日向君はリア充が何か知らなかったようです

私は、彼が愛される理由を知りました。
私が持たないあたたかさをくれる彼は、言葉のひとつひとつにも、優しいあたたかさを含ませているのです。


麗らかな昼下がり。採掘も掃除も一旦止めて、レストランで昼食を取っていた。
私の隣には日向君と左右田君。日向君を挟んだ向こうには狛枝君、罪木さん、十神君と澪田さん、九頭龍君と辺古山さん。
向かい側の正面にはソニアさん。田中君と花村君に挟まれて座って、田中君の隣に弐大君と終里さん、小泉さんと西園寺さんがいる。
この生活にもみんなだいぶ慣れてきたし、最初は険悪だった人達も今ではすっかり仲良し……だといいな。
でも本当に、希望のカケラが全部集まり切るのも夢じゃないってウサミちゃんもすごく喜んでた。
そうなったら少しだけ寂しい……うん、寂しいと思うけど、それが私のレーゾンデートルだから、しかたないよね。

「……七海、どうした?」
「ん…?何が?」

ボーッとしてたら日向君に声をかけられた。
心配そう、と思える声。
声や表情から感情を読み取るのは苦手だけど、反対にそういうのが得意な日向君はそれを汲んで教えてくれる。
ただの音声と映像に色を入れてくれる。
だから私でも今の日向君の声が、私を心配して発せられたものだって気づいた。

「いや、なんて言うか……少し寂しそうだったからさ」

気のせいならいいんだけど、って続けて、困ったように笑う日向君。
やっぱり日向君はすごいな、ちょっとだけで私の気持ちを当てちゃうんだから。
私でもわからなかった私の心。
日向君がいたから、私は私を理解できる。

「ありがとう。でも大丈夫だから心配しないで」
「そうか。なんかあったら言えよ」
「うん」

頭にそっと置かれる手のひらがあったかい。
気持ちよくて……なんだか眠くなりそう……。

「っだあああああ!!爆発しろおおおおお!!!」
「……わ、びっくりした」
「七海、大丈夫か?……左右田、いきなりどうしたんだよ」

眠気と戦う私の目を覚まさせたのは、左右田君の大声だった。
バンッとテーブルを叩いて立ち上がって、左右田君は私達を涙目で睨んでいる。
こんなふうになるのは確か、ソニアさんが田中君と仲良くして時だったと思うんだけど……。

「どうしたって逆にお前らどうしたんだよ!?どうしてリア充してんだよ!?どうしてリア充配置なんだよ!?おかしいだろ!!リア充共さっさと爆発しろよおおおおお!!!」
「左右田おにぃ、嫉妬ぉ〜?さっすが底辺の非リア男はみっともないよね〜!」
「白夜ちゃん白夜ちゃん!唯吹達リア充って言われたっすよ!たはー!これはもう結婚するしかないっすね!採集三ヶ月分の材料で指輪作って贈ればいいっすか?」
「ふ、ふざけた事言ってんじゃねえぞコラ!べ、別にオレらはそんなんじゃ…っ」
「喧しいな。どうやらこれを最期の粗餐にしたいと見える。現実の定義さえわからぬ人間が何をもってリアルが充実しているなどと戯言をほざくのか…」
「ンフフ、そんなにリア充したいならぼくとヤる?いつでも大歓迎だよ?」

みんなが左右田君のリア充爆発しろに反応して、レストランが賑やかになってきた。
でも隣に座る日向君はなんだか不思議そうな顔で、一言。

「リア充って……何だ?」

一気に場が静まり返った。
信じられないものを見たっていうような顔でみんなが日向君に視線を向ける。

「な、なんだ?なにか悪い事訊いたか?」
「日向オメー……マジで言ってんのかよ?は?そんな見せつけといて?」
「み、見せつける?リア充って見せつけるものなのか…?」
「……いや……なんつーかよォ………」

本気でわかってない様子の日向君に、左右田君はもごもごと口籠もって、結局黙ってしまった。

「リア充っていうのはね、恋人がいる人とか、恋人同士の事だよ」
「どうして恋人がリア充になるんだ?全然掠ってもないのに」
「えっとね……恋人がいる人はリアルが充実してるから、リア充っていう……らしいよ?」
「へえ、リアルが充実でリア充か…」
「日向おにぃ、そんな事も知らなかったんだ。凡人だって知ってるよフツーさぁ。ちなみに、恋人がいない左右田おにぃみたいなヤツの事は非リアっていうんだよ?」
「非リア?」

くすくす笑いながら、左右田君の傷口に塩を塗り込む西園寺さん。
小泉さんが注意してるけど、彼女のあれはきっと直らないかな。
隣で左右田君がニット帽をずらして泣いてるのを隠してて、少しだけ可哀想。

