秘花
体内で感じる熱に酔う。自分を偽らないでいられる相手の首に手をまわしてようやく安心する。エプロンを着けたまま下だけを脱いで、ガタガタと揺らされる影がその場に落ちていた。

「次も呼んで、ユンギヒョン……っ……」

「最近はずっとそうだろ……んっ、あいつとは終わったんだから」

引っ掻くように擦れてまた声をあげる。

「本当に?もう僕だけですか」

「んっ、あっ……テヒョンア、だけ……あぁっ」

ぐちゅ、と奥に奥にといこうとするのをそのまま許してしまう。まっすぐに気持ちをぶつけてきて、求められればどこまでも甘やかしてしまうのはどうしてなのか。

二人きりになったときに何の脈絡もなく今夜は警察のところに行かないで欲しいだの、捕まって欲しくないだのと説得された。ぽわんとしているように見えて意外とよく人を見ていてよく気づく奴だ。最後にはどこから持ってきたのか 上手い証拠も持ってきてよしよし、と誉めてやるといつもみたいに口を開けて笑っていた。

その口が落ちたとき、店の花びらがまた一枚床に落ちた。

「時間ですよ、花屋さん」

配達員がクローズの看板を無視して店内に入ってくる。

「何やってたんです」

「想像に任せる」

座っていた机から降りてエプロンを結び直した。これで準備完了。無言でぼうっと突っ立ったままのパティシエの背中をぽんぽん叩きながら追い出して皆の所に集まった。誰かが一言喋る度にもしかして大事なものを狙っていた青町の人間なのではないかと疑いがかかる。最近は特に疑いが厳しい。

嘘を言えば素直に信じてくれて、情報提供した善良な市民のフリが出来たから警察は案外簡単だった。銀行員はなにかと油断がならなそうだったから全員総出で潰しにかかって嵌めた。皆が彼を疑う事になった。可哀想な気もするが誰かを騙さなければ俺達は安全でいられない。嘘だらけの毎日だ。

隠さなくても良いのはこの三人の仲間内だけで、彼らのいる場だけは気が休まった。その中でもパティシエとは青町にいた当時からそういう関係があったから、リフレッシュと情報交換も兼ねて夜が来る度にほとんどは花屋の店内でお互いに重なりあった。毎朝、配達員がまた一緒にいるのかと呆れるように迎えに来て相談タイム。次は誰を騙すか。この推理はどうか、昨日は何がダメだったのか。

「首から出てますよ」

ここ、と配達員が花屋の首を撫でる。あぁ、このために見えにくい服を着てやったのにこれでは意味がない。警察が見たら何て言うだろうか。昨日はこんなのありませんでした、怪しいですとでも疑って食ってかかってくるだろうか。それともただ傷ついて何も言わないか。

町にやって来たばかりの頃に簡単になついて来たのが面白くて一晩誘ってやっただけでそれからはすっかり信じ込まれた。数日は彼のそばにいて相手をしてやったと思う。知り合いが少ないと言って頼れば親身になってくれたし、構えば構うほどのめり込んでくれた。ただ最近はパティシエと連日過ごしていたし、情報は抜けるだけ抜いたのでもう用なしだ。構ってやれてないから向こうもそろそろ終わりに気づいているだろう。いっそこのままバレても問題はないかもしれない。それでも一応はこの町を立ち去るまでははぐらかしておくつもりだけれど。

気づかれて、なんとなく避けられて終わりだと考えていたけどあいつは予想以上に子供だったらしい。


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