【パラダイム】
○お手本となる型
○ある時代や分野において常識とされる物の考え方
向かい合って着いた食堂のテーブル。
シン、と耳に痛い静寂を破る言葉が響く。
「健全な絶望は健全な絶望に宿るのだ!!」
彼は提起する。
「例えばよォ、車通りの激しい道の横断歩道で重い荷物を持てずに立ち往生してるジジババがいたとすんだろ?」
彼は仮定する。
「……その時……どう対応するのが正解か……分かりますか……?」
彼は質問する。
「その場合の行動パターンはいくつか想定できますが、見て見ぬフリは絶望的に美しくありません。正答の一つとしては、荷物を運んであげたうえでその荷物を道路に放り投げるというものが挙げられます」
彼は提示する。
「つまりぃ、一度持ち上げておいてー、ズドーンと落とすワケ!この高揚感が堪らないんだよねー」
彼は煩悶する。
「高低差があればあるほど激しく襲いかかってくるのは、素敵な絶望……ああ、幸せ……」
彼は恍惚する。
「いくら凡愚といえど分かっただろう、人間」
彼は嘲笑する。
「希望と絶望はワンセット!希望させた後に絶望させるからこそ美しい!」
彼は断言する。
まるで劇中の一幕のように高らかに、絶望の素晴らしさを語る"超高校級の絶望"。
一刻と待たず自分のキャラにさえ絶望する彼は、共通してドロドロと煮詰まったような目をこっちに向けてきた。
「ねえ、苗木。分かる?絶望にだって手順とかテンプレとかあんの。あ、ちなみに絶望させる場合ね。絶望するってなると、そりゃ十人十色の素敵な絶望があるさ」
「……どうして僕にそんな話するの?」
「世界に溢れる絶望を苗木にも知ってもらおうと思って。絶望ってさぁ、殺すばっかじゃないんだよね」
にんまり。
江ノ島がチェシャ猫のように意地悪く笑う。
「絶望させ方、手取り足取り教えてあげよっか?俺って邪道の中の邪道すぎて逆に王道だからさ、俺のやり方さえ覚えとけば絶望的な世界にも負けないでいられるかもよ?」
「遠慮しとく。僕は、希望があれば負けないって思ってるから」
「あーあ、吐き気がするくらい苗木らしいじゃん。ツマンナイ。でもだから好きだよ、苗木」
「……あ、りがとう?」
「どういたしましてー」