片想い系不憫組と巻き込まれ系不憫組

誰もいなくなった教室で、二人と二人は交わらない思いに溜め息を吐いた。
片一方は報われない恋心について。
片一方は解放してもらえない現状について。
気づかずに、左右田と桑田は猶も焦がれる想いを吐露し続けている。

「身分が違いすぎるって事くらい自分でもわかってんだよ」
「向こうは超有名な人気アイドル。それにひきかえ俺はただ野球が巧いだけの高校生」
「そりゃ、釣り合う訳ないって思うさ。王女様とメカニックだぜ?」
「でも諦めらんねえんだよ、こればっかりは……」

はあああ、と再び大仰に溜め息を吐き、窓ガラス越しに赤く染まりつつある空を見る二人。
どこの青春ドラマだと声を荒げようとする日向を制す苗木もほとほと言葉を失ってしまっている。

「ソニアさんが好きなのが誰かなんてホントはとっくにわかってんだよ」
「舞園ちゃんがホントは俺なんかに興味ないって知ってるんだよ」
「でもオレが認めちまったらよォ……もう望みなんて一個もねーだろ?」
「こっちからアプローチしなきゃ偶然も運命もないじゃねえか」

後ろ向きなのか前向きなのかまったくわからない。
最早日向と苗木が聞く体勢を解いても何も言わないで切々と話し続ける、片想い二人組。
かれこれ一時間はこんな状態だ。
現状を打破する為なら狛枝を召喚する事も厭わない、そんな気持ちにさえなってくる。
実際に出現してしまったら手に負えないので行動には移さないが。

「オレはソニアさんが好きだ。身分違いでも、報われなくても、この気持ちに嘘はねえよ」
「俺は舞園ちゃんの為なら野球を捨てたって構わない。舞園ちゃんが望むなら俺はマジでなんだってできる」
「……なら告白してきたらどうだ。苗木もそう思うよな?」
「うーん、確かに……そんなに好きなら思い切って伝えちゃった方がいい気がしますね」

どうやら、いい加減我慢の限界らしい。
冷ややかとまではいかないものの、多分に呆れを孕んだ眼差しで日向が左右田と桑田を見やる。
告白。その一言に完全に行動を停止した彼らは、たっぷり三十秒ほど間を置いてから泣きに入った。

「それができたら苦労しねえんだよ!!オマエらと一緒にすんなッ!!」
「そーだそーだ!!」
「あ?なんだ桑田?」
「え、いや!呼んだんじゃなくて賛同しただけっス!!」
「仲良いなお前ら…」

左右田と桑田。
身分違いの相手に片想いする者同士、引かれ合う何かがあるのかもしれない。
左右田のソウルメイトは日向ではなく桑田なんじゃないだろうか。

「えっと、別にボク告白とかしてないんですけど……」
「……告白してない?は?それでもモテるってのか?世の中の女性の何割を侍らせりゃ気が済むんだ!?」
「主人公補正とかズリィんだよ!俺は死亡フラグしか立てらんなかったのに何でそんな恋愛フラグ立ててんだ!!死ぬのか!!しねっ!!」
「しゅ、主人公補正…?」
「日向オメーも何考えてんだ!!七海がいるのに何で男女見境なくフラグ立ててんだよ!?」
「フラグって……旗なんか立ててどうするんだ?」
「この上天然キャラでさらに人気をかっさらおうってのか…!?」
「日向センパイって……見た目以上に強かなんスね…!」

噛み合わない会話にも暴走は酷くなる。
声が収まるのに比例して段々と悲壮感が漂い始めた。
果ては女性徒に媚びているだとか女性受けが良すぎるのは裏で手を回しているに違いないだとか邪推の限りを尽くし、その分自分がダメージを受けてうちひしがれている。

「……押してダメなら引いてみる、とか…」
「っい、今なんつった!?」
「え!?いや、その……押してダメなら引いてみる、って……」
「なるほど……桑田の方は知らないが、左右田は引いた方がいいかもな。しつこすぎるからソニアも冷たいのかもしれないし」

ソニアの言葉に一々反応したり、私生活を詮索しようとしたり、田中と一緒にいるときに邪魔に入ったりしなければまだ対応は違ってくるのではいだろうか。
攻めの姿勢が評価を落としている可能性がある。

「……一度引いてみっか…」
「な、なあ?俺ってそんなしつこくしてっかな?左右田センパイほどじゃねえと思うんだけど…」
「えっと……確かに話しかけたりとかはないけど……休み時間の度に舞園さんの傍ウロウロしてるのは、しつこいと思う…かな」
「ッ!?嘘……嘘だろ……」

どうやら自覚はなかったらしい。
舞園が桑田を見る目がどこか訝しげだったのに気づいていなかったとは重症だ。
超高校級のアイドルが愛想を振り撒くどころか表情を繕ってすらないという時点で気づいてもいいものなのだが。
恋は盲目とはこの事なのだろうか。
気遣いの人と呼び声高い日向と苗木にはよくわからず、ただ首を傾げるしかない。

「……とりあえず、左右田はあんまりソニア関連の話題に過剰に食い付かない事」
「桑田クンは話しかけられないなら舞園さんの席の近くを行ったり来たりしない事」
「わかったか?」
「おう。頑張るぜ。ソニアさんに良い印象抱いてもらう為だからな!」
「……俺も、舞園ちゃんの為に気を付ける」

一応は提案に納得したらしい。一安心だ。
日向と苗木はこれで解放されると胸を撫で下ろした。
ついでに軽度のストーカー行為が治まってくれたら言う事なしだ。女子達の小言を聞かずに済む。
決意に満ちた表情でお互いの健闘を祈り合う左右田、桑田に一言告げ、日向と苗木はようやく帰路についたのだった。


「ソニアさんの邪魔にならないように我慢してたら小泉に『何企んでるの!?』って詰め寄られた」
「舞園ちゃんの傍ウロウロしないようにしたら舞園ちゃんに『夢遊病治ったんですね!』って安堵された」
「お前ら……」
「散々でしたね……」



(主人公補正が欲しい?うぷぷ…いいけどバッドエンドは付き物だよ?)
(まあボクは神様じゃなくてクマ様だけどね!!)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -