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「肉まん食べたいな」
 今の今まで達人くんと会話をしながら歩いていて、食べ物のことなんて何一つ考えていなかったのに、不意に目にした「中華まん」の文字に意識を全て持っていかれた。
「入る?」私の視線の先を辿って、理解した達人くんが足を止める。
「いいの?」
「あたりまえやん」
 行きすぎた道を戻って、コンビニに入る。俺も食いたなってきたわ、という声が聞こえてなんだか嬉しくなった。
「あ」
 ケースを見て、思わず声を漏らす。肉まんが一個しか入っていない。他はピザまんとあんまんが残っているけれど、完全に肉まんの口になってしまっているし、達人くんもきっと同じだろう。
「はんぶんこする?」
「俺ピザまん食うからええで。なまえちゃん肉まん食べ」
「え、いいの?」
「うん、ピザまんもええな〜思てたし」
「本当?」
 お礼を言って、二人でレジで肉まんとピザまんを注文する。ケースから出てきた彼らが袋に詰められ、私たちのもとへやってくる。やばい、テンション上がってきた。早く食べたいな。そわそわしながら会計を済ませ、コンビニを出る。達人くんが「座って食べよう」と言うので近くの公園へ足を向けた。

「やった、ありがとう」
 ベンチに腰掛け、達人くんが肉まんを渡してくれる。やっと食べられる! とにやにやしながら受け取った。
「めっちゃ嬉しそう」
「バレた?」
「コンビニからずっとそわそわしてた」
 そんなに顔に出ていたか。恥ずかしいけど仕方ない、食べたかったんだから。気を取り直して紙の袋から肉まんを取り出す。まだ暖かくて、顔が緩む。形が崩れないよう半分に割って、達人くんに差し出した。
「はい」
「ええの?」
「うん、どっちも食べた方が楽しいじゃん」
「ありがとう」
 ほな俺も、と達人くんもピザまんを半分にして、私に渡してくれる。「ありが、」お礼を言ってピザまんを受け取るため手を出そうとした……が。
「持てない」
「……ほんまやな」
 お互いが両手に半分にしたものを持っているため、手が塞がっている。え、なにこの状況。
「ふ、ふふ」
「こんなことある?」
 達人くんの言葉に余計おもしろくなって、笑いが堪えられなくなった。「あかん、なんも考えてへんかったわ」「ほんとに……ふふ」これ以上笑ってしまうと大切な肉まんを落っことしてしまうかもしれないと、なんとか落ち着かせた。
「は〜やばい。どうする?」
「ほなこのまま食べ」
 ずいっと、達人くんが半分のピザまんを差し出してくる。このままって、まさか。
「あ〜ん」真剣な眼差しでこちらを見る。や、やっぱり……? いやでも、これは流石に恥ずかしい。戸惑っていると「はよせな冷めるで」と急かされる。……周りには誰もいないし、今くらいいいかな。
「い、いただきます」
「どうぞ」
 思い切って、おいしそうな断面にかぶりつく。顔を離すとチーズが伸びて、すぐに千切れた。
「おいしい〜」
 ピザまんもいいね、と達人くんを見ると、もう片方のピザまんを咀嚼しながら険しい顔でこちらを見ていた。
「やばい」
「うん、たまに食べるといいよね」
「かわいすぎんねんけど」
 思わず吹き出しそうになる。達人くんはいつも「かわいい」が唐突だ。判断基準もよくわからない。
「な、なにが」
「なんか食いしん坊って感じでかわいいやん」
「それ褒めてなくない!?」
 確かに両手に肉まん持ってるけど。なんなら肉まん持ったまま人のもの食べたけど。食いしん坊はかわいいと言えるのだろうか。相変わらず達人くんのかわいいの基準はわからない。わからないけれど、達人くんの言葉だから喜んでしまう。
 私が勝手に恥ずかしがっている間に、達人くんはピザまんを完食していた。慌てて自分が持っていた肉まんの片割れを渡すが、受け取ろうとしない。
「あ〜んしてくれへんの?」
「えっ、手空いてるじゃん」
「空いてへん」
 堂々と嘘をつく達人くんがおかしくて、くすくす笑いながら差し出す。ばくり、大きな一口が肉まんをほとんど持っていった。
「うまい」
「よかったです」
 もう自分で持てるでしょ、と今度こそ達人くんに渡して自分のを味わう。少し冷めてしまったけれど、じゅうぶん美味しい。ふわふわの皮とお肉の味、あとたけのこがしゃきしゃきするのもすきだ。まだまだ肉まんの季節だな。
「こっちはもうええの?」
「……食べたいです」
 達人くんの手に残された、私のかじった残り。はい、と渡されたので受け取ろうとすると「ちゃうやん」と引っ込められた。
「あーんやろそこは」
「えっ」
 これを食べ切るには、まだ時間がかかりそうだ。



20210328