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隣の席の辻くんは無口でクールなイケメンだ。きれいな顔と高校生らしからぬ落ち着き、加えてボーダー隊員とくれば女子が興味を持たないないわけがない。隣のクラスの奈良坂くんより目立ってはいないが、彼に近付きたいという女子は確実に存在する。

「クールなイケメンボーダー隊員」という点は全く同じなのに、奈良坂くんの方が圧倒的にモテている。その理由は多分これだ。

「辻くん、ちょっといいかな…」
「……」

辻くんは女子を全く相手にしない。というかめちゃくちゃ避ける。
今も昼休みになってすぐ辻くんの元に女の子がやってきたというのに、女の子が辻くん、と言ったか言わないかのところで辻くんはすぐに席を立って教室を出て行ってしまった。取り残された女の子をまじまじと見ることはできないので彼女がどのような表情をしているかはわからないが、きっと悲しい顔をしているに違いない。お弁当を持っているのでお昼に誘いたかったのだろう。奈良坂くんなら、というか普通は話しかけられれば要件くらい聞くだろうし、話したくないなら今急いでるとかなんとか言うことはできるはず。それさえ無くただ逃げられるというのは想像すると結構つらいと思う。

ちなみに私は辻くんと隣の席になって一週間経ったが、あいさつすら返してもらえていない。



下駄箱に向かうと、靴を履き替えている辻くんが居た。
どうせあいさつしても返してもらえないだろうけど、何も言わないのもなあ。

「辻くんばいばい」
「……」

辻くんはこちらに見向きもせずその場を立ち去ろうとする。
……私の声絶対聞こえてたよね今。

「辻くん!」
「!?」

思い切り腕を掴むと、勢いよくこちらを振り向いた辻くんと目が合った。…と思ったらすぐに逸らされた。

「あのさ、あいさつぐらい返そうよ」
「……っ、」
「私辻くんに何か嫌なことした?」
「え、あ…ご、……ごめ…」

今にも消え入りそうな声で謝る辻くん。……あれ、何か顔赤くない?

「ごめ、あの、手……」
「逃げないなら離す」
「逃げ…ません」

声は小さいわ吃るわであまりにも怯えている様子の辻くんに申し訳なくなり、いきなり掴んでごめん、と辻くんの腕から手を離した。これじゃ私がいじめてるみたいだ。ていうか辻くんてこんなキャラだっけ?

「私、辻くんの隣の席のみょうじです」
「……知ってます」
「辻くんが女の子と話したくないのは知ってるんだけど、さすがにあいさつも無視されるのはつらいと言いますか」
「……」
「私辻くんに何かしたのかなって」
「……」

辻くんは何も答えてくれない。

「せっかく隣の席になったんだし、少しくらい話してくれてもいいんじゃないかなあと思いまして。…あと私あんまり勉強できないから授業中とか助けてくれたら嬉しいです」
「……」
「……あー、えっと。ごめん、やっぱり何も聞かなかったことにして。あいさつも無視で良いから…引き止めてごめんね、また明日!」

強制的に会話を終了して(そもそも会話になっていたかどうかも怪しいが)靴を履き替える。流石に心が折れた。ただ辻くんと話してみたかっただけなんだけどなあ。普通隣の席に座ったら何かしら話するじゃん、辻くんじゃなくても話するじゃん。そんな頑なに無視する必要ある?私何もしてなくない?あいさつ返してって言うの、変だったかな…いや確かに小学校の先生かよって感じだけど、

「っあの!」

恥ずかしくなって下を向いて立ち去ろうとしたら辻くんが大きな声を出した。びっくりした…今、私に話しかけたんだよね…?再び辻くんの方を向くと、これでもかという程赤面している辻くんと目が合った。が、またすぐに逸らされた。

「あの、俺、」
「?」
「お、女の子…にがっ、苦手で」
「……?」
「うまく話せなくて…ごめん」

地面に向かって消え入りそうな声で話す彼は、いつものクールな辻くんと同一人物なのかと疑いたくなるほどいっぱいいっぱいになっている。

「…意外」
「よく言われる…」
「女嫌いなんだと思ってた」
「き、嫌いって訳ではないけど…うまく話せない」
「今話せてるじゃん」

一瞬驚いた顔を見せ、…そっか、と少し表情を和らげた辻くんは普段のツンとした雰囲気とは全然違って、なんというか…とても可愛らしい。いつも女の子を避けてたのは、こうなっちゃうからなんだろうな。隠さなくても引かれたりしないと思うけど…むしろ今よりモテるんじゃないか?

「少しずつで良いからさ、仲良くなれたら嬉しい」
「……うん」

ほんのり赤い顔で、少しだけ目を細めて笑ってくれた。とても柔らかくて、優しくて、胸がじんわり暖かくなる。…なんだ、この気持ち。

「引き止めてごめんね。じゃあ、また明日」
「うん」

ばいばい、と言うと同じ言葉を返してくれた。誰とでも交わすいつもと同じただのあいさつだけど、なんだか特別なものに感じる。
明日、おはようって言ったらまた同じように返してくれるだろうか。驚かせないようにあまり大きな声を出さないように気をつけよう。宿題やってきた?って聞いたら会話に繋がるかもしれない。もしかしたらまた顔を赤くするかもしれないけど、その顔は他の人には見せたくないな。今別れたばかりなのに、もう明日辻くんと話すことばかり考えてしまう。落ち着いていて冷たい、これからずっと話すことはないかもしれないと思っていた辻くんは実はとても恥ずかしがり屋で可愛くて、とても優しい顔ができる男の子だった。
明日、教室で会うのが楽しみだ。



20190703