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「二宮くん、着いたよ」
「……ああ」

のろのろとした動きで財布を探している二宮くんを制して支払いを済ませる。とにかく酔った彼を部屋まで送り届けなければ。
こんなに酔った彼を見るのは初めてだった。同じゼミの二宮くんはお酒は強いという訳ではないが、特に弱いということもなかったはずだ。それに彼はいつも自分のペースで飲んでいるし、無理な飲酒はしないはず。研究とボーダーの任務で疲れていたのかもしれない。完璧人間に見える二宮くんにもこういうところがあるのだと少し安心した。

「大丈夫?」
「…ああ」

フラフラになって歩く彼を支えようとするが、拒否される。こんな状態でも人に頼るのは嫌なのだろうか。どんなに大丈夫と言ったところでただの酔っ払いなので、とりあえず彼が部屋に入るまでは見守らなければならない。先程まで一緒に飲んでいた教授に頼まれたから、というのは建前で、二宮くんと可能な限り長く居たいというのが本音だ。心配なのは間違い無いのだけれど、これが二宮くんではなくただのゼミ仲間なら一人でタクシーに乗せてさよならしている。
エレベーターを降りて二宮くんが自宅と思われる扉の前に立った。扉に頭を預けながら鞄の中を手探りでゴソゴソと漁る。こんな姿、他の女の子達は見たこと無いのではないか。自分もまだ酒が残っているので、いつもより思考が楽天的になっている。こんな二宮くんもかわいくて良いなあと思っていると、ガチャリと鍵が開く音がした。

「じゃあ、また明日。」

二宮くんが部屋に入るのを確認したので、名残惜しいが帰るとしよう。偶然にも私の家は彼の家から近いのですぐに帰れる。私がか弱くてしおらしい女の子なら、「一人で帰るの怖いから泊めて?」とか言えるのだろうか。想像するだけでゾッとするが。もちろん潔く帰りますよ。
おやすみ、と靴を脱いでいる二宮くんの背中に声をかけてドアを閉めようとすると、何か呟くのが聞こえた。

「何?」
「……行くな」

急にこちらを振り返った二宮くんに…抱きしめられている?
私も相当酔っているのか、幻想を生み出しているのかもしれない。しかし抱きしめられてる力は強く、少し苦しい。そして、お酒臭い。がちゃり、とドアが閉まる音が聞こえた。

「に、のみや、くん…?」

名前を呼ぶと腕の力が緩んで身体が離れる。恐る恐る顔を上げると唇に薄くて柔らかいものが押し付けられた。

「ふ、んん、」

状況が把握できないまま行為が行われる。何故こんなことになっているのだろうか。身体を離して、何でこんなことするのって、言わなきゃいけないのに、彼を止めることができない。彼の力は振りほどけないほど強くはないのに。やめてほしくないから。
少しの期待を込めて薄く口を開くとすぐに舌が入ってきて、きゅう、と疼く。何をしているんだという考えが一瞬ちらつくが、酔っているからという言い訳で全てを蹴散らした。
お互いの舌が少しだけ触れて思わず引っ込めそうになったところを思い切り絡め取られる。息をする余裕も与えてくれないほど荒々しいキスが続き、普段の落ち着いた彼からはあまり想像できない姿に彼の服を掴む力が強くなる。

「んっ、はあ…あっ、」

呼吸が許されたと思ったら二宮くんが首のあたりに顔を埋めてちゅうと吸い付く。間髪入れずに背中のあたりに手が入ってくるのがわかった。手はすぐにホックに移動し、もたつきながらも胸が解放される。二宮くんは意外と慣れていないのか、それとも酔っているからうまくいかないのかという議論が頭の中で行われるが、胸に手が触れるとそんなことはすぐにどうでもよくなった。
ぐにぐにと胸を触る手は、撫でるというより掴むに近い。痛くはないけれど、通常なら特に気持ちいいという触り方ではない。それでもこんなに高揚してしまっている。親指で胸の先を擦られると今までよりも少し大きな声が出た。

「……」
「はあ…んん、」

顔を上げた二宮くんが再び唇を押し付けて、離れた。目が合う。眉間のシワはいつもより深く、余裕は感じられない。

「ここで、するの…?」
「……」

身体を離した二宮くんは、何も言わずに家の中に入ってしまった。入って来いということでいいのだろうかと一瞬悩んだが、すぐに靴を脱ぎ後を追いかける。真っ直ぐ目の前の部屋に進んでいくと思いきや彼は一度ピタリと静止し、左側にある部屋に素早く入って扉を閉めてしまった。廊下に残された私。もしかして、と思ったのも束の間、小さく嘔吐する声が聞こえた。

「…大丈夫?」
「……」

返事がないので心配になりドアノブに手をかける。余裕がなかったのか、鍵はかかっていなかった。タクシーに乗る前に買っておいたペットボトルの蓋を開けて差し出す。

「水、飲んで」
「大丈…っ」

言い終わる前にまた戻した。背中をさすっていると「大丈夫だ」「外に居てくれ」と何度も言われるので水を置いて大人しくトイレから出て扉を閉めた。
小さく息を吐く。あれだけ酔っていたから吐くかもしれないということは予想できたが、このタイミングにくるとは…仕方がないことだとはわかっているが、ここまで来たなら最後まで持ちこたえてほしかった。あのまま続けていたらどうなっていただろう。先程までの行為を思い出して顔に熱が集まる。

しばらくしても二宮くんが出てこないのでノックをして一言かけてからトイレの扉を開けると、二宮くんが床に座り込んだまま壁に頭を預けていた。

「二宮くん」
「……」
「二宮くーん」
「……」
「嘘でしょ…」

寝ている。
流石にトイレで寝かせる訳にはいかないので起こそうと数回声をかけながら肩を叩き、ぼんやりと意識を戻した二宮くんに口を濯がせ、寝室まで運ぶ。自分に肩を組ませて必死で身体を支える私に「大丈夫だ」を繰り返しているが、身体のふらつき具合がどう見ても大丈夫ではないし、絶対寝ぼけている。
ベッドの目の前までやって来て二宮くんを寝かせようとするがいいやり方がわからなかったので半分投げ飛ばすように力をかけた。

「うわっ」

二宮くんが私を掴んでいる腕を離してくれず、二人でベッドに倒れこむ。勘弁してくれと思いながらもベッドを出ようとすると腹部に回された腕に阻まれた。いつのまに。恐る恐る振り返ると二宮くんの美しい寝顔。名前を呼んでも返事は返ってこない…どうやら私は今晩家に帰ることは許されないらしい。観念して意識を手放すことにした。朝起きて驚けばいい。私は帰ろうとしたのに二宮くんが引き止めたんだからね。既に力を失った腕に自分の手を重ねて眠りについた。




20190908