×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


 そわそわと落ち着きなく周囲を見渡す。みょうじさん、そろそろ来るかな。いやまだ15分前やん、俺が早よ着きすぎや。今日はどんな服着てくんねやろ。いつものコンビニの服も良いけど私服やとまた雰囲気変わってええ感じやねんな。この前の制服も良かった。……あかん鼻の下伸びそう。
 今日はとうとう三回目のデート。楽しみ半分、緊張半分。
 みょうじさんと会うのはこの前一緒に帰った日以来だ。あれがあってから何となく気恥ずかしくてコンビニに行くのをやめていた。あの青年とはどうなったか死ぬほど気になるけど、聞いていいものか悩む。流石に彼氏がいるとわかればもう何もしないとは思うけど勝手に心配してしまうし、恋敵がいるこの状況はかなり焦る。実際俺彼氏ちゃうし。
 そして今日の緊張にはもう一つ理由がある。というかこちらが主なのだが。
 俺は今日、みょうじさんに告白する。
 この前手を繋いだ時に思った。俺はほんまにみょうじさんが好きや。だからこそ正々堂々と手を繋げる関係になりたい。理由がなくても会える関係になりたい。それにこの前はたまたま俺が店に行ったから助けてあげられたけど、俺があの場に居なくても電話して呼ぶとか、頼ってもらえるようになりたい。デートだって現地解散じゃなくてほんまは家まで送りたい。
 まだ早いかも、とも思ったけど、気持ちを伝えたらみょうじさんに男として意識してもらえるかもしれへんし。ほんまに無理って言われたら諦める。でも勝手に手繋いだりしたのにまたこうして二人で会ってくれてるってことは嫌われてはないと思うし、完全な負け戦ではないはずや。俺はやるで!

「生駒さん」
「……みょうじさん、こんにちは」
「こんにちは」

 考え事をしていたら急にみょうじさんが現れた。びびった。今日も可愛い。「待たせてしまいましたか?」ってまだ5分前やから全然大丈夫やで。ええ子やなあ。
 行きますか、と二人で目的のお店に向けて歩き出す。告白するなら三門市外のなんかええ感じのデートスポットにしようかめっちゃ迷ったけど、カッコつけすぎても逆にアレかなと思って普通に飯に誘った。デートスポットは付き合ってから行くねん。……あかんフラグ立ってまう。とにかく俺はみょうじさんと会えるならどこでも楽しいし嬉しいからええねん。

 それにしても、並んで歩くとこの微妙な距離がもどかしい。今まではなんとも思わなかったのに、手を繋げる距離を知ってしまったせいでやけにみょうじさんが遠く感じてしまう。さりげなく、やり過ぎない程度に近付こうとすると手が触れそうになり、またすぐに距離をとる。

「っ、すいません」
「いえ……」

 言うてる間にやってもうた。あかん、セクハラやん。こんな調子で大丈夫か俺。このままではみょうじさんの手を何度も叩いてしまうと思い、近付くことは諦めた。


「……結構並んでますね」
「ですね……」

 ちょうどお昼どきということもあり、お目当ての店には行列ができていた。そんなに人気の店だったのか。
 
「どうします? 並びますか?」
「えっと……どっちでも大丈夫です」

 ……そうなるよな。今日は俺が提案した店なので気を遣ってくれているのだと思う。みょうじさんが行列並びたい派ならいいが、そうでないなら苦痛だろう。正直俺は並ぶ派ではない。でもこの時間ならどこも混んでるかもしれないし、みょうじさんがここの飯を楽しみにしてくれていた可能性もある。……どうしよ。

「みょうじさんは行列並ぶ派ですか?」
「……えっ、と、」
「ほな、せーのでいきましょう」

 正直に言ってくださいね、と念押しして、「せーのっ」

「並ばない」
「並ばない」

 見事に声が揃った。恐る恐る答えたみょうじさんの顔がぱっと花が咲いたように明るくなる。……あかんやろ。

「あはは、綺麗にハモりましたね」
「ほんまに。行きますか」
「はい」

 やばい、心臓バクバク言うてる。意見が合って嬉しいのもあるが、彼女の笑った顔がとんでもなく心臓に突き刺さった。今の表情の変化やばいやろ。可愛いとかいう次元超えてんねん。可愛い以上の言葉があるなら教えてくれ。
 
