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 いつもより深くて長いキスのあと、ゆっくりとベッドへ押し倒される。背中を支えていた手が服の上から体を這い、くすぐったいような、もどかしいような感覚に体が跳ねそうになる。気付かれるのが恥ずかしくて、誤魔化すように荒船のシャツを掴んだ。
 耳の後ろ、首筋、喉、とキスが落とされ、制服のシャツのボタンに手がかかる。心臓の音がうるさい。顔が熱い。シャツを握る手も汗ばんでいる。これ以上どきどきしたらどうなってしまうのだろう。ひとつ、ふたつとボタンが外され、緊張もどんどん大きくなる。みっつめに手がかかったところで思わず「待って、」荒船の動きを止めてしまった。

「どうした?」
「荒船が先に脱いで」
「なんで」
「は、恥ずかしいから」

 荒船は少し黙って「わかった」と言うと、きっちり締めていたネクタイを素早く緩めた。漫画やドラマでかっこいい人がやっている「かっこいい仕草」は荒船がやっても様になるんだなあ、と緊張から解放されてノーテンキなことを考えているうちに、荒船はシャツのボタンをふたつ目まで外していた。いつも正しく、かっちり着用されている荒船の制服が乱れ始めている。意識したのもつかの間、荒船は首の後ろの襟を掴んで勢いよくシャツを脱いだ。インナーを着ているとわかっていてもドキッとしてしまう。そのままインナーも同じようにベッドの横に脱ぎ捨ててこちらを見た。……ちょっと待って。

「これで良いか」
「よくない」
「は?」

 初めて見た荒船の体は、それはもう見事なものだった。無駄な脂肪がないとかそういう問題じゃない、想像の遥か上をいく仕上がり。聞いてない。荒船の体についてそこまでしっかり考えたことはなかったけれど、ただぼんやり適度に筋肉がついていそうだな、腹筋はうっすら割れているかな、くらいに思っていた。うっすらどころかくっきり割れているし、腕だってよくわからない場所に筋が入っている。いかにも鍛えられた体だった。

「体できすぎじゃない……?」
「普通だろ」
「どこが!?」
「運動部のやつらだってこんな感じだぞ」
「知らないよ見たことないし!」

 運動部どころか同い年の男子の体なんて見たこともない。これって本当に普通なの? どちらにしてもすごいことには変わりない。じろじろとその素晴らしい肉体美を眺めていると「あんま見んな」と手で目を覆われてしまった。
 いつか荒船とこうなることを考えてはいたけれど、荒船の体が想像をはるかに超えてきたことで急に不安が襲ってきた。荒船は普段から鍛えてて、見惚れてしまうくらい体もかっこいい。それに比べて私はどうだ。特別スタイルが良い訳でもなく、むしろ平均より肉付きが良い方だ。運動らしい運動なんて体育の授業でしかしていない、怠けきったこの体。荒船はこんな私の体に満足するのだろうか。もし勃たなかったら? ……ショックで立ち直れないかもしれない。

「……私、荒船に見せられない」

 ボタンが外されたシャツの首元を掴む。言ってしまった。どうしよう。こうなる前に荒船は何度も本当に良いのかと聞いてた。私は大丈夫だと言った。大丈夫だと思っていたのに。それがこんなところで止めてしまうなんて。

「……お前が俺に見せたくねえってんなら、無理強いはしない」
「見せたくないとかじゃ、」
「さっきも言ったけど、お前がしたくないならしなくていい」

 やってしまった。荒船を傷つけたかもしれない。慌てて「違うの」と声を上げる。

「荒船が嫌とか、したくないとかじゃなくて……」

 言葉が詰まる。何を今更、と言われるだろうか。こんなことを言うのも恥ずかしい。やっぱり止めなきゃよかった。でも幻滅されるのは嫌だ。恐る恐る荒船の方を見ると、思いきり目が合う。きっと私の言葉を待っている。掴んだままになっていたシャツを強く握った。

「私の体……見たら、幻滅されるかもって……思って」

 改めて言葉にすると恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいになる。どんどん声が小さくなって最後まで荒船に聞き取れたのかはわからない。荒船から目を逸らし、黙って反応を待っていると、短い溜息のあと「お前なあ……」と荒船が口を開く。やっぱり呆れた? それとも今更何を、と言われるだろうか。

「好きなやつの体に幻滅もクソもねえだろ」

 返ってきたのは「呆れた」でも「今更何を」でもなかった。思わず顔を上げると、少し照れながら「何を当たり前のことを言わせるんだ」みたいな顔でこちらを見ている。好きなやつ。そっか、好きなやつ、かあ。先程まであんなに不安だったのに、今はもうぽかぽかと荒船への愛おしさで胸がいっぱいになっていく。荒船に触れたくてしょうがなくて、「荒船〜」と情けない声を出しながら胸に飛び込んだ。

「私も好き」
「知ってる」

 言いながら私の背中に手を回し、抱きしめ返してくれる。胸にぐりぐりと頭を擦りつけてぎゅっと腕に力を入れた。
 触れている感覚がいつもと違う。目の前にあるのが何も纏っていない荒船の肌だからだ。手のひら以外の、初めて触れる荒船の肌。もっと触れたい。もっと近付きたい。既にいっぱいだったはずの胸がどんどん膨らんで、破裂してしまいそうだ。

「続き、しよう」

 いてもたってもいられなくなって、口に出していた。荒船は「無理しなくていいから」と気遣ってくれるが、無理してない! と食い気味に答える。
 私、おかしいのかな。さっきから考えていることがころころ変わって、きっと荒船だって困っている。それでも、今この気持ちを大切にしたい。

「わたし……荒船としたい」
「本当に良いんだな」
「うん。でも恥ずかしいからあんまり見ないで」
「…………善処はする」
「えっ……んぅ、」

 善処って、と抗議間もなく唇を塞がれ、また深いキスがやってくる。もう抵抗はしない。だって荒船が幻滅なんてしないって言ってたし。まだ緊張はするし、行為自体も怖くない訳じゃないけど、荒船となら大丈夫だと思わせてくれたから。
 唇が離れ、中途半端に外されていたボタンに再び手がかかる。




200824