×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


心臓って何回動いたら死ぬんだっけ。哺乳類は生涯で心臓が動く回数が決まってるって何かで読んだ気がする。それが何回かは忘れたけど、今日で残りの回数を全て消費してしまうかもしれないと考えてしまうほど私の心臓は活発に動いていた。

「なんや今日静かやな」
「ご、ごめん」
「いやええねんけど」

大好きな彼の隣を歩いているにも関わらず会話のネタすら出せないというこの状況、少し前の自分が見たらどう思うだろうか。

三日前、私はずっと秘めてきた想いを堪えきれず隠岐くんに打ち明けてしまった。普段からかっこいいとか付き合ってとか言っていたけどあくまで友達のノリで、本気の恋する女の子オーラ(自分で言ってて恥ずかしい)は隠して来たつもりだったし、隠岐くんに言うつもりなんて微塵もなかったのに、だ。
私の言葉を黙って聞いていた隠岐くんはいつもの小さな笑みを浮かべて「いつ言うてくるんやろと思ってた」そして続けて言った「付き合おか」の一言で私の片想いはめでたく終了の鐘が鳴ったのであった。

そんなこんなで思いがけず恋人になり初めてのデートを迎えてしまった訳だが、いかんせん今まで仲間内で話したり遊んだことはあっても隠岐くんと二人きりでどこかに出かけるということが無かったため、自分がこんなに緊張するとは全く思っていなかった。ちなみに私は隠岐くんが初めての彼氏である。こんなことなら中一の時に告白してきた早川くんと付き合って経験値を上げておくべきだったかもしれない。

「ほんまにどないしたん今日、腹でも痛いん?」

普段よく喋る私がずっと何も言わないので隠岐くんに心配させてしまっている。お腹は痛くないです違うんです、緊張で話すことが何も出てこないんです。このまま居ても何も話せないならいっそのことお腹痛いことにして帰ってしまおうか、でもせっかく付き合えた隠岐くんとのデートなのに帰りたくなんかない……どうしよう。どうしようもない五文字がずっとぐるぐるしている。
返事ができずにいると、なあ、と隠岐くんがこちらに近付く。あっこれもしかしてもう帰る?って言われるやつ?そんなの嫌だ、もっと隠岐くんと一緒にいたい。…もう白状するしかない。

「ち、違うの」
「?」
「……緊張、してて。」

少しの沈黙の後、緊張。と抑揚の無い声で私の言葉を繰り返す隠岐くん。は、恥ずかしい…!人生においてこれほど穴があったら入りたいという言葉を実感することがあるだろうか。辺りを見回しても私が入れるような穴は無い。緊張でしゃべれなくなったりするキャラじゃないし、今まで友達として接してきてこんな自分を見せたことはなかった…というか私も今日知ったんだよ。
隠岐くんが何も言わないのでもしかして引いてしまったのでは…と表情を盗み見ようと視線を上げると目の前に彼の顔があった。と思ったら唇に何かが触れた。

……何が起きた。脳内が勝手にコンマ数秒前の出来事について整理を始める。遅れること1秒、理解する頭、じわじわと顔に集まる熱。

「い、いま…」
「今はあかんかった?」
「あかっ、」

あかんくないです…と咄嗟にめちゃくちゃな日本語が出てしまった。吹き出す隠岐くん。

「あかんくないなら良かった」

いたずらがうまくいったみたいな顔でにやりと笑った…何、こんな顔知らない…

「もう無理…死んじゃう…」
「それは困るなあ」

行くで、と当たり前のように私の手を取り歩き出した。
やっぱり今日、心臓止まると思う。



20190626