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 ベッドの中でメッセージアプリを開き、何の着信もないことを確認してスマホを放る。もう何回目かもわからない。
 突然恋人から「明日から二週間ぐらい連絡取れないから」と言われた。ボーダーの訓練だと言っていたけれど、普段から訓練や任務を行っているのにどうしていきなり二週間音信不通になるのか。いろいろ気にはなったが一般人の私に言えないだろうし、言えないことを聞いても仕方がないので「わかった」とだけ返事をした。
 今日で二週間と三日。普段は週に一回二人で会うか会わないか、でも学校でも会うしなんだかんだ連絡も取り合ってるから、ここまで何もないのは初めてでさすがに寂しくなってきている。でも自分から連絡することもできない。普通に電話なりメッセージなりすればいいのだけれど、こういう時、変に年上だから弱い姿は見せられないと考えてしまう。
 やっぱりこの時間じゃ今日も連絡は来ないだろうな。観念して、部屋の電気を消す。寂しい。会いたい。今何してるんだろう。訓練、まだやってるのかな。以前テレビで見た彼の隊服姿を思い浮かべる。あれはちょっとかっこよかったな。そして考えてしまった。――浮気してたらどうしよう。
 今も本当は訓練はとっくの昔に終わって、他の女の子の家にいるとか。そもそも訓練なんかなくて、ずっと別の女の子と一緒にいるとか。考え出すと止まらなくて、布団をぎゅっと握りしめる。このまま落ち込んでいく前に、寝てしまわなければ。
 突然、着信音が鳴った。大きな音にびっくりしながら画面を確認すると、ずっと待っていた相手からだった。恐る恐る画面をタップすると、ずっと聞きたかった声が聞こえてきた。
「もしもし」
「……うん」
「寝てた?」
「起きてたよ」
 声を聞いただけで泣きそうになってしまう。私、どうしちゃったんだろう。
「今から行ってもいい?」
 慶の言葉に胸が掴まれたみたいに苦しくなって、言葉が出せなくなる。電話の向こうで「駄目か?」と慶が私の反応をうかがっている。それが嬉しくて、泣きそうになっているのを悟られないよう落ち着き払った声を出した。
「大丈夫。どれくらいで着く?」
「今基地だから三十分くらいかな」
「わかった」
 じゃああとで、と電話を切る。心臓はまだどきどき言っている。そういえば今基地にいると言っていた。本当にボーダーにいたんだ。それが本当かどうかもわからないけれど、今の私にはそれで十分だった。そんなことより、慶が来る。準備をしなければ。慌てて部屋の電気をつけ、ベッドを降りた。

 ピンポン、部屋のチャイムが鳴る。――来た。緊張で再びどきどきし始める胸をなんとか落ち着かせて、玄関へ向かった。
「よう」
「……久しぶり」
 思わず抱き着きたくなるのをぐっとこらえて「寒いから入って」と慶を迎え入れる。
「なまえさん、」
「お茶淹れるから、座ってて」
 緊張のあまり慶の言葉を遮ってしまった。ケトルのスイッチを入れ、お湯が沸くのを待つ。私、今までどうやって接してたっけ。こんなに混乱するなんて本当にどうかしている。お湯が沸くまでになんとかしなければ。それでも慶の顔を見たら平静を保っていられる気がしない。
「なまえさん」
 部屋に行ったはずの慶がキッチンへ戻ってきた。ちょっと待って、心の準備が。どうしようと内心焦る私をよそに、再び慶が名前を呼ぶ。腕を引かれ、腕の中に閉じ込められた。じわじわと彼の体温が服越しに伝わってきて、どきどきと同時に心が落ち着いていくのを感じる。ずっとほしかったもの。慶がはあ、と大きくため息をつくのが聞こえた。
「この感じ久しぶり」
「うん」
 そっと、慶の体に手を回す。
「やっと会えた」
 拗ねたように「終わったと思ったらすぐ任務入ってさあ」と腕の力を弱め、頬に唇を寄せる。「まあそのおかげで良いこともあったんだけど」少し話してはキスを落としていくその行動がまるで私に甘えているようで、とても愛おしい。先程までの憂鬱な気持ちはいつのまにかどこかへ行ってしまった。我ながら単純だな。最後に唇が触れ合って、名残惜しそうに離れる。
「……浮気されてるのかと思った」
「は? なんでだよ」
「全然連絡来ないから」
 しまった。調子に乗って余計なことを言ってしまったかもしれない。丁度ケトルが音を立て始めたので「お茶、淹れるね」と腕の中から出ようとするとぐっと腰のあたりをホールドされた。抜け出せない。
「あとでいい」
「でも、」
 有無を言わさず口を塞がれた。抱きしめる腕の力が強くなり、キスも深くなっていく。これは"浮気なんかしていない"の意思表示だと思っていいのだろうか。
「……してないからな」
「うん」
 ふふ、と思わず笑ってしまって、慶が「なんだよ」とむくれる。それがまた可愛くて、こちらから唇を奪ってやった。驚く彼に言ってやろう。寂しかったんだって。



※SS会 第5回WT に提出
 テーマ:年下の彼