「生駒さんは苦手な食べ物とかありますか?」
「ないです、僕なんでも食べるんで」
「じゃあ好きな食べ物は?」
「なんでも好きですけど……カレーとか?」
「カレー良いですね、カレーあるとこ探しましょうか」

 いやみょうじさんの食べたいものを、と言ったが「前譲ってもらったので……」と返される。律儀な子やで。その後すぐに「あっでもカレーの気分じゃなかったら違うのでも大丈夫なので!」慌てて付け足すとこも素敵や。

「カレーって聞いたらめっちゃカレーの口なりました」
「本当ですか? よかった」

 近くに俺が目をつけていたカレー屋があることを思い出したので、そこへ行くことになった。店に向かう途中「カレーって無性に食べたくなる時ありますよね」とはにかむみょうじさんが可愛すぎてカレーに嫉妬した。

 
「おしゃれなお店ですね」
「そうなんですよ。うまそうやし行ってみたかったんですけど、オシャレ過ぎて一人で入りづらいと思ってて」

 店はカレー屋というよりはむしろカフェのような外観で男一人で入るには抵抗があり、いつか誰かと来ようと思っていた。まさかみょうじさんと来られるなんて。
 中に入ると外観通り洒落た作りになっていて、カップルや女性客が多い。……間違っても一人で入らなくて良かった。
 店内は混んでいたが待つことなくテーブルに案内され、二人共ほとんど迷うことなく注文を決める。……毎回思うけど、こうやって向かい合うとちょっと緊張する。いろんなみょうじさんが見れるのは嬉しいけど。今日も店内キョロキョロ見回して可愛いなあ。
 いや可愛いなあちゃうねん。可愛いのは間違いないけども。俺は今日告白すんねん。あかん告白すること考えたら緊張してきた……どう切り出したらええねん。いろいろ考えたが、どうやって話し始めるのがベストなのか結局決められずに今日を迎えてしまった。ほんでここカレー屋やし、ムードもクソもないで。どうすんねん。え、やばない?

「生駒さん、何かありました?」
「えっなんでですか?」
「すみません、急に顔が険しくなったので……」

 あかん、これ以上顔険しくなってどうすんねん。みょうじさんがびびってまうやんけ。

「ほんまですか? なんもないですよ。むしろニヤけてません?」
「……真顔に見えます」
「おかしいなあ、心はウキウキなんですけど」

 ふふ、とみょうじさんに笑顔が戻って安心する。カレー楽しみですね、やって。可愛い。ほんまに、と返して俺がウキウキなのはみょうじさんがいるからです、と心の中で付け足した。
 とりあえずここで告白は無しや。勝負は店出てからやで。

 そこからはもう楽しい、うまい、可愛いで最高の時間だった。
 家で食べるカレーに何をかけるか、カレーの具はどれが最強か、朝カレーはありかなしかなど、カレー談義で盛り上がり最終的に「カレーはなんでもうまい」で落ち着いた。「カレーの話したら最終的にカレー最強で終わるの、あるあるですよね」と言うと今日一の笑顔が出て、頭の中で思いきり拳を突き上げた。なんか、こういうなんでもない会話ができるのって、ええよなあ。
 みょうじさんは一緒にいてドキドキするけど変な緊張感はなくて、心地いい。会うたびもっと一緒にいたい気持ちが強くなる。こう思ってんのは、俺だけなんかな。みょうじさんも同じこと考えてたら良いのになあ。


 店を出て、二人でなんとなく歩き始める。
 いままではどちらかがこの後何かしらの用事で帰っていたが、俺は今日何もないし、みょうじさんも特に何かあるとは言っていなかった。そして日はまだ落ちそうにない。つまり、まだみょうじさんと一緒にいられるということだ。
 これはチャンスや。次はなんか洒落たカフェとか行っていい感じの空気出して告白する。ええやん、まずはカフェに誘う! 俺はやるで!

「っみょうじさん!」
「はい」
「…………もう一軒、どうですか?」

 いや居酒屋かて。



200629