KHYのアレな話



※下ネタ注意



「はぁ……」

菓子パンを頬張りながら息を吐いた彼の名は神代優斗。希望ヶ峰学園の77期生で、超高校級の諜報員の才能を持っている。童顔で影が薄く、見た目からは座敷わらしを想起させる。しかし中身はとことんえげつない。人の倍性欲を持て余す神代は言葉の端々どころか、会話の3分の2は下ネタに侵されている。1にセックス、2にセックス、3、4はセクハラ、5は盗聴。
そんな神代が、せっかく食べているチョコうずまきパンが味気ないものに思えるほど、目の前の後輩が語る話はつまらなかった。つまらなすぎるほどつまらなかった。いっそ寮に戻って女の子たちの部屋を盗聴し、来月のローテーションを組んだ方がよっぽど建設的だとさえ思うくらいだ。

「……むむ?その様子だと神代優兎殿は僕の話を聞いていなかったようですなぁ?」
「あはっ、ごめんごめん。でもさぁ、正直キミの話って完全に妄想の域を出ないし、対象は紙やら画面やらの向こう側の存在だし……ぶっちゃけただの自慰だよねそれって。うんうん。今時ツインテールのツンデレ美少女とか絶滅危惧種だっつーの。あ、この場合稀少なのはツインテのほうね」
「な、何をぅ…!!ツインテツンデレ美少女を絶滅危惧種扱いとは……いくら年長者といえど許せませんぞ!!ツインテツンデレ美少女は!永遠に不滅なのですッ!!」

今となってはステレオタイプなツインテールのツンデレ美少女について熱く語る、やや年齢にそぐわない体型の後輩。山田一二三。超高校級の同人作家である彼はその呼び名の通り、同次元に存在する異性ではなく2次元のキャラクターに熱を上げている。
対象が立体か平面かは別として、性欲を外側に向けているという点では似た者同士。神代と山田が会話する機会は他と比べて多いのだが、やはり同じ外側でも方面は90°以上違っている為――確執も多い。

「いやいや、ツインテが稀少だっつってんだろーが。いたってアイドルくらいだろうし、プライベートでツインテってのが元々少ないっての。しかも性格ツンデレで顔面百点とか高望みもいいとこでしょ?え?そんな女の子抱く器量が自分にあると思っちゃってるわけ?」
「ぬ…っ!ツインテが稀少種というのは神代優兎殿の偏見です!現に世界にはツインテが……もちろんツインテツンデレ美少女も溢れているのですから!!そ、それに、僕はあくまで彼女達を愛しているだけで、抱きたいなんて考えては……」
「溢れてんのはお兄ちゃんの妄想と先走りですがな!現実世界にそんな夢みたいな好物件が転がってるわけないでしょ?てかお兄ちゃん何言っちゃってんの?売ってないにしたってだいぶマニアックで最初から最後まで、前戯からピロートークまでヤっちゃってる同人誌描いてたでしょ?描いてたよね?描いてただろーが!!抱きたいって思ってねーなら完全プラトニックな純愛物以外描いてんじゃねーよ!!ドヤ顔で他人のオカズ売ってんじゃねーっつーの!!」
「ヒィ…ッ!!」

変声期前の透明感のある声がドスのきいたものに変わった。声とギラギラした瞳が容姿をことごとく裏切る。一見ただの小学生だが、キレるとかなり暴力的だ。年上ということも相まって神代の方が力関係では上位に位置する。自分よりも随分幼く見える先輩の剣幕に、山田はただただ震えるしかない。そんな彼に救いの手が差し伸べられた……かに思われた。

「まあまあ!そんなに脅かしちゃ可哀相だよ!」
「は……、花村輝々殿……!!」

声の主は神代と同じく77期生の花村輝々だった。希望ヶ峰学園に見初められた才能は超高校級の料理人。こちらも高校生には見えない低身長だが、やはり神代同様で性に対する熱意は並大抵ではない。しかも神代、山田とは違い、その対象は広い。とにかく広い。人型ならオールジャンルイケると言い出してもおかしくないレベルだ。
また面倒なヤツがきた、と半ば呆れながら神代は抱えていた菓子パン袋に手を突っ込んだ。よりにもよってバターピーナッツパンだ。バターとピーナッツだなんて相性が悪いにもほどがある。こいつらだって望んで組み合わされたわけじゃないだろうに、こんなむごい仕打ちを受けているだなんて可哀相だ。パンと山田、花村を交互に見ながら、神代は溜め息を吐く。

「ホラ、溜め息なんて吐いてると幸せまで逃げちゃうよ?それとも溜まっちゃってるナニかを息と一緒に吐き出したかったのかな?ンフフ、それならそうと早く言ってくれればいいのに!女性では体験できない未知の快楽を教えてあげるのにさ!」
「お兄ちゃんの好意は仕方なくもらうけど、そっちの行為には興味ないんだよね、僕。嬉しいことに相手に困ってないし?」
「そう?残念だなぁ……。ところでお兄ちゃん呼びって結構クるものがあるよね!」

ニコニコと笑う顔が憎らしい。いっそ踏みつけてやりたい。しかしそんなことをしたらどうなるか……。神代は動かそうとした足を元に戻した。仮に踏みつけたところで喜ばれるのがオチだ。性の対象がオールジャンルならば、本人の性癖もオールジャンルに近い。一体なにが花村の守備範囲外なのかわからない為、神代は迂闊な行動に出られない。ジレンマだ。
再び溜め息を吐き、呆然としたままの山田に視線を向ける神代。自分に矛先が向かってこなかったことを本気で安堵しているようだ。しかしそんな山田を安穏とさせたまま放っておく神代ではない。

「そういえばおにい……花村、こっちの彼が性の向こう側になにがあるのか議論を交わしたいって言ってたよ」
「えっ!?」
「え!?ホント!?そんなにぼくと熱いパトスを交わしたかったの?いろいろ迸らせたかったの?ンフフ!やっぱりアーバンな魅力を持つぼくは同性をも惹きつけてしまうんだね……」
「いやいやいやいや!ぼ、僕はそんなことは一言も…!!」
「じゃあ実際に交わして確かめてみようか!パトスと……枕をね!!」
「い、いやああああああ!」
「ちょっと!可愛い声で鳴くのはベッドの上にしようよ!じゃないとホラ、ぼくもガマンが……ね?」
「僕はぶー子一筋なんですうううう!!交わすなら神代優兎殿!神代優兎殿とお願いします!!毎日相手を変えるほどですから、相手が誰だろうと問題ナッシン!!」
「僕を巻き込まないでくれないかな!?第一僕は性欲は際限なくても嗜好はノーマルなんだよ!!」
「元はと言えば神代優兎殿が僕を巻き込んだんですぞ!?それに僕だってノーマルです!!ぶー子たんハァハァ!!」
「大丈夫だって!ノンケだろうとオタクだろうと、ぼくのテクで一発だからさ!」

自分が性の対象にされる恐怖に怯え口論を始めた2人を花村が制す。逃げ場は……なかった。
突然響いた悲鳴に、しかし他の生徒達は目を閉じ耳を塞いでなにごともなかったと自分に言い聞かせる。触らぬ神に祟りなし。未知の世界へ紐なしバンジーを試みるほど勇気のある者はここにはいない。


花村に連行されていった神代と山田がその後どうなったのか……彼らの口から語られることは終ぞなかった。



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