×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


「……わかった」
 明らかに納得していない声を出しながらも、了承してくれたことにホッとする。「悪い」「今度埋め合わせするから」他に言葉が見つからず、同じような台詞を繰り返していると「わかったから。じゃあね」と電話を切られてしまった。電話の向こうで腹を立てているであろう彼女が目に浮かぶ。小さく息を吐いて、スマホをポケットにしまった。

「遅かったな」
「悪い」
「まだ時間じゃないから大丈夫だよ」
 作戦室に入ると、既に隊員達がミーティングを始めていた。すぐに換装して、ミーティングに混ざる。任務自体はいつもと変わらないので、エリアや配置の確認をして早めに現場へ向かった。
 配置に付き、周囲を警戒しながら朝の出来事を思い出す。
 本来、今日はオフで、彼女と会うはずだった。出かける準備をしているとボーダーから「防衛任務に欠員が出た」と連絡があり、すぐにチーム全員が揃う自分達が急遽任務にあたることになった。すぐに会えなくなったことを彼女へ連絡したのが、冒頭のやりとりである。
 基本的にボーダーのシフトは予備の人員も待機しているためオフの日に駆り出されることは滅多にないが、たまにこういうことが起こる。オフが無くなること自体は仕方ないと思っているし、出られると言ったのは自分だ。ボーダー隊員である以上、任務に出られるなら出るのが正解だと思っている。もし人員が足りず、万が一近外民が危険区域外に出てしまったら。そんなことは許されない。
 それでも彼女との約束を破ってしまったことに罪悪感が募る。しかしこればっかりは。いやでもーーこれ以上余計なことを考えると、集中を欠いてしまう。武器を握る力を緩め、深く息をしてまた握り直した。

 任務は滞りなく終わり、すっかり日も暮れた。彼女は夕飯を済ませた頃だろうか。どうしても心苦しさがなくならなかった俺は自宅ではなく、彼女の家へ向かっている。家に行くことは伝えていない。「来なくていい」と言われたらなす術がなくなるからだ。
 どうしても今日のうちにすっきりさせておきたい。自分でも勝手だと思うが、このままだと明日どんな顔をして学校で会えばいいかわからない。
 彼女の家に到着し、緊張しながら電話をかける。いつもより長いコールの後、戸惑っているのか、それとも不貞腐れているのか、いつもより随分と小さな声が聞こえてきた。
「……もしもし」
「今、家か」
「そうだけど……」
「少し、出てこられないか」
 彼女の家の前にいることを伝えると「なんで、」と言いながらも出てきてくれた。
「悪い。いきなり」
「……任務は?」
「もう終わった」
 会話が止まり、沈黙が流れる。俺にかける言葉を考えているのかもしれない。これ以上気まずくなってしまう前に、こちらから口を開いた。
「今日、ごめんな」
「……わかったって言ったじゃん」
「わかったって顔じゃないだろ」
 反射的に出た言葉に、彼女の表情が険しくなる。しまった、気付いた時にはもう遅い。慌てて「悪い」と付け足すが、何の効果も得られない。こんな顔をさせるためにわざわざ来た訳ではないのに。
「……わかってるよ、仕方ないことだって」
 俯き、自分の手元を見る彼女。ボーダーの活動を理解してくれているからこそ耳が痛い。今日のことは俺が悪い。俺が悪いとわかっている。わかってはいるが……また堂々巡りだ。とにかく、何か声をかけなければ。しかし何を言うのが正解か。必死に考えていると、彼女が呟いた。
「わかってるけど……楽しみにしてたんだもん」
 下を向いたまま、拗ねたような声を出す。予想外の言葉が飛んできて、ガラにもなくドキッとした。責めるでもなく、ただ俺に会いたかったと言う彼女がどうしようもなく可愛く思えて、"申し訳ない"とか"それでも任務が"とか今の今までごちゃごちゃと考えていたことが嘘のようにどうでもよくなってしまった。俺はこんな単純な男だったのかと自分で驚きながら、顔に手を伸ばす。
 頬に触れると、いろんな感情が混ざってくしゃくしゃの顔がこちらを見る。この顔は結構好きだ。
「……なに笑ってんの」
「別に」
 知らないうちに顔に出てしまっていたらしい。誤魔化すようにキスを落とす。唇が離れるとまた目が合って、額を胸にぶつけてきた。
「ずるい」
「何が」
「……許したくなる」
「許してくれないと困る」
 体を抱き寄せて、頭を撫でる。ボーダーの活動をやめることはできないが、こいつも離したくない。自分勝手で欲張りだとわかっていても、譲れない。
「……もう一回してくれたら許す」
 腕の中の彼女が可愛いことを言うもんだから、また笑ってしまう。こんなことで許してくれるのなら、いくらでもしてやろう。まだ少しむくれる彼女の口を、できる限り優しく塞いだ。



20210227