所有権には恒久性がある


※所有三作と同設定。学園生活以前。



恒久性
:所有権は目的物が存在する限り永久に存在するもので消滅時効にかからないという性質。



――いつになったら自由にしてくれるの。

いつもとなんら変わりない平和な食卓で、家族になって一年と少し経ったばかりの義弟が、絞り出すように呟いた。
向かいの席、俯いて顔にかかった髪の間からこっちを窺う目が見える。怯えの色が濃いそれを見て、俺は溜め息を吐いた。肺が空っぽになるってくらい深く、大きく。それを見てビクッと身体を震わせるのが可愛くて楽しくて面白くて、いっそそのまま恐怖で死んでしまうくらい虐め抜いてやりたくて、見せつけるようにゆっくり口の端に笑みを乗せてやった。そのまま身を乗り出して、顔を近付けて。

「俺が、いつ、誠を、自由にしてやるって、言った?」
「っ……」

優しい俺が一言一言区切って言ってやると、義弟は本当に面白いくらい怯えてくれた。強く握り込んだ手のひらに爪が喰い込んでいるのがわかる。もし血が出たりしたら舐めてやろうなんて柄にもなく良心を覗かせるくらい、俺はこの義弟を気に入っている。
もしこの世界で一人しか殺せないとしたら、なんて言われたら俺はこいつを殺してやるかも…………ああ、やっぱり嘘だ。ダメダメ。こいつはきっと目の前で大事な人間を殺される方が傷つくに決まってる。それに俺のハジメテは松田に捧げるって鉛筆の芯並に固く誓っちゃってるしなー……。
だからこいつは生かしておく。目の前で大事なヤツを殺されて、怯えてばっかの目が絶望に喰われるまで、俺はこいつを大事に大事に所有してやる。

「死んで腐り果てても、燃やされて骨だけになっても、誠はずっと俺の物だよ。ああ、でも、」
「……で、でも……?」

吐息が顔にかかる距離で言葉を切れば、おずおずと先を促すように言葉を繰り返される。ゴクリと唾を飲み込んだ音が聞こえたからさりげなくコップを床に払い落してやった。破片と水しぶきを視界の端に映しながら、固まったままの義弟の耳元でそっと囁く。

「――絶望してくれたら、もっと早く飽きて捨てちゃうかも」

そんな俺の嘘に狼狽える義弟の純粋さが、傷口に染み込む消毒液みたいに痛くて、そのまま唇に噛みついた。
怯えたまま、俺の物として死ぬのか。絶望して、俺に捨てられるのか。可愛い義弟が選ぶ未来が今から楽しみで仕方ない。俺が死んだら終わりなんて馬鹿なこと考えてくれてもいいな。きっとどんな道を進むにしろ、幸せに満ちた生活なんて有り得ないんだから。
怯えただけの目じゃまだ足りない。俺に怯えるな。恐怖するな。依存も執着もするな。お前は、俺に絶望してくれればそれでいい。



(割れたコップはただのゴミだけど)
(お前は死んでも俺の物)

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