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やばい。やばいで。ほんまにかかってきた。いやかけて欲しくて番号渡してんけど。ほんまにかかってくると思わへんやん?いや死ぬほど待ってたけど。あかん、電話切ったのにまだ心臓バクバク言うてる。音やばない?これ。やばいよな。俺の心臓大丈夫?死なへん?
任務前の作戦室で突然鳴った電話。落ち着きなく部屋の中を歩き回っていた俺に隠岐が「最近あのコンビニの子とどうです?」と聞いてきた時だった。ほんまびびった。隠岐の力か?わからへんけど隠岐ありがとう。電話を切った後しばらくスマホを眺めていたが、隠岐が後ろで見守っていることを思い出し、振り返ってピースサインでうまくいったことを伝えた。

「あの子からですか?」
「うん」
「いつのまに連絡先交換したんすか?」
「さっき、ここ来る前に番号書いて渡して来た」
「ほんますか?やりますね」
「いやほんま……死ぬか思たわ……もう死んでもええわ」
「何言うてんすか、これからでしょ」

こいつはどこまで男前やねん。連絡先ゲットできただけで死ぬほど嬉しいのにもうこれからとか言うの強すぎひん?隠岐の男前具合に痺れていると他の隊員も「イコさんどうしたんですか?」と集まってきた。隊の子らは俺があの子可愛いと言ってるのを知っているので、隠岐にしたのと同じ説明をすると「やりましたね!」「イコさんの時代来ましたね」と喜んでくれた。ほんまええ奴らやで。


あの子と出会った(というか一方的に知った)のは2ヶ月前。あの子は任務の帰りに寄ったコンビニで働いていた。きれいな子だと思った。接客している時も特に笑顔を見せることはなくいつも落ち着いた様子だが、たまに同じバイトの人と雑談している時の笑顔が可愛い。あの子が働くコンビニはボーダーから近いこともあり、立ち寄る回数が増えていった。
そうしてコンビニに通っていると、その日は突然やってきた。俺がお弁当とお茶をレジの台に置くと彼女がいつも通りあまり抑揚のない声で言った。

「お箸温めますか?」

お箸温め……お箸?

「……お箸温めたほうが美味しいですか?」

一瞬ハッとした顔になった彼女(可愛い)は俺の言葉を聞いて笑いだした。今までに見たこともない全力の笑顔。あかん。これはあかん。心臓がドン!とかバン!みたいな、とにかくものすごい衝撃を受けた。完全に掴まれた。イコさんのハート鷲掴みや。目の前の彼女はツボってしまったらしく、俺が硬直していることも気付かずに笑っていた。その後すぐになんとか抑えながら「す、すみません。ふふ、お弁当、温めますか?」と聞いてきてめちゃくちゃ可愛かった。帰ってから温めようとしていたが、「お願いします」と即答した。

次にコンビニで会った時、俺の顔を見ると少し笑って「いらっしゃいませ」と言ってくれた。可愛すぎるやんか。その後のことは嬉しすぎて覚えていないがスキップで帰ったかもしれないというくらい浮かれた。
彼女が俺を認識してくれた。これは千載一遇のチャンスではないか。俺は毎回彼女に声をかけることにした。
「このお弁当めっちゃ美味しいですよ」
「今日も暑いですね」
「このアイスが一番好きなんですよ」
見事にスベり散らかした。何もおもろいこと言えへん。こんなん「そうですか」としか返せへんやん。夜に「今日は暗いですね」と言ったこともあった。めっちゃ恥ずい。それでも彼女はコンビニの食べ物が美味しいと言えば「私もこれ好きなんですよ」とか「今度食べてみます」とか、天気の話をすれば「もう少し涼しくなってほしいですよね」と俺のおもんない話を丁寧に返してくれた。こんな訳のわからん客に。ええ子や。

こうしてあのコンビニに通っては一言交わしてを数回繰り返していたのだが、すぐにそれだけでは足りなくなった。彼女に会う度もっと話したい、もっと彼女の事を知りたいと思ってしまう。しかしレジではほんの少ししか話せない。何より彼女は仕事中だし、俺はただの客の一人。下手しいストーカーと思われてもおかしくないのである。……このままやったら店に通う頻度が増えるだけやし、ほんまにストーカーって言われてまう。俺は玉砕覚悟であの子に番号を渡すことにした。


そして今。俺のスマホにはまだ登録されていない番号、つまりあの子との通話履歴が残されている。俺はとうとうやったのだ。ほんまに嬉しい。ほんまにストーカーと思われてなくて良かった。「お釣り忘れてます」と言われた時は恥ずかしさで死ぬかもしれないと思ったが、俺がお釣りを受け取り忘れたおかげで彼女は電話をかけてきてくれたのだからもう何でもいい。むしろ俺ナイス。正直緊張でほとんど何も覚えていないのだが。咄嗟に「お礼させてください」という言葉を出した俺、ほんまにようやった。間違っても「明日お店に取りに行きます」などと言わなくてよかった。
残念なことに任務を控えていた俺はメッセージアプリのIDを伝えて「お礼」をどうするかは後で話そうということになった。今気付いたけど何で任務の前に番号渡したんや。アホなことしてもうた。まあ電話取れたからええねんけどな!

「そろそろ時間やでー」

喜びに浸っているとお呼びがかかった。忘れないうちにあの子の電話番号を連絡先に登録する。
みょうじさん。やっと知ることができた彼女の名前。

「あかん、今俺無敵やわ」
「調子乗ってるとやられますよ」
「危ななったら助けてな」
「はいはい」

それにしてもほんま男前やな、こいつ。




20191031