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※事後
※太刀川さんが割とクズ



自身の欲を吐き出したそれを処理して、ベッドの上に倒れ込んだ。特有の倦怠感がやってくる。ぼうっとする頭を起こすことはせずそのまま眠りにつこうと意識が半分消えかかった所で、熱を共有していた相手がベッドから出ようとするのが見えた。

「…どこ行くんだ」
「お風呂」

結構あっさりしているんだな、と思った。特定の相手がいない太刀川は複数の女と身体の関係を持っているが、いつも事が終わると抱きついてきたり、執拗に話しかけてきたり、もう一度をせがんだりと、まるで恋人のようなコミュニケーションを取ろうとする。太刀川はこれが煩わしく、セックスの後のこの時間が好きではなかったのだが、今日の相手はすぐに寝させてくれるらしい。
今日の相手は大学で知り合った、ただの友人だった。授業をすっぽかした時に代理で出席を取っておいてくれたり、テスト前にノートを見せてくれたりする、ただの友人。
その友人が部屋を出ていくのを見送った後再び眠りに就こうとしばらく目を瞑っていると、ぼんやりと先程の乱れた姿が頭に浮かんだ。意外とおっぱいが大きかった、パンツがスケスケだった、声を堪えているのが結構キた…あまり活発に働いていない頭で考えるのは幼稚なことばかりだったが、その彼女が今自分の隣に居ないことを物足りなく感じた。

「げ、入ってこないでよ」
「まあそう言うなって」

言いながらなまえの背中とバスタブの隙間に身体をねじ込んだ。観念して太刀川のスペースを空けようとするなまえを後ろから抱えるように引き寄せる。何、という問いかけには答えずゆっくりと身体に手を這わせた。
脇腹から始まり、下腹の少し膨らんだ部分を摘んでは離してを繰り返し、胸に向かう。やわやわと形が変わるのを楽しんでから指で円を描いて、滑らせるように内腿へ向かうと制する声がかかった。

「ちょっと、今日はもう無理だからね」
「わかってるって。俺も疲れた」
「触り方がいやらしいんだってば」
「感じた?」
「…もう出る」

バスタブから出て行こうとするなまえを止め、「まだいいだろ」と再び同じ体勢に戻す。

「いつもはヤったらすぐ寝るんだけどさ」
「知らないよ」
「今日はなんか違うんだよな」

今度は二の腕の辺りを往復している。

「こういうのも悪くない」
「…なにそれ」
「俺にもよくわからん」

つう、と首を舐め上げると、なまえは勢い良く太刀川から離れて立ち上がり「ちゃんと身体洗いなよ」と言って浴室から出て行ってしまった。一人取り残された太刀川は可愛いところもあるじゃないか、と口元に笑みを浮かべた。

風呂を出たなまえは髪を乾かしながら冷静さを取り戻そうと必死になっていた。
今の会話はまるで、なまえが特別だと言っているみたいではないか。都合の良い解釈をしそうになるが、あの男に限ってそんなはずは無い。太刀川は好きでもない女を抱けるし、今日の相手は自分じゃなくても良かったのだ。偶然飲んでいた場所がなまえの家の近くだったから。偶然終電を逃したから。偶然なまえが家に居たから。自分の家に来たのはただそれだけ、そして偶然性欲が湧いたからなまえに相手をしてもらった。それだけなのだと自分に言い聞かせる。調子に乗って「じゃあ付き合う?」なんて言おうものなら、痛い目を見るのは自分だから。
髪を乾かし終えて部屋に戻ると、風呂場のドアが開く音がしたので慌ててベッドに入った。あなたのことなんかこれっぽっちも気にしていませんよ、と主張しているみたいに。

「もう寝るのか?」
「うん」

太刀川とは反対側を向き、振り返ることなく返事をする。この男はなまえが少しでも気があることに気付けばきっと逃げて行ってしまう。なまえはそう確信していた。
マットレスが沈んで身体が後ろに転がりそうになっても、服の中に手が伸びてきて腹部を撫でられても振り返らない。「他の女にもこんなにベタベタしてるの?」という台詞が喉のすぐ側まで来ているが、決して口には出さない。

「明日任務だから9時に起こして」
「知らないよ勝手に起きて」

あなたが任務に遅刻しようが私には関係ありませんので起こしませんよ、という態度を出しながらこそこそとスマホでアラームをセットする。その様子を太刀川に見られていることも、微かに笑っていることも知らずに。



20190707