「でもさ、恋人ごときでリアルが充実してるだなんて大袈裟だよね。何かあったらすぐに別れて、病み期だ鬱だ死にたいとか騒いで、同じ事を繰り返してさ。代替の利く存在が希望に成り得るとは到底思えないよ。……なんて、ボクみたいな誰の希望にも成り得ないゴミムシが言うなんておこがまし過ぎて思わず死にたくなっちゃうね!」
「で、でもぉ、好きな人が傍にいてくれるだけで、なんだか幸せな気分になりませんかぁ?その人の為ならなんでもできるっていうかぁ…」
「はぁ?ゲロブタが何語っちゃってんの?キモいんだよっ!」
「はひいいいいっ!ご、ごめんなさあああああいっ!!」

うーん……また賑やかさが戻ってきたけど、それに紛れてすすり泣く声まで聞こえてくるからなんだか複雑かな。
いつもリーダーシップを発揮してくれる十神君は食事に夢中だし、どうやって場を収めればいいのか聞こうと思って隣に目をやれば、どうしてか思案顔の日向君の姿があった。
何を考えてるんだろう?

「……なあ、恋人がいるから充実してるっていうか、好きな相手と笑ったり泣いたりして過ごした日々を後から思い返した時に、充実してたって思うもんじゃないのか?」
「え、あ…ま、まあ……確かに……」
「恋人がいるだけじゃなくて、恋人と幸せになるのが充実なのかもしれないな。あと、年取った時にさ、向こう見ずに突っ走ってたあの頃が一番輝いてたって思えたら、それは充実してたって事なんだろうな」

充実……。
年を取った時に、思い返して。
笑って、泣いて、幸せを築いて、輝いていた、時。
プログラムはデータを蓄積させる事はできても、年を重ねる事はできない。
私のリアルはみんなの仮想、充実することなんてありえない。

「つらい事と同じかそれ以上笑った回数が多かったら、それもきっと充実してたって事なんだと思う」

それでも、みんなとお別れする時……私が消える時、私のメモリーに溜まったみんなの笑顔が多かったら。
私は、私のリアルは、充実してたって事になるのかな?
言葉にはできないからジッと日向君の目を見ていたら、日向君は優しく笑って私の頭を撫でてくれた。
あったかい言葉、あったかい笑顔、あったかい手のひら。私の大好きな温度。
全部があったかい日向君は、もしかしたら太陽のカケラでできてるのかもしれない。

「まあ、なにが充実なのかなんて俺にはよくわかんないけどさ。きっと、」
「も、もうやめてくれ!これ以上お前の話聞いてたら、お前と付き合って幸せになりたい気になってきちまう…っ」
「え」
「さすが日向クン、素晴らしいよ!大切なのは幸運と不運を共に過ごした時間と思い出なんだね。こんなボクでももしかしたら誰かの希望を築く一助になれるかもしれないと思うとワクワクしちゃうよ。むしろ日向クンと一緒に希望を築き上げていきたいとすら思うね!」
「なっ」
「あ、アンタってさ……なんか……恥ずかしいよね」
「は…っ!?」
「お、おにぃの馬鹿っ!」
「なんで、」
「さすがは我が魂の伴侶……。世に溢れ蔓延る偽りに満ちし邪悪な言の葉を、虚構に踊らされる無知な人の子にも解せるよう正すとは……」
「えっと、」
「この島に来てから笑った数の方が多いわたくしは今とても充実してるんですね!次王の器を持つ日向さんを見つける事もできましたし!」
「いや、」
「創ちゃんカッコイイっすー!唯吹が白夜ちゃん一筋じゃなかったら早速唇奪っちゃってたトコっすよ!」
「………」
「お前さんの言葉、しっかり受け止めたぞおおおおお!!」
「ふゆぅ…日向さん、すごくかっこよかったですぅ…!」
「さすがオレの兄貴分だ。良い事言うじゃねえか」
「心に響いたぞ。ぼっちゃんが一目置くだけの事はあるな」

日向君の話を聞いて、みんな……っていってもご飯を食べてる十神君と終里さんを除いてだけど、みんな顔を赤く染めた。
照れたり、怒ったり、惚けたり。
俯いたり、目を逸らしたり、反対に日向君をまっすぐ見て目を輝かせたり。
三者三様な反応に日向君はついに言葉を挟むのを諦めたみたい。

「日向君、モテモテだね」
「……俺、なんか変な事言ったか?」
「ううん。あったかかったよ」
「は?」

手を伸ばして、戸惑ったような日向君の頭を撫でる。
撫でられるのもあったかいけど、撫でるのもあったかい。
日向君は全部あったかい。

「傍でお昼寝したくなるくらい、とってもあったかかったよ」

あったかい日向君は私まであったかくしてくれる。
心を教えてくれて、あったかさを分けてくれる、私はそんな日向君が。

「大好き」

あったかさで包んでくれる日向君が、私達はみんな大好きだよ。



(日向君はきっと、太陽のカケラでできている)

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