ほんまにかわいすぎんねんけど。たまらんで。別れ際の顔見た? 連絡待ってますって。かわいすぎて気失うか思ったわ。ほんで奢られるん申し訳ないから次は全部出すって何? 男前すぎひん? 何回惚れさすねんほんま……当たり前のように次の話してくるし……嬉しい……嬉しいとか余裕で超えてる。葉っぱ一枚で踊りたいレベル。 防衛任務が終わり、時刻は夜10時。先日の幸せすぎるデートを思い出しながらいつものコンビニへ向かう。今日みょうじさん居るかな、この時間やったらもう居いひんかな。まあ居いひんかっても俺はみょうじさんに会えんねんけどな! やばい浮かれてるわ。いや浮かれへんほうがおかしいやろ。しょうもない会話を一人頭の中で繰り広げているとあのコンビニが見えてきた。おっしゃビシッと決めたろ、弁当買うだけやけど。みょうじさんが居ることを願い、気を引き締めて入店した。 ただの客を装いながらも素早く視線だけでレジの方を確認する。レジには一人、みょうじさんではない。お菓子や飲み物を物色するふりをしてみょうじさんを探したがやはりいなかった。残念。 気を取り直して弁当の棚へ移動し今日の晩飯を選ぶ。カツ丼ええなあ。蕎麦にしておにぎりプラスすんのもあり。あ、オムライス。あかんあの可愛い顔思い出した。食べた時ほとんど表情変わらへんけどちょっとだけ嬉しそうな顔すんねん。可愛い。ずっと見てたい。 「生駒さん」 みょうじさんのこと考えてたら声まで聞こえてきた。俺まあまあやばいとこまで来てるんちゃん。一旦落ち着こ。……よし、今日はカツ丼や。 「生駒さん」 「……こんばんは」 「こんばんは」 びびった、本物のみょうじさんや。ほんま焦った。掴んだカツ丼落とすかと思った。今日居たんやな。それにしてもみょうじさんが仕事中に俺にわざわざ話しかけてくるのは珍しい。品出しか何かついでかと思いきや、あのでかいカゴみたいなやつも無い。 「あの、私もう上がりなんですけど……」 「はい」 「途中まで、一緒に帰ってくれませんか……?」 「……………………まじすか」 これ、ほんまに現実か? 言われた通り会計を済ませ、雑誌のコーナーで立読みしながらみょうじさんを待つ。漫画の内容なんかひとつも頭に入ってこない。この状況やばない? 何事? 急展開すぎひん? 嬉しい。……嬉しいけど、なんかみょうじさんの様子がおかしいというか、どこか浮かない顔をしていたような……気のせいならええねんけど。 「すみません、お待たせしました」 「いや全然待ってな、……!?」 制服。制服や。JKの。制服。これはほんまに現実か? は? 何が起きてんの? いや待て生駒達人よ。今日は平日、みょうじさんは学校終わってからバイトに来てんねん。何もおかしなことはない。せやな、なんもおかしない。俺が制服着たJKと並んで歩いてても全然おかしくない。俺19やし。あかん可愛い。いやほんま落ち着け。これで興奮してたら完全あかんやつやで俺。 「どうかしました?」 「いや何も。行きますか」 「いきなりすみません……あの、理由は、あとでちゃんと話すので」 理由? 理由って一個しか考えられへんねんけど。喜んでいいやつ? でも俺が考えてることとみょうじさんの表情が合ってないような……違和感の原因がわからないまま二人でコンビニを出た。 「みょうじ」 コンビニを出てすぐに見知らぬ青年が声をかけてきた。あれ、この子俺が来た時店の前に居た子やん。制服を着ているのでみょうじさんの知り合いだろうか。横にいる俺をちらちら見てくる。どういう状況か理解できずとりあえず黙っていると、みょうじさんが青年から顔を逸らしたまま口を開いた。 「私、この人と帰るから。……ごめん」 「ちょっ、みょうじ!」 そのまま歩いて行こうとしたみょうじさんの腕を掴んで引き止める青年。え、何事? 修羅場? 元カレとか? 俺邪魔者? パニックになりかける頭をすぐに落ち着かせ、頭を働かせる。正直状況は全くわからへん。でも見た感じみょうじさんは多分困ってる。もしかしてさっきの「理由」ってこれか……? 「……その人、誰」 「この人は、えっと……」 二人の目がこちらに向く。青年は明らかに俺を警戒しているし、みょうじさんはかなり困っているというか、怯えている気がする。