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「辻ちゃん誕生日おめでと〜」
「ありがとうございます」

犬飼先輩の言葉を聞いた周りにいた人達からもおめでとうと言葉をかけられる。色んな人から祝われるというのは少し照れくさい。
個人ランク戦ロビーにはお盆でも人はやってくる。今日任務がある人や帰省して戻って来た人、特に予定が無い人。今日は特に用事もなかったので個人ランク戦をしに来ていた。夏休みは授業が無い分訓練に充てられるのでありがたい。ひと通りおめでとうとありがとうを繰り返し、さあランク戦始めようかとブースに入ろうとしたところで犬飼先輩が誰かに気付き声をあげた。

「みょうじちゃん!おはよ〜」
「おはようございます!辻くんもおはよう」
「おはよう」

犬飼先輩が呼んだみょうじさんが小走りでこちらにやってくる。みょうじさんは3ヶ月程前からお付き合いさせてもらっている俺のこ、恋人…である。所謂ボーダー内恋愛のため付き合っていることは二宮隊の人達しか知らず、みょうじさんは自分の部隊の人にも話していない。(俺も最初は隠しているつもりだったが二宮隊恒例の焼肉で犬飼先輩に吐かされた)

「やっぱりみんなお盆でも来ますよね」
「まあ暇だからね〜でもみょうじちゃんはこの後辻ちゃんとどっか行くんでしょ?」
「え?特に何もないですけど」
「え?誕生日なのに?」

え?とみょうじさんの動きが止まる。

「今日って…」
「8月16日だよ」

ハッとした顔でこちらを向き、どんどんこの世の終わりの様な表情に変わっていく。今一瞬すごい顔してた。おもしろい。

「忘れてた…」
「まじ?」
「ごめん…」
「いや、いいよ」

ケラケラ笑っている犬飼先輩とは逆にめちゃくちゃ落ち込んでいるみょうじさん。そんなに落ち込まなくても良いのに。正直祝ってほしい気持ちが無かった訳ではないけれど。

「今日何時までいる?一緒に帰っちゃだめ?」
「良いよ。あとで連絡する」

他の隊員が近付いて来たためじゃあ、と犬飼先輩とそれぞれのブースに入った。一緒に帰れるとわかった時のぱあっと明るくなった顔を思い出して頬が緩む。ここが個人ブースでよかった。



「辻くん!」
「お疲れ様」

警戒区域から少し離れたところにあるコンビニ。ボーダー本部から一緒に帰るのは流石に怪しまれる可能性があるのでいつも別々で本部を出てからこのコンビニで合流してから一緒に帰っている。

「辻くん、何か欲しいものとかない?訓練の合間に考えてたんだけど全然思いつかなくて…ごめん」
「いいよ、気にしないで。一緒に帰ってくれるの嬉しいよ」
「私の気が済まない…何か辻くんにプレゼントできるもの…シュークリーム…だけは質素すぎるし…」
「本当に気にしなくて良いから。ありがとう」

悩んでくれるのは嬉しいが、その気持ちで十分だ。本当は今からご飯でもと言いたいところだがもう遅くなってしまったのでみょうじさんの親もすでに晩ご飯の準備をしてしまっているだろう。今度どこかへ出かけようと言おうとしたら、みょうじさんがあ、と口を開いた。

「私…」
「え?」
「私ならすぐにあげられます!」
「……え?!」

私をあげる?みょうじさんを?あげる?俺に?どういう意味で?何を言っているんだ?理解が追いつかない。じわじわと顔が赤くなっていくみょうじさんはとても可愛い。いや違う、今は彼女の言葉の意味を考えなくては…ぐるぐると頭の中で真意を推測している間にもみょうじさんは「い…いらないよね!っていうか私をあげるとか頭悪すぎ…」と言い始めた。違うんだ。欲しいに決まっている。でもきっと彼女が言っているのは俺が思う「あげる」ではないはずだ。一瞬で頭をフル回転させ、心を決めた。

「じゃ、じゃあ、みょうじさんをいただきます」
「!!」

キョロキョロとあたりを見回して誰もいないことを確認してから、ゆっくりと触れるだけのキスをして、慎重に抱きしめる。何度か経験しているものの、まだ慣れないし、いまいち力加減が掴めない。もう少し、力を強めても良いだろうか。苦しくないだろうか。自分とは違う身体ということを意識してしまい、触れ合っているところから一瞬で全身に熱が広がる。恥ずかしくなってすぐに離してしまった。

「ご馳走様でした」
「どう…いたしまして…?」

平静を装ってはいるがきっと赤面してしまっているだろう。いつまで経っても格好がつかない。慣れる日なんてくるのだろうか。俺はもういっぱいいっぱいだが、みょうじさんは顔を赤らめながらも何故かポカンとした顔をしている。

「いただくって、そういう…?」
「…?」
「いや私の頭がちょっと行きすぎてて、その、邪念というか」
「邪念?」

いや、あの、とキョロキョロ視線を動かしながら言うのを渋っている。言葉を待っていると、口を開いた。

「……キス、以上…とか」
「……?!えっ、あ、いや…あのそ、そういうことは…今後、ちゃんとした形で、いずれ…」

まさかの爆弾発言にしどろもどろになりながら話すとみょうじさんは黙ってしまった。まさか自分が受け取った通りの言葉だったとは。嬉しいような期待に答えられなくて悲しいような。どうしようかと焦っていると、辻くん、と呼ばれたので再び彼女の方を見る。

「私は…辻くんだったら良いと思ってるよ。だから…その、こう言うとどう思われるかわからないけど…私に遠慮とかしなくていいから!」

…もしかしてキスから先へ進まないことを不安に思っていたのだろうか。女の子に言わせるなんて情けなくて恥ずかしい。俺は別に遠慮していた訳ではないのだが申し訳ない気持ちでいっぱいになった。彼女の不安を払拭しければ、と口を開く。

「俺は今のだ、抱きしめたりとかでいっぱいいっぱいで…その、遠慮してるとかじゃないから。不安にさせてたなら…ごめん」
「ち、違うの!不安になってる訳じゃなくて…もし遠慮してたらってこと!辻くんいつも優しくしてくれるから…」
「…遠慮も我慢もしてないよ。ありがとう。」

なら良いけど…とまだ少し満足していない様子の彼女に「手、繋いでもいい?」と聞くと頷いてくれたので、手を取って歩き出す。

「その時は、ちゃ、ちゃんと言うから…よろしくお願いします」
「…ふふ」

恥ずかしくて真っ直ぐ前を向いたまま伝えると、みょうじさんはくすくす笑いだした。やっぱり格好つかない。

「辻くんかわいい」
「……」
「好きだよ」

心臓が止まるかと思った。驚いた俺をみてまた笑っている。

「遅くなったけど、お誕生日おめでとう。」

忘れててごめんね、と付け足す彼女の手をいつもより少しだけ強く握った。俺も好きだよ、とすぐに言えたら良いのだけれど。



20190816