かむまひっ


真昼は自分の隣を歩く同じクラスの家庭教師をこっそり覗き見た。せっかくの休日、しかも遊園地だというのに堅苦しいスーツ姿。おまけにきっちりネクタイまで締めている。自分が知る誰より長く艶やかな髪を靡かせて歩くカムクラはいっそ憎らしい程完璧だ。成績優秀、スポーツ万能。おまけに眉目秀麗。天は彼に二物も三物も与えたらしい。そんな彼がどうしてわざわざ理数を苦手とする真昼の家庭教師をしてくれているのか不思議でならないが、それ以上にこうして……所謂、遊園地デートなるものをしてくれているのかもまったくの謎だ。
擦れ違う人全員が彼をチラチラと、時には瞬きも忘れるほど熱心に見てくる。本人はまったく気にしていないようだが、あまり不特定多数から視線を向けられる事に慣れていない真昼はカムクラの影に隠れるように肩を竦めた。

「……どうしたんですか?調子が悪いなら一度休みましょうか」
「え……?あ、ち、違うの!ただ、その……どうしてアタシを誘ってくれたのかなって思って……」

顔を覗き込んでくるカムクラから逃げるように身を引く真昼。視線を合わせたら最後、指先の神経まで絡め取られてしまいそうだった。

「どうして誘ったのかと言われても、遊園地に行きたがっていたのはあなたじゃないですか」
「……アタシ、カムクラ君に遊園地行きたいとか言ったっけ……?」
「教室で話しているのを聞きました。最近は理数の成績も上がってきたようですし、やはりご褒美があった方が今後のやる気にも影響するかと思ったので」

詰まるところ、どうやらこれはご褒美という事らしい。家庭教師とはいえ同級生にご褒美をもらうというのもなんだか不思議な話だ。
真昼は複雑な思いで俯いた。自分の事を気にかけてくれている嬉しさと、カムクラにはどうにも不似合いな遊園地という場所を選ばせてしまった事への申し訳なさ。カムクラの隣にいる事で集まる視線に気後れすると同時に感じる優越感。いろんな思いが真昼の胸中でぐるぐると渦を巻いている。ただ一つだけハッキリしているのは、真昼がカムクラとのデートを存外喜んでいるという事だ。

「……ありがとね、カムクラ君」

胸元で絡ませていた指に落としていた視線を上げ、真昼は口元を綻ばせた。何故カムクラが自分に対して好意的なのか理由がわからなくてなんとなくくすぐったいが、別段居心地が悪いという事もない。むしろ心地良い方だ。
笑みを深くする真昼に対し、カムクラは少しだけ肩を竦めた。初めて見せる自信なさげな所作。普段落ちついてはいてもやはり真昼と年の変わらない少年だ。

「こういったところに来るのは初めてなので、うまくエスコートできるかはわかりませんが……」
「別にエスコートしてくれなくてもいいよ。かわりに……一緒に楽しんでくれると嬉しいな」

写真もいっぱい撮るから、と真昼は愛用のカメラを撫でながら笑う。
大人びた家庭教師の子供らしい姿を1枚でも収めて見せてあげよう。きっと今まで見た事のない表情を見せてくれるはずだ。

「……お手柔らかにお願いします」
「あはは、なんだか今日はアタシのが先生みたい。せっかくだし、いろいろ教えてあげるよ」
「そうですね……。ではまずどこに行きましょうか、真昼先生」
「先生って……なんかちょっと照れ臭いね……。えっと、まずはー……」

染まった頬を苦笑で誤魔化しつつマップを辿る真昼は気付いていない。さりげなく呼ばれた自分の名にも、自分を見つめる優しい目にも。
きっと真昼が気付くまでにはだいぶ時間がかかるだろう。真昼自身恋愛に興味を抱いたとしても、カムクラと恋愛を結び付ける事が難しいからだ。それを理解した上でカムクラは諦めるつもりはないらしい。真昼を見つめながら口元にうっすら乗せた笑みがそれを物語っている。

「……よし!行こ、カムクラ君」
「はい」

真昼はあれほど気になっていた周りの視線も忘れ、カムクラの隣で楽しそうに笑った。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -