・苗木が江ノ島と幼馴染み
・苗木が江ノ島心酔
・苗木が松田を××したいほど嫌い
・ただの暴言の応酬
・会話文
人畜無害という四字熟語が人の形をして歩いているとよく言われるボクだけど、嫌いな人がいる。
松田夜助。
江ノ島クンの幼馴染みで、江ノ島クンに心酔してる、とても邪魔な先輩。
江ノ島クンの幼馴染みはボクだけで充分なのに、いつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいつもいっつも江ノ島クンの傍にいて、でも我慢して笑顔で接してきた。
邪魔で邪魔で仕方なかったけど、江ノ島クンが「待て」って言ったから。
待てができない犬は要らないと言われたから、捨てられたくない一心で、殺意を心の奥底に押し込めて笑顔を浮かべる。
それでもきっとわかっているだろう。だって、隣で漫画雑誌を広げるこいつは曲がりなりにも神経学者なんだから。いっそ憎らしいくらい鋭敏なんだから。
「……熱烈な視線だな」
「あはは、嫌ですね、松田先輩。松田先輩に送る熱視線なんてないですよ。まあ、そこから発火してくれるなら何時間でもその綺麗なお顔を凝視し続けますけどね」
「表情は繕えても言葉までは手が回らなかったのか?子供でも隠せる本音が駄々漏れだぞ。やっぱり所詮幸運か。抽選で選ばれただけのお前にアイツの隣は相応しくないな」
「はい?そっちこそ突出しているはずの神経学者としての才能すら江ノ島クンに劣るのに、どうしてのうのうと生き……神経学者を名乗ってるんですか?江ノ島クンが、絶望的なまでに優れた才能を隠してくれているからこそ松田先輩はその存在に価値を見出してもらえてるんですよ?そこのところちゃんと弁えて、さっさとご逝去あそばしてくださいませんか?」
「俺を傍に置いているのはアイツの意思だ。お前のような子犬がぎゃんぎゃん喚いたところで覆る事はないぞ。残念だったな」
「覆るか覆らないかは先輩じゃなくて江ノ島クンが決める事ですよ。だからほら、ボクだっておとなしく先輩とこうして穏やかに言葉を交わしてるじゃないですか」
「よく言うな。穏やか?ならそのギラついた目をどうにかしたらどうだ。獣染みた賎しい目でアイツの傍にいようってのか?」
「ご親切に忠告ありがとうございます。でもそんなもの無用ですよ。先輩にしか向けませんから」
「一途な思いを貫くのは勝手だがこの上なく不快だな。俺が勘違いしたらどうするつもりだ?」
「それこそ不快極まりないですね。先輩に悪意殺意以外の感情を抱くだなんて絶望的ですよ。絶望のあまり先輩を亡き者にして江ノ島クンに面罵されたいくらいです」
「救い様がない被虐趣味者め。俺を殺す事じゃなくアイツに責められるのが目的なんだろう?」
「あれ、バレちゃいました?まあ当然じゃないですか。先輩の優先順位が江ノ島クンより高い訳ないでしょう?先輩か江ノ島クンかなら悩むまでもなく江ノ島クンだし、江ノ島クンが望まない行為ならいくら額を地に擦りつけて懇願されても絶対にやりませんよ」
「安心しとけよ。お前に頭を下げる事なんて一生涯ないからな」
「決めつけはよくないんじゃないですか?人間の心変わりなんて一瞬ですよ。超高校級の神経学者である松田夜助先輩でもよくご存知でしょう?」
「そうだな。飽きっぽいアイツの傍にずっといたからよくわかってる。これについてはお前の意見に全面的に賛同してやる」
「……その幼馴染みアピールの煩わしさといったら本当に絶望的ですね」
「絶望絶望うるさい。アイツの口真似しかできないのか?それこそ絶望的だな。絶望的につまらない幸運だ」
「つまらなくても先輩には関係ないでしょう?こんなつまらない幸運でも、江ノ島クンはボクを傍に置いてくれてるんですから」
「はっ……いつ捨てられるかわからないだろ?」
「その言葉、そっくりそのまま先輩にお返ししますね?」
「俺はアイツに飼われてるつもりはないから捨てられるなんて事はありえないぜ?」
「先輩自覚がないんですか?どこからどう見ても江ノ島クンの飼い犬ですよ。ああ、そうだ。同期に超高校級の探偵がいるんですよ。あれなら先輩の犬っぷりを一目で見抜いてくれますよ」
「素晴らしい提案だと心からの賛辞を送ってやるよ」
「お座成りな褒め言葉をありがとうございます」
「うぷぷ……俺を巡っての愛憎劇とかチョー絶望的ィ…!!」
「……盾君……そろそろ止めに入った方が……」
「大丈夫大丈夫。夜助は俺以外の為では手汚さないし、誠は待てさせてるから夜助に手出さないし、俺がいいって言うまであの穏やかな会話を何時間だって何日だって何年だって続けてくれるって」
「……そう、だね」
「はー……殺す日が楽しみすぎてゾクゾクしてきちゃった。どんな絶望顔見せてくれんのかなー」
(江ノ島クンに××してもらえるあなたが)
(××したいほど、大嫌い)