これが正解かはわからないが、やってみるしかない。間違ってたら後で土下座します。 「彼氏やで」 「……」 「せやから手離してな」 全力で平静を装って青年の手からみょうじさんの腕を外し、空いたみょうじさんの手を掴む。 「帰ろ」 ポカンとしているみょうじさんの手を引き、青年に背を向ける。青年は何も言ってこなかった。 「……」 「……」 二人無言のまま、誰もいない道を歩く。手は繋いだまま。……ほんっまにびびった。やばい、俺あれで良かったんか? やばい元カレかストーカー紛いのどっちかや思ってんけど。とりあえずサッと逃げられて良かった……いや恥ずかし! 彼氏やでって何? ほんまに恥ずかしい彼氏ちゃうのに。ほんでなんか手繋いでもうてるし、俺やばいことしてるんちゃんまじで。みょうじさんの顔見られへん。てか道こっちで良かった? 逆やったらどうしよ俺みょうじさんの家知らんで。 「道、こっちで合ってますか……?」 「えっ、あ、はい、すみません……」 よかった。ひとまず安心。 次は「あの男何者ですか?」「俺の対応合ってました?」聞きたいことは色々あるが、こちらから根掘り葉掘り聞いてもいいものか。そして多分俺が真っ先にやらなければならないのはこの手を離すことなのだろうが、コンビニを離れたあたりでぎゅっと握る力が強くなった気がしてなんとなく離すことができないでいる。あかん俺多分手汗やばい。手から意識を逸らすためにもとりあえず何か話した方がいいだろうか。 「すいませんでした。勝手に彼氏とか言って……」 「いや、そんな……助かりました」 「僕、あれでよかったですか?」 「はい、すみません本当に……」 「……言いたくなかったら言わなくていいんですけど」 できるだけ落ち着いた声で「どういうことやったか、聞いてもいいですか?」とみょうじさんの言葉を待った。 「……あの人は、同じ学校の人……なんですけど」 「はい」 「この前、こ、告白されて」 「え」 「もちろん断ったんです!でもその……諦められないって言われて」 今までより話しかけられる回数が増えてバイト先を知り、今日いきなり押しかけてきて「終わるの何時? 一緒に帰ろう」と待っていたらしい。 「すみません、こういうの初めてで、どうしたらいいかわからなくて……」 「……」 「どうしようと思ってたら生駒さんが来て、一緒に帰ってほしいって言ったんです。誰かといれば諦めてくれるかと思って……本当にすみません、ご迷惑かけてしまって」 よかった……元カレじゃなくてよかった。俺が間男である可能性も考えていたので本当によかった。多分あの青年は一生懸命さが裏目に出てもうたんやろなあ、俺だってみょうじさんに会いたくてコンビニ通ってた訳やし。それにしてもみょうじさんはやっぱりモテるんか……可愛いからな、そら告白ぐらいされるよな……え、やばない?うかうかしてたら訳わからんやつに取られるやん、無理やねんけど……。 でもみょうじさんが俺に一緒に帰って欲しいって言うってことは、少なくとも俺は今頼られてるってことやんな。やばい、めっちゃ嬉しい。 「何も迷惑なことないです。びっくりしましたけど」 「すみません……」 「謝る必要ないです、僕のこと頼ってくれて嬉しいです」 「……ありがとうございます」 みょうじさんの手の力が少し緩んだ。少し落ち着いたのならいいのだが。……いやこれ、どうすんのほんまに。もう彼氏のフリ終わったやん、あの青年も多分もう見てへんし。手離さなあかんねん。でも離せへん。てか離したくない。嵐山ごめんな、折角色々考えてくれたのに俺今制服着たJKと手繋いでる。なんかもう色々爆発しそう……抱きしめたい。あかんあかんあかん犯罪犯罪。そもそも俺ら付き合ってへんやん。もう既にあかんやん。でもさっきからちょいちょいみょうじさんが手ギュッてしてくんねん……気のせい? なあ、どういうこと? 俺死にそうやねんけど抱きしめたらあかん? あかんよな、わかってる、わかってんねん。 勢いで繋いでしまったけど、こういうのはほんまは付き合ってからするもんやと思うねん。ちゃんと彼氏になって手繋ぎたい。焦らず慎重に、と思ってたけどここまで来たら腹括るしかない。ひとつ決意をして、自分より小さくて柔らかい手を強く握り返した。 200511 |