褪せない色


ボクの手を引いて東地区の中庭を歩きながら江ノ島クンはにこやかに言い放った。

「ね、苗木知ってる?網膜も日焼けするんだってさ」
「……わざわざ日射しが強い日に連れ出したのはそれが理由?」
「せーかい!だんだん焼けてって、世界がどんどん色褪せてくんだぜ?いつかこの絶望的に清々しい青空が青くなくなって、世界が今以上に薄汚くなって……その時苗木がどんな顔するのかすっごい気になるじゃん」

楽しげに笑って、空を見上げる江ノ島クン。
釣られてボクも空を見た。
今でも充分青く見えているこの空だけど、そういえば小さい時はもっと綺麗な青だった気がする。
いつかはこの青も当たり前じゃなくなって、もっと薄暗い色を当然の空の色だと思うようになるんだろうか。

「……じゃあそのうち江ノ島クンの色もわかんなくなっちゃうのかな」

太陽の光を浴びてキラキラしてる金色の髪が、なんの味気もないモノクロの世界の一部になるのを想像する。
色という色が死んだ世界で生きるのは、なんだか生きていないのと大して変わらないような気がしてしまう。

「それは……ちょっと嫌かも」

生きているのに死んでいるような世界じゃ、こうやって手を繋いでいても寂しいんじゃないだろうか。
色がないだけで、隣にいるのに遠くなる。
なんだか少し怖くなって、ボクは江ノ島クンと繋いだ手に力を込めた。

「ねえ、江ノ島クン。もう教室もど…うわっ!?」

いきなり抱き締められて思わず口から悲鳴が漏れる。
しかも抱き締める時に江ノ島クンが「苗木ぃぃぃ!!」なんて叫ぶから余計に。

「ちょ、どうしたの、江ノ島ク…」
「なんでそーゆー可愛い事言っちゃうかなあ!?なんなの?誘ってんの?この場で犯してほしい訳?」
「おか…っ!?ち、違うよ!どうしていつもそういう発想に辿り着いちゃうのさ!」

繋いだ左手はそのままに、空いた右手をベルトにかