三又のキューピッド
「さっき話してたヌナの事好きなんですよね?」

「は?何いってんだよ。違うから」

テヒョニヒョンの方を見ようともせずひらひらと手を振って背を向けるユンギヒョン。だけど好きなのはお前、と口の形が動いていたのを俺だけはしっかりと見てしまっていた。思いがけず知ってしまった事実に、どういう顔をしたらいいかわからなくなる。何も見ていなかったフリをしようと思って咄嗟に目を逸らしてそのまま、俺だけが秘密を抱えたまま何週間も過ぎていった。ヒョンの挙動にそれ以上の意味を勘繰るようにもなった。視線とか触りかたとか、そういう意味で好きなのだとわかったらなにもかもが違って見えてくる。ユンギヒョンはテヒョニヒョンの事が好きだったんだ、どうしようと本当に本当に動揺したけれどヒョンが喜ぶなら、と二人をくっつけようと考えた。ユンギヒョンの隣にテヒョニヒョンを誘導してみたり、まあ結局大したことできてなかったんだけど。作業室にこもりっきりのユンギヒョンを引きずり出してはテヒョニヒョンとやたらひきあわせたがった。

最近の習慣になっていた、テヒョニヒョンの隣をユンギヒョンににして絡みを増やせる誘導をしようと思って、テヒョニヒョンと場所を交代しようと一歩進めば後ろからくいっと袖を掴まれる。

「……ここで別にいいだろ」

なんで。ヒョンはテヒョニヒョンの隣にいたほうがいいでしょ?でもそれきり黙ってしまうし、手も離してくれないからまた戻った。位置が長時間固定になるまでぎゅっと握っているものだから小さくシャツにシワがついた。テヒョニヒョンとケンカでもしたのかと思ったけど笑顔で抱きついてる場面も隣で見てて不自然なところはなかったし、最近よく引き合わせるからむしろ仲良くなったんじゃないかな。仲の良さは元からそうなんだけど。またテヒョニヒョンを誘導したくて今度はジミニヒョンのところに行こうとするんだけど、やっぱりどこにも行かせてくれないユンギヒョン。結局クオズで遠くに並んでしまって、俺の隣にはユンギヒョンが並んだ。

「なんでお前は俺の事避けてんの」

避けてるんじゃなく、ユンギヒョンの協力をしようって、そう思っただけなのに。呼び出されて腕を組まれて見上げられている。俺の方が身長高いからそんなに威圧感はない。

「お前に呼ばれたから行ったのにテヒョンアと俺をその場に放置してお前だけどっか行ったりとかもするだろ。変に気になるっていうか……」

「ちょ、それは、僕はVヒョンとシュガヒョンが」

「俺とユンギヒョンが何って?」

ひょいと隣の部屋から現れたテヒョニヒョンが聞いたことの返事も待たずに、続けて外食に誘ってきたのでなんとなくその場はうやむやになった。俺は結局それを断って、ユンギヒョンもまた変にこちらを気にしているようだった。

「ユンギヒョン、最近ジョングクばかり気にしてますよね」

言葉を発するまで、食べ物に夢中だったのに急に真顔になったテヒョンアにたじろぐ。

「僕はユンギヒョンが作業室から出て来てくれて一緒にご飯食べられるの本当に嬉しかったのに食べてる間ずっとその場にいないジョングクの事ばっか気にしてて……ジョングクに来て欲しいのはわかりますけど露骨に態度に出されると僕も悲しいです」

違う、俺だってテヒョンアといれて嬉しい。ただジョングクが俺を呼ぶ癖に変に避けるようになったからそれが気になってただけで。しかし見るからにしょげている彼を見て、自分の態度も反省することになった。他人の態度をどうこう言う前に自分の態度もおかしかったのだ。気をつけよう、と考えながら乾いてしまった喉を潤す。溶けた氷がジュースの味を薄めていた。

「ジョングクの事が好きなのはわかってますけど、僕だってユンギヒョンの事が好きなんですから」

ズキリと痛む。お前の好きは俺の好きとは全然違うんだ。好きだと言われる度にその違いを思い知らされてるのを全然知りもしない。

はいはい、といった感じで流されてユンギヒョンがまた一口色が薄くなっているジュースを飲んだ。それで話はおしまい。最近ライブで同じグループになるのが多かったり、ヒョンと一緒に過ごして楽しかったのに避けるとかじゃなくただなんとなく一緒にいても自分を見ていないような感じがしていた。ユンギヒョンの視界に俺ははいってんのかな、って不安になるくらい。考えすぎかもしれないけど。普通に避けられるだけならマシかもしれないけどわざわざ一緒にいてあえて避けられているような気分にもなった。何かしちゃったのかな。謝らなきゃ、でも原因がわからない。観察して探ってもジョングクを気にしてるって事しかわからなかった。


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