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普段ならすぐに意識を飛ばしそうになるこの講義も、今日は目が冴えている。私の頭を悩ませる男が通路を挟んですぐ隣にいるからだ。数時間前酒に酔って私に手を出そうとした挙句、トイレで吐きながら寝落ちた人物とは思えないほど涼しい顔をしている。先程から彼の方をチラチラ見ているそこの女子達に教えてやりたい。この男は酔った勢いで女友達に手を出すような男ですよって。……黙って手を出された私も私なので黙っておいてあげるけど。

あの後、二宮くんに抱きしめられながら寝た、その後。つまり今日の朝。目を覚ますと二宮くんが隣にいた。
昨夜のあれやこれやは夢ではなかった。整った寝顔をしばらく観察していると眉間にシワが入った。目を覚ますと思い、すぐに目を閉じて寝ているふりをする。この状況で何を話せばいいのかわからない。それに二宮くんが昨日のことを忘れていたら、気まずさどころか私が襲ったと思われる可能性も無くはない。「あなたが私を引き止めたので今ここに居ます。あなたは吐いてすぐに寝たのでキスはしたし私の胸にも触れましたがセックスはしていません」なんて言える訳がないし、信じてもらえないだろう。
しばらく目を閉じていると、隣で動く気配がした。二宮くんが起きたのだろう。この状況を見てどう思うだろうか。いつ目を開けるかタイミングを見計らっていると、スプリングが動き二宮くんがベッドを降りたことがわかった。そのままフローリングを歩くぺたぺたという音が聞こえて、しばらくするとシャワーのが聞こえてきた。……私を起こすという選択肢は無いのだろうか。寝ぼけて私が隣にいることに気付かなかったとか?二宮くんがお風呂から出てくるまで待つか否か。しばらく考えた結果、これ以上寝たふりしても起きるタイミングがわからないので起きることにした。二宮くんがお風呂から出てきたらなんて言おうかと考えながら床に置かれた鞄の中からスマホを取り出す。……まずい。何も言わないまま部屋を飛び出した。
急いで家に帰ってシャワーを浴び、すぐに大学へ向かう。あと少しで始まる講義に出席するためだ。普段は真面目に出席している方だが、大学生活でだらけつつある私が1時間目の講義に毎回出席することは不可能だった。つまり出席しないと単位がやばい。たまたま早く起きて助かった…この奇跡を無駄にするわけにはいかない。
講義にはギリギリで間に合い、目についた席に座ったところで丁度チャイムが鳴った。これで今週も私の単位は守られた…と息をついたところで二宮くんの存在に気付いた。そして冒頭に戻る。

挨拶くらいした方が良いだろうか。しかし講義は始まっているし、何よりこの絶妙な距離が厄介だ。すぐ隣なら小声で話すことはできるだろうが、今の距離で二宮くんに声を届けようとすれば私の前に座っている人の耳にも入ってしまうだろう。講義の妨げになることはしたくないし、声が二宮くんに届かず独り言になってしまう可能性もある。ここはやはり黙っておくのが正解だろう。
頭の中で昨日の出来事をリプレイする。帰ろうとした私に二宮くんは「帰るな」と引き止め、キスしてきた。二宮くんは何故あんなことしてきたのだろう。単純に「二宮くんは実は私のことが好きで、酔って理性が吹っ飛んだから」なんて考えて良いものだろうか。「何となくムラムラしたから」……二宮くんだって男の人なんだし、あり得ることだ。普段の彼ならただムラムラしただけで女の人に手を出すなんて馬鹿なことは絶対しないと思うが、あれだけ酔っていたのだからまともな思考はできないだろう。じゃあ、相手は私じゃなくても、誰でも良かったのだろうか。男の人は好きな人じゃなくてもできるって言うし、可能性はゼロではない。
考えれば考えるほど良くない方に流れる一方で、どこか期待している自分もいる。大学内で会った時はお昼に誘われるし、ごく稀にだが一緒に帰ることもある。飲み会の後も、昨日は私が送ることになったが普段は二宮くんが私を家まで送ってくれる。女友達が多い男の子ならこれくらい普通だろうが、私が目にする限り二宮くんが女の子と積極的に関わることはほとんど無いように思う。少なくとも女の子とふたりで構内を歩いていたり、食堂でご飯を食べたりというところは見たことがない。正直なところ、大学内では自分が一番二宮くんと近い女子だと自惚れてしまいそうになることはある。それくらい私とその他の女の子とで対応の差があると思っているし、二宮くんは思わせぶりな態度を取っていると思う。
しかし彼にはボーダーがある。誰とも関わらなくても問題なく過ごせる大学の人間関係よりもボーダーの方が重要ではないか。ボーダーには女の子もたくさんいるだろうし、近界民と戦ううちに仲が深まっていく…ということはあってもおかしくはない。テレビでよく見る嵐山隊の美人の女の子…彼女はまだ中学生だったはずなので二宮くんとどうこうということはないだろうが、あんなレベルの子がゴロゴロいたら選り取り見取りではないか?……思い出した。確かうちの大学にも居たはずだ。確か、加古さんという名前の美女が。以前構内で見かけて美人だなあと見ていたら、一緒にいた友達があの子はボーダーだと教えてくれた。よくわからないが隊長らしい。隊長ということは隊を率いるということで、つまりすごい人で、まさに才色兼備ではないか。ボーダーのことはよくわらかないけれど、二宮くんもなんだかすごそうだから隊長だったりして、隊長同士の会議とかで一緒になったりして、仲良くなって惹かれていって……あり得る。酔って私を加古さんだと勘違いしたとか……?加古さんじゃなくても、誰かと勘違いしたということは十分にあり得る。全て自分の妄想だということは理解しているが、そんな訳ないと言えないのがつらい。私は大学での二宮くんしか知らないのだから。

ひとりで落ち込んで、ひとりで舞い上がって、落ち込んで。面倒くさい女だとまた落ち込んだところでチャイムがなった。




20190915