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 どれにしようかな。カフェオレか紅茶か、炭酸も飲みたいけど、開ける時のぷしゅっという音があの静かな空間に響くのは避けたい。悩んでいる間にも、背中がじりじりと焼かれるように熱くなっていく。
 テスト前の日曜日。たまたま早く目が覚めたから、勉強のために学校の図書館までやってきた。やっぱり家でやるより集中できる。しばらくすると喉が渇いたので息抜きも兼ねて外の自販機まで来たけれど、一度迷うと決められない。お腹も空いてきたし、あと少ししたら帰ろうかな。なんて考えていると、誰かがこちらへ向かってくるのがわかった。
「あ、諏訪さん」
 ひとつ上の先輩、諏訪さんだった。
「おう。珍しいな、日曜に」
「図書館で勉強してました。……あ、先どうぞ」
 迷ってるので。そう言うと諏訪さんは「いいのか? んじゃ、遠慮なく」と自販機に千円札を突っ込む。
 私が所属しているサークルの先輩の友人で、ボーダー隊員の諏訪さん。以前サークル仲間で飲んでいたところに諏訪さんたちがたまたまやってきて、みんなで飲もう! となった流れで知り合った。諏訪さんとはみんなで飲みに行ったときや、こうして会った時に軽く話したりする程度で、特に仲がいい訳ではない。知っていることも少ないし、あくまで「先輩の友人」だ。
 しかし私は諏訪さんのことがかなり気になっていたりする。意外と周りが見えているところか、さりげない気遣いができるところとか。豪快に笑った顔もいいなと思う。みんなでいる時に話すことが多いけど、ふたりだったらどんな感じなのかな。ていうか、彼女とかいるのかな。そんなこと、未だラインも聞けない私が聞ける訳もないんだけど。日曜に会えるなんてラッキーだな。早起きは三文の徳って、こういうことだろうか。
「みょうじ」
「え?」
「どれにすんだ」
 完全に上の空だった私に、諏訪さんが自販機の前から体を引いて「おら、早く押せ」と急かす。
「えー! どうしよう」
 全然決めてなかった! 慌てて目の前にあったお茶のボタンを押すと、直後にじゃらじゃらとお釣りが出てくる音。諏訪さんが自分の缶コーヒーと一緒に私の分も取り出して渡してくれる。
「すみません、ありがとうございます」
「いやいやこれくらい」
「あっ奢ってほしくて順番譲った訳じゃないですよ!?」
「わかってるよ」
 ニッと笑う諏訪さんにドキッとする。ていうかめちゃくちゃナチュラルに奢ってくれるじゃん! こういうとこだよ……この場から離れがたくなってしまう。何か話題をつくらなければ。
「諏訪さんは何してたんですか?」
「研究室の手伝い」
「日曜もやるんですか? 大変ですね」
「いや、俺はあんまやることないから」
「なるほど……?」
 研究室のことはよくわからないけれど、聞いたところで理解できるだろうか。申し訳ないから深くは聞かないでおこう。しまった、会話が終わってしまう。
「お前、いつまでいんの?」
 なんとかして足止めできないかと思っていたところに、諏訪さんが私に言った。
「あと一時間くらいで帰ろうかと」本当は結構帰りたくなってきてたけど、せっかく諏訪さんにおごってもらったし。あと少しだけ頑張らなければ。
「バイトか?」
「? いや、何もないです」
 いや勉強はしないといけないんだけど、特にこれといった用事はない。今期はレポートもほとんどないので昨日で全部提出した。というか私の予定なんて聞いてどうするのかな。私に興味を持ってくれるなら嬉しいけど、そんなことあるかな。
「じゃ終わったら飯でも行かね?」
 ちょうど昼だし。と続ける諏訪さん。めしでも……飯!?
「えっ」
「いや無理にとは言わねーけど」
「無理じゃないです! 行きます!」
 危なかったびっくりしすぎて思わず変な声が出てしまった。えっ本当に行ってくれるの?
「んじゃ一時間後に図書館の前行くわ」
「わかりました!!」
 敬礼でもしそうな、気合が入った返事に諏訪さんは笑いながら「食いてえもん考えとけよ」と言いながらゼミ棟の方へ戻って行った。
 びっくりした……! 夢じゃないよね? 私、このあと諏訪さんとご飯行くんだよね? やばい、緊張してきた。あっさり決まったけど、他に誰かいるのだろうか。でも他に人がいるなら別に私に声かけないよね? ってことはやっぱりふたり……!?
 諏訪さんの様子からして、ただちょうどいいタイミングで私がいたから誘っただけで、きっと何も特別な意味を持って誘った訳ではないと思う。食べたいものと言っても行くなら学校近くのみんな馴染みの店だろうし。けれど、現在私は諏訪さんにとって気軽にお昼に誘える相手であることは間違いないわけで。やばい、にやける。ライン聞いてもいいかなあ。
 ご機嫌で図書館に戻った私は再び勉強しようと筆記具を握ったけれど、集中できるわけもなく。どうやって自然にラインを聞き出そうかな、何食べようかな、と関係ないことを考えていたらあっという間に一時間経過してしまった。
 図書館を出ると本当に諏訪さんが立っていて、思わず飛び跳ねそうになった。バレないように一度深呼吸をして、諏訪さんを呼ぶ。



20230702