ぐるるる。お腹から大きな音が鳴った。 「……すげー音」 「お腹すいた……」 スマホに手を伸ばし画面を見ると、もう十一時を過ぎていた。布団の中が心地よくてずっとうとうとしていたけれど、そろそろ起きた方がいいだろう。 「なんか買いに行くか?」 「うーん……」 ごそごそと寝返りをうって諏訪の体に身を寄せると、頭を撫でられる。また布団から出たくなくなるやつだ。コンビニに行くなら、今から顔を洗って、スキンケアして日焼け止め塗って眉毛だけでも書いて着替えて……考えただけでも面倒くさい。 「なんか作って……」 「なんか」 「うーん……」諏訪の体に手を滑らせて、抱きしめる。そういえば冷凍のご飯が残ってたな。いつ入れたものか思い出せないから、そろそろ消化した方がいいだろう。 「……チャーハン」 「米あんのか」 「ある」 卵もお肉も野菜も、まだ残っていたはずだ。冷凍庫にご飯があることを伝えると、わかったと返事が来る。 「えっ作れるの」 「聞いといてそれかよ」 どうやらチャーハンを作ってくれるらしい。なんとなく言ってみただけだったのに、ラッキー。呆れる諏訪に「やった〜」と頭をぐりぐりと押し付ける。諏訪が料理できるなんてなんだか意外だ。家で作ってるのかな。 「別に普通のだぞ」 「全然いい。作ってくれるだけで神」 「先に一本吸わして」 「うん」 「……出れないんですけど」 体を起こした諏訪が言う。私が手を離さないと諏訪がベッドから出られない。わかっているけど、離したくないなあ。なんて考えているとまたお腹がぐぅ、と音を立てる。だめだ、お腹すいた。仕方なく諏訪を解放するとすぐに布団から出て行ってしまった。私もそろそろ起きようかな。のろのろとベッドから抜け出し、洗面台へと向かった。 顔を洗って洗面台を出ると、諏訪がキッチンに立っていた。背中を丸めて野菜を切る姿にきゅんとしながら後ろを通り過ぎる。ものすごく抱きつきたくなったけれど、洗ったばかりの顔が干からびてしまうので諦めた。さっさと保湿をして何か手伝おう。 開けっぱなしの扉の向こうから聞こえる音をBGMに、化粧水を顔になじませる。またお腹から音が鳴った。早く食べたいな。額にニキビらしき赤みが出ているけれど見なかったことにして、残りの工程を済ませる。メイクまでしてしまおうかと思ったけれど、時間がかかるのでやめた。 キッチンでは既に炒めに入っていて、慣れた手つきでフライパンを振る諏訪が本当にその店の人みたいで笑ってしまった。こういうバイト、絶対いるよね。後ろから手を回して抱きしめると、諏訪の体が小さく跳ねて「うわっ」と声が上がった。 「危ねえだろ」 「お腹空いた〜」 「もうちょっと待て」 Tシャツの中に手を入れるとすぐに「やめろ」と口で制されるが、諏訪の両手は塞がっているので何の効果もない。何か手伝おうと思っていたのに、完全に出遅れた。できるまで暇だなあ。 「あ! ねえ、冷凍庫に餃子なかった? 食べる?」 「食べる」 ふと思い出した冷凍餃子。レンジでできるタイプを買ったはずだから、すぐに食べられる。諏訪から離れて冷凍庫を開け、レンジへ餃子を入れる。たった3分で一品。なんて素晴らしい商品なんだ。 餃子が出来上がるのを待っている間に、お皿やお箸を準備する。チャーハンのお皿も出そうと思ったら既に用意されていた。流石。 「できたぞ」 「こっちももうできるよ」 言うとすぐに、電子レンジが完成を知らせる。お皿に移して部屋に入ると、ローテーブルに用意されたチャーハンが目に入った。おいしそうじゃん! ていうか本当に料理できるんだ。付き合ってしばらく経つけれど、新たな一面が見られて嬉しい。 「茶、飲むよな?」 「うん! ありがとう」 テレビをつけ、コップにお茶を注いで部屋へ戻ってきた諏訪と共にテーブルにつく。やっと食べられる! さっきからお腹が鳴りっぱなしだ。 いただきます、と手を合わせて、いざチャーハンを口へ運ぶ。 「……おいしい」 「そりゃよかった」 「諏訪料理できるんじゃん! 早く言ってよ」 「これぐらい普通だろ」 「普通の基準が高いよ」 これが普通……? 絶対私が作ったやつよりおいしいんだけど。今まで私が作ったご飯を何も言わずに食べてくれていたけど、なんだか不安になってきた。今度から家にいる時は諏訪に作ってもらおうか。 「今日は一日空いてるんだっけ」 「おう。どっか行くか?」 「行く! 観たい映画あるんだよね」 タイトルを言うとあれか、と承諾してくれる。食べたら時間を調べよう。楽しみだな。 餃子を口に放り込む。噛むとじゅわっとうまみが広がって最高だ。これが冷凍。ありがとう企業努力。そして再びチャーハンへ。 「おいしい……幸せ」 「よかったな」 「ビール飲みたい」 「同感」 もくもくと食べながら短く相槌を打つ諏訪。ビールは冷蔵庫にあるけど今飲んだら映画の途中で寝てしまいそうだから我慢しよう。 「映画観たら飲み行こっか」 「いいな」 あっという間に今日の予定が決まる。結局いつも似たようなデートコースだけど、それが楽しい。ああでも、そろそろ遠出もしたいな。そんなことを考えていると、テレビの観光地紹介のコーナーが始まった。 「いいな〜温泉」 「……行くか?」 「行く!」 またひとつ、楽しみが増えた。 22020506 |