8月4日(土) 罪木蜜柑


ハジメさんとイズルさんは、とても仲が良くて、いつも同じ事をしています。
ハジメさんがご飯を食べたらイズルさんもご飯を食べて、ハジメさんが遊んだらイズルさんも遊んで……いつでも二人で同じ事をしているみたいなんです。
ですが今日は二人別々の事をしています。
ハジメさんが風邪を引いてしまったので、ハジメさんはコテージで休んでいて、イズルさんは私と一緒に看病をしてくれるそうなんです。
えっと……わ、私、頑張ります!



「……はじめ……」
「……ん……らいじょーぶぅ」

ベッドで横になりながら息を乱しているハジメさんは、見ているだけでも本当にツラそうです。
それでも、隣で心配そうに見るイズルさんを安心させるように笑って見せるハジメさんの姿に胸が締め付けられてしまいます……。
私は……私が頑張らないといけません。
だってだって、ハジメさんは弱ってるし、イズルさんも死にそうな顔してるし……なにより私が役に立てるのはこういう時だけなんですから…っ!

「もうしばらくしたら薬が効いてくると思いますぅ…。えっと、ハジメさん、リンゴさん食べられますかぁ?」
「ん…、たべられうー…」
「じゃあリンゴ剥きますねぇ」
「……ん」
「え?」

お見舞いにと小泉さんが持たせてくれたリンゴを剥こうとしたら、イズルさんに服の裾を引っ張られました。
もしかして、なにか気に障る事をしてしまったのでしょうか…?

「えっとぉ……どうしたんですかぁ?イズルさん…」

私なんかに見下ろされるのは不快だろうと思って目線を合わせるように屈みます。
リンゴを食べさせたらいけないんでしょうか…。

「……はじめ…、……」
「うゆぅ……ごめんなさい、私ハジメさんじゃないからわからなくてぇ…………あの、えっと……あ、もしかして、リンゴ…イズルさんが剥きたいんですかぁ…?」
「ん」

コクコクと頷くイズルさん。
本当にハジメさんの事が大好きで心配なんですね…。
でも、果物ナイフとはいえ刃物を持たせるのはやっぱり不安です。
もし間違って手でも切ったら大変ですから。

「えっと、イズルさん、ナイフって使った事あります…?」
「ん」
「あるんですねぇ…。で、でもやっぱり危ないような……」
「そんな時はこれでちゅ!」
「!?…う、ウサミさん……、えっと、それって…」

突然現れたウサミさんにビックリしてしまいました。
でもここは一応ウサミさんのコテージでもあるんですから、別に驚く事じゃなかったですよね…。
ウサミさんが持って来たものを見てみると、なんだかオモチャの包丁のようでした。

「子供用の安全包丁でちゅよ。これならイズルくんでも安心でちゅ」
「あっ、そ、そうですねぇ…。ありがとうございますぅ、ウサミさん」
「いいんでちゅよ、お礼なんて!他になにか必要なものがあったらなんでも言ってくだちゃい」
「はい…。じゃあイズルさん、これでリンゴさん剥いてあげてください。剥き方、わかりますかぁ?」
「ん」

リンゴと安全包丁を渡して様子を見守ります。
子供らしく危なっかしい手付き……と思ったのですが、そんな事もなくて、もしかすると看病慣れしてる私よりも上手かもしれません。
少しだけショックですぅ……。

「……あ、ウサギさんにするんですねぇ」
「ん」

イズルさんは手際良くリンゴを剥いて、あっという間にリンゴウサギを作ってしまいました。
まだ5歳なのにこんなにできるなんて……本当にすごいです…。

「……はじめ」
「……ん……、いずるがやってくれたの…?」
「ん」
「そっかぁ……ありがとー、いずる」
「ハジメさん、食べられそうですかぁ?」
「うん、たべられる」

さっきほどツラそうには見えないので、解熱剤が効いてきたのかもしれません。
とりあえずは一安心、といったところです。

「はじめ。あーん」
「あーん」
「お、お口に……あ、えっとぉ……美味しい、ですかぁ?」
「んぅ…おいひー」
「それは良かったですぅ…!」

しゃりしゃりとリンゴをかじるハジメさんと、そんなハジメさんを見て安心したように頬を緩めるイズルさん。
ああ、お二人がそうしていてくれると本当に安心します。
イズルさんが笑っているという事は、きっとハジメさんもすぐによくなるんでしょう。
リンゴを食べさせ合っている姿になんだか癒されてしまいます。

「つみきおねえさんも、りんご、たべよ?」
「ふえ…っ!?え、えっ……い、良いんですかぁ…!?」
「うん。ね、いずる」
「…ん」

わ、私…!今なら重態の患者さんだって治してあげられちゃいそうです…!!
なんて、調子に乗っちゃうくらいの喜びですよぉ…!!
こ、こんななんの役にも立ってない私に、私に……イズルさんがあーんってしてくれてますぅ…!!

「あ、あーん…」
「つみきおねーさん、おいし?」
「……えへへ、すごく美味しいですぅ」

ああ……どれくらい前の事だったでしょう。
こんなに、こんなに嬉しくて、心から笑ったのは……。

「……つみきおねえさん、どっかいたいのか?かぜ、うつった…?」
「……いいえ?大丈夫ですよぉ。それよりハジメさんの風邪の方が心配ですから、今日はゆっくり休んでくださいねぇ?」

ウトウトしながらも私を気遣ってくれるハジメさんが可愛くて、ついつい頭を撫でてしまいました。
私が手を退かすと今度はイズルさんがハジメさんに近寄って頭を撫で始めました。

「はじめ」
「……ん…、はやくなおすからな…」

しばらくすると薬が完全に効いたのかハジメさんは眠ってしまいました。
イズルさんはずっとハジメさんの隣で寝顔を見守っています。

「……イズルさんは、ハジメさんの事が大好きなんですねぇ」

独り語ちただけのそれに「はい」という言葉が返って来たように聞こえてイズルさんを見たのですが、そんな事ないようにハジメさんの寝顔を見つめていたので、きっと気のせいだったんでしょうね……?



「つみきおねーさん!かぜなおった!」
「はじめ」
「いずるも、かんびょうありがとなー!」

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