エイプリルフール


散々だったねぇ、と机に突っ伏したままの不二咲が疲れを感じさせる笑みを浮かべて呟いた。
それに、同じく突っ伏していた苗木は首肯のみで返し、大きく息を吐く。

「ハァ……ボクもう疲れちゃったよ……」
「そうだねぇ……どうしてみんな、僕達ばっかり狙って嘘吐くんだろぉ…?」
「……騙しやすい、のかな……ボク達……」

思い返すのは朝食から先程までの事。
葉隠が記憶喪失になったと言ったり、舞園が自分はPSIが使えると言ったり、山田が三次元に目覚めたと言ったり、朝日奈が今日からドーナツ以外口にしないと言ったり……。エトセトラエトセトラ。
とにかく朝から嘘を吐かれまくり、一々それを真に受けて騒ぐ様を笑われ、果てには誰の言葉も信じられなくなってしまった。
そうなるとさすがに周りも悪いと思ったのか、それともつまらないと思ったのかはわからないが、食堂でうなだれる二人をそっとしておいてくれている。

「……でもぉ……、セレスさんが食べてたよくわからないのを魔女の胆って言われたのにはビックリしちゃったよねぇ……」
「うん……本当に食べてもおかしくない雰囲気出してたしね……」

焼け炭のように黒々としたよくわからない物体。
結局アレがなんだったのかは教えてもらえなかったが、さすがに魔女の肝と言う事はないだろう。
彼女とて人の子……のはずなのだから。

「嘘吐かないでくれたの、石丸君と大神さんだけだったねぇ」
「……だね。モノクマまで出て来て騙そうとしてくるなんてさ」
「えぇっとぉ……確か、中身は純情可憐で大和撫子な女子高生…だったっけ?」
「それそれ。さすがに騙されなかったけど、モノクマ何してるのって感じだったよねー」
「ねー」

モノクマのそれは別段嘘とも言い切れないのだが、ようやく笑顔を取り戻し始めた二人は知らなくていい事だろう。

「誰がエイプリルフールなんて考えたんだろ?一日中みんなの事疑わなきゃいけないなんてなんか嫌だよね」
「うーん……インターネットにアクセス出来れば調べられるんだけどねぇ。でもほら、もうすぐ今日も終わるし、安心して良いんじゃないかなぁ」
「そう、だね……うん、明日になったらいつも通りだもんね」

やっと安心できる、と頬を弛める苗木の横顔を見つめながら、不二咲も同様に花が咲くような笑顔を浮かべた。
それに気づいた苗木が不思議そうに小首を傾げるも、不二咲の笑みは変わらない。

「えっと、どうかした?」
「ううん。ただねぇ……苗木君と友達で良かったなぁって」
「……うーんと……、今言われると、なんだか嘘に思えちゃうんだけど……」

困ったように頬を掻く苗木。
こてん、と先程の苗木のように小首を傾げる不二咲。

「嘘じゃないよぉ?」
「そ、そう…?安心し、…………っ!?」

言い切ろうとした苗木の言葉は息と共に喉の奥に吸い込まれていった。
僅かな間頬に触れたぬくもりにただただ目を円くするしかない。

「嘘じゃないけど、嘘にしたいなぁ……なんて」
「……え、あ……え?」
「えへへ……あっ、そろそろ夜時間になっちゃう!苗木君、また明日ねぇ!」

慌ただしく立ち上がり手を振りながらパタパタと食堂を出て行った不二咲の小さな背を見つめながら、苗木はただただ呆然とするしかなかった。



(嘘と、本当と、願望と?)
(嘘みたいなぬくもりとほほえみ、ボクの頭から離れない)

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