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 彼女がスマホの虜になっている。正確には、スマホゲームに、だ。久しぶりに会えたと思ったらずっとこの調子である。少し前にハマっているとは聞いていたが、最後に会った時はここまでではなかったはずだ。別になまえが何をしようが勝手だし、部屋で一緒にいても別々のことをしているなんて俺たちにとって珍しいことではないのだが。遠征選抜試験を2日前に終えた俺はなんかこう……もう少しなんか……イチャイチャとは言わないが、なんかあってもいいだろ、みたいな気持ちになっている。もちろんなまえにはただ「しばらく任務が続くから連絡が来ても返せない」としか話していなかったので、彼女がいつも通りなのは何もおかしいことではない。ないけど。
 うだうだ考えていると冷たい風が体を掠め、大きなくしゃみが出た。俺は何をやってんだと思わずため息も出る。もうすぐ4月とはいえ、夜はまだ冷える。ベランダに出るなら上着を着るべきだった。……そろそろ戻るか。なまえがゲームに飽きていることを願いながら、煙草を携帯灰皿に押しつけた。
 当然部屋に戻っても俺の願いは叶えられることはなく、とりあえず寒さをなんとかしようと風呂を借りる。今日は泊まっていくことになっているが、このままだと俺一人で寝ることになるのでは、なんて悲しい未来が頭に浮かぶ。名前を呼ぶと「んー」なんて心ここにあらずな声が返ってきた。
「風呂借りるぞ」
「はーい」
 ……いや気持ちはわかるが。俺もスマホでゲームするし、徹夜で麻雀もする。するけど。3週間近く、連絡すら取らなかったよな? 会いたいとか思ってたの、俺だけ?

 風呂から出た後も、もちろんなまえは懸命にゲームに取り組んでいる。不貞腐れてもう寝てしまおうかと思ったが、さすがにそんなことをしたら寂しさで泣いてしまうかもしれない。俺が。そろそろこっち向いてくれてもいいんじゃないですか? 変な緊張の中、ソファで脚を抱えるように小さくなってスマホを触っているなまえの横に腰掛けた。
 部屋にはただ点けているだけのテレビからバラエティ番組の笑い声が響く。あまり隣を意識しないよう、テレビの声に耳を傾ける。まあしばらく全く会えないとかいうことはないだろうし、今日は顔を見れただけ良しってことにするか。半ば強引に納得しようと自分に言い聞かせていると、肩にずっしりと重みを感じた。なまえが寄りかかってきたのだ。久しぶりの感覚に内心どきっとするが、依然視線はスマホへ注がれている。あー、奪って投げ飛ばしてえ。中途半端に触れているからか、余計に気になる。なんかいい匂いするし。自然とこうやって甘えてくるのがまた可愛くて腹立つ……つーかムラムラしてきた。俺、結構待ったよな? もういいよな?
 手を回し、向こうを向いたままのなまえを抱き寄せる。「うわっ」と声を出しながらもそのまま体重を預けてきたので首に顔を埋めると、ぴくりと反応を見せた。もっと意識しろ。
「っ、諏訪」静止の声がかかる。マジで? 俺、ゲームに負けんの? 3週間ぶりなのに?
「……いつまでやんだよ」服の中に突っ込もうとした手を止めて聞いてみる。「……あとちょっと」ってもうそれ止める気ねえやつだろ。
「もう待てねー」
 止めていた手を動かす。あーこの感触、マジで久々。手を動かしながら耳や首にキスをしていく。その間もなまえは「諏訪」「ねえ、」と俺を呼ぶ。マジでやめねーとだめ? 
 本当に、マジでやめたくないが無理にするのも嫌なので、渋々手を止める。やっぱお預けか……。腕の力を緩めるとなまえがこちらを向いた。俺の顔をじっと見たなまえが口を開く。
「なんか怒ってる?」
「怒ってねーよ」
 悶々としすぎて表情が険しくなっているのかもしれない。怒ってるっつーより……いや、言えねえ。頭に疑問符を浮かべたなまえは再び観察するように俺を見て「もしかして」と呟く。
「……構ってほしかった?」
 反射的に「んなわけねーだろ」と言いそうになるがぐっと堪えた。そんなことを言ってしまえば拗れてしまうことは間違いない。
「…………悪いかよ」
 羞恥心から思わず顔を背ける。あークッソだせぇ。なまえの方を向けなくなってしまった。どうすんだこれ。もっかい煙草吸いに行くか?
 照れ隠しに頭をガシガシとかいてなまえの方をチラ見すると、めちゃくちゃなニヤけ顔でこちらを見ていた。
「……なんだよ」
「かわいい」
「うるせー」
「ごめんね」
 言いながら、俺の首に手を回す。
「……もういいのかよ」
「うん」
 諏訪が拗ねちゃうからなとへらへらしながらキスしてくるこの女が憎たらしく、でもやっぱり可愛いと思ってしまう。これが惚れた弱みってやつか、なんて恥ずかしいことを思いながら抱きしめる腕に力を込めた。



20230214