑ったところなんて初めて見たかもしれない。
「ほら、職員室に出しに行くぞ」
「なんでそんな親切にしてくれるの?」
私はただなんとなく聞いてみた。本当になんとなく。職員室に入る前、大倉くんは前を向きながらしっかりと私に聞こえるように言った。
「お前だからだよ…じゃあ提出したことだし、俺はこれで帰るよ」
後ろ向きで手を振りながら下駄箱へ向かってしまった。私はどんどん赤くなる顔を両手で押さえながら大倉くんの後ろ姿をただ見つめていた。