×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


 アラームの音を止めようと、いつものように目を瞑ったままスマホに手を伸ばす――が、スマホがない。おかしいな。音が鳴る方へ目を向けると、スマホはベッドから少し離れたローテーブルの上に置いてあった。なんであんなところにあるんだっけ。いやそれより早くこのうるさい音を止めたい。体を起こすと、空気がやけに冷たく感じた。服を着ていない。あれ、なんで。そこでようやく気が付いた。隣で寝ていたはずの諏訪がいない。
 ふたりで居酒屋を出て、うちで飲み直す? なんて下心丸見えな誘いにのってきた彼氏でもなんでもない諏訪を、お酒の力を借りて押し倒した。これまで何度も好きだと言おうとしたけれど、どうしても言えなかった。頭の片隅でこんなやり方は良くないとわかっていたけれど、止められなかったのだ。
 結果、うまくいった――と思っていたのだが、この有様だ。
 カーテンを開けるが外は雨。ベランダで煙草を吸っているわけではない。え、帰った? 本当に? 私のこと好きだって言ってたよね? 裸のままベッドを降り、アラームを止める。諏訪からのメッセージはなし。昨日のあれは、夢? いやいや、じゃあなんで私裸なの。体も痛いし。まさかヤリ逃げ……!?
 その辺に落ちていたTシャツを被る。ショックで呆然としそうになるけれど、なんとか頭を働かせる。……もしかしてお風呂!? 慌ててリビングとキッチンを隔てるドアを開けた。
「いるじゃん……」
 換気扇に向かって煙を吐く金髪の男が、こちらを向いた。
「はよ。風呂借りたわ」
 再び煙草に口をつける。動揺も何も感じられない、あまりにも自然な態度に混乱する。でも諏訪がいるってことは、昨日のあれは夢じゃないよね? 本当なんだよね? いてもたってもいられなくて、ぶつかるように思い切り抱きついた。
「おい、危ねえぞ」諏訪が慌てて煙草を空き缶に押し付ける。
「びっくりした……起きたらいないし」
 諏訪の言葉を無視して言うと、「悪い」とバツの悪そうな声が聞こえてきた。おずおずと抱きしめられ、背中に回った手の温かさに泣きそうになる。
「ヤリ逃げされたかと思った……」
「んなことする訳ねーだろ」
「わかんないじゃん、いないんだから!」
「悪かったって」
 抱きしめる力を緩め、じっと睨むと諏訪は戸惑っているような顔を見せた。
「……付き合うんだよね?」
「……おう」
「え、今の間なに? もしかして失敗したとか思ってる?」
 さっと血の気が引く。諏訪も私のことを好きだと思ったからこんな強行策をとったのに、全て勘違いだったというのか。慌てて体を離そうとすると「ちげーよ!」とすぐに腕の中に閉じ込められた。もう何がなんだかわからない。
「なんつーか……恥ずいだろ普通に」
 消え入るような声で諏訪が呟き、沈黙が流れる。諏訪の言葉を頭の中で反芻し、落ち着いて処理した。もしかして、照れてただけ? ということは、諏訪も私のことが好き、で間違ってなかったってことだよね?
「はあーよかった……」
 安心したら大きなため息とともに、一気に体の力が抜ける。現実だった。本当によかった。
「俺、昨日言わなかったか?」
「全部夢かと思った」
「夢じゃねー」
「……うん」
 夢じゃなかった。好きだと言われたことも、優しく抱きしめられたことも、体を重ねたことも全部。
 顔を上げると目が合った。恥ずかしくて目をそらしたいけどできなくて、ただ見つめ合っているだけなのにばくばくうるさい心臓の音がもっと大きくなっていく。諏訪の顔がぎこちなく近付き、そっと唇が触れた。昨日もっとすごいことをしたはずなのに、これだけで胸がいっぱいになってしまう。
「……これからよろしくね」
「おう」
 唇の柔らかさを確かめるように押し付け、ちゅ、と音を立てて離れる。と思ったらまたキスされる。やばい、止まらなくなりそう。
「……やべーな」
 触れるだけのキスを繰り返して、諏訪が呟いた。流石に気恥ずかしくなったのか、風呂入ってくれば? と言われたので少し名残惜しいがそうすることにした。
「……え、帰らないよね!?」
「帰らねーよ!」
 早く行け! と体を剥がされたので急いで準備してお風呂へと向かう。
「あ、お腹空いたらパンとか冷蔵庫のもの勝手に食べていいから」
「おう」
 シャワーを浴びながら、さっきの言葉や昨日のことが頭の中を駆け巡る。やばい。私、諏訪と付き合ったんだ。じわじわと実感がわいてくる。体の中から言葉にできない何かが込み上げて、今すぐ叫んで走り出したいくらい喜びや幸せな気持ちでいっぱいだ。お酒の勢いで、なんてあまりよくない方法だったかもしれないけれど、どんな形でも気持ちを伝えられてよかった。どうしよう、今すごく浮かれてる。

 なんとかニヤけ顔を落ち着けてお風呂から出ると、諏訪が朝ごはんを用意して待っててくれた。大雑把に具材を挟んだサンドイッチ。意外な行動にまた胸を打たれる。彼氏の諏訪、恐るべし……!
 私が知らない諏訪の一面はまだたくさんあって、これからいろんな諏訪が見られるのかもしれない。そしたらもっと好きになってしまうかも。なんて浮かれきったこと考えながら、サンドイッチにかぶりついた。



20240502