Book messenger
ユンギ先輩がしげしげと本の表紙を見つめる。それで俺と本を見比べて少し笑った。

「返却期限は一週間後です」

ピッとバーコードを機械で読み込ませると、咳をして誤魔化してまたいつもみたいに表情を消す。笑った所なんて初めてみたからついまじまじと見てしまって、ユンギさんに次、とせっつかれて漸く後ろの人に場を譲った。

ミン・ユンギ。いつもだるそうに貸し出し処理をしてる図書委員。大抵は漫画を借りにいくんだけど俺に一ミリも興味なんて示したことなかったのに。パラ、と本を捲ると旧式で貸し出し処理をしていた頃の記録カードが貼り付けられていた。鉛筆でミン・ユンギと同じ名前が並んでいる。名前があるのは彼だけで、好きな本なのか定期的に何度も借りているみたいだった。その本は昔、ヒットこそしないものの映画になった恋愛小説。そういうのも読むんだって意外に思った。見かける時はほとんど図書室の隅で埃被ってるような分厚い古典文学を読んでいたから、軽い内容の物は好まないのかと思っていた。まず、彼が普段読んでいるのと比べて圧倒的に薄い。すぐ読み終えそうだったから暫くは本にかじりついた。ストーリーは、女の子が好きな男の子に何も伝えられなくてもただ傍にいられた事が幸せなことだった、というような終わり方で想いは成就しない。でもストーリーよりも気になったのが本に挟まれた一枚の栞だ。

『好きになったか?』

ただ一言それだけ。
誰が書いたかなんて紙には何も書いていないけれどおそらく彼なのだろう。一週間後、返却期限が訪れて足は自然と図書室へ向かった。

「あの、ユンギさん」

本を差し出しながら声をかける。

「僕も好きです!」

バーコードを押そうとした手が止まってみるみるうちに真っ赤になる。耳まで赤く染まってしまってちょっと可愛い。

「俺も、お前が好き」

聞き取れないくらいかすかな声。固まったのは、今度は俺の方だった。

「えっ、あの……この本が、だったんですけど……」

「あ、あぁ……本、そっか、そうだよな……悪い、忘れてくれ」

いやいや、忘れられないって。毎週顔合わせてんのに。

「俺が好きって……どこを好きになってくれたんですか」

「顔が、好みだったから……もう、いいだろ。勘違いした、言うつもりなかったし」

顔を隠しながら本の確認のためにパラパラと捲るとあの栞のページに行き当たったらしい。震える手でそれを取ると俺の顔に文字が書かれた面を向けた。

「これ見たのか」

「はい」

「ただの自問自答なんだ。お前を、好きになったのかって。はじめの頃にな。誰にも言えやしないから自分に言うしかなかったんだ……それを本に挟んだまますっかり忘れてた。ただ見てるだけでよかったのに、ごめん」

「そんな、僕は嬉しかったですし」

「気を使って、変に期待させるような事言うなよ……お前は俺を抱けるのか?抱けないだろ?俺のはそういう気持ちだ」

唾を飲み込む。ユンギ先輩を、抱く?俺が。あの白い肌を触って、俺の手で乱れる彼を想像する。じわりとだんだん昇ってきて頬がすっかり熱くなった。

「抱けますよ」

男は抱いたことなんかないのに俄然試してみたくなった。本を握ったままの手に自分の手を重ね合わせると、手の震えが直に伝わってきた。

「抱けるわけ、ない」

信じようとしない彼に畳み掛ける。

「なら今夜、抱きます」

そんな事を言ってその日は本当に強引に自分の家に連れ込んだ。ユンギ先輩の方も逃げればいいのに放課後の図書委員の仕事は休まないし、それが終わったら俺のいる席までやってきて、今夜はどうするのかなんて聞いてきた。

「んっ、ジョングクっ……あぁっ……ジョングクっ、好き、好き……あぁっ……あっ、あっ」

今まで会話といえる会話の量などしたこともないのに俺の上でユンギ先輩は腰を振っては鳴いている。男同士は初めてだと言ったら自分が上になるっていってこういう状況になった。普段は多くを語らないその口は今や饒舌に俺への好意を発し続けていた。

「いつから見てたんですか?僕の事を」

「そんなの……んっ、最初からぁっ……あぁっ、好き、になって、顔だけって……思うかも……あっ、あぁっあぁっ、だけど、お前のこともっと知りたくなって……んっ、はぁ」

「そんなの、はぁっ……これからどんどん知ってください、全部……っ……」

「知りたいっ、はぁっ……はぁっ、教えてジョングク……あぁっ、気持ちいっ、だめ、ああぁっ」

下から突き上げる度にユンギ先輩の性器からは液体が出続けている。表情が苦しそうに見えて律動を止めてしまえば、自ら腰動かしてくるので結局意味がなくなってしまった。気遣う余裕もなくなってきて時折背筋を伸ばして上に上がろうとするのを引き戻してまた貫く。張るように立ちあがるそれを擦ってあげたり、先の方を撫でまわすと、更に液が溢れていった。入れている部分がきゅうきゅう締め付けてきて、感度も一段と上がったようになる。

「はぁっっ……あぁっ……んっ、ただ見てるだけで、良かったのにっ、こんな風になれるって思わなかった……あぁっ、あっ」

「僕も、ユンギ先輩の事見てたんですよ。図書室に来る度に。かっこいいし、大人びてるし、それに綺麗な顔してるし。でもセックスしたらこんなにえっちで可愛いなんて。ユンギ先輩だったら、抱けるって。ね、ホントだってわかったでしょう、もう」

「ホントに?……もう、これっきりじゃねぇの?……あぁっ、んっ……っ、……はぁっ、ああぁっ」

「これからもですよ、ユンギ先輩……っ……はぁっ」

「嬉しっ……ああぁっ、あぁっ、ジョングク、待って、はぁっ、ああっ、んっ……ひぁっ、出しながら、動くなって……あぁっ、あっ、あっ、中ァ」

ぐぷぐぷと液体で滑りやすくなった肉壁に吐き出し続けていると、上からぽろぽろと雫が降ってくる。ユンギ先輩が泣いてるんだ。泣いてるところもやっぱり初めて見た。笑顔を見たときみたいに、電撃が走ったように釘付けになる。笑顔もいいけど泣いてる顔はもっと綺麗で可愛かった。

「図書室でシたらユンギ先輩どうなっちゃうのかな」

「馬鹿いってんじゃねぇよ」

数日後、いつものようにバーコードをピッと押してから、確認でページを捲る。彼の手が止まるとそこには俺からユンギ先輩へのメッセージ。

『好きになりました!』

にやけそうになったのをハッと抑えて表情を消すけど耳はまだ紅い。これからはどんなユンギ先輩が見れるのだろうか、と期待に胸が膨らんでいった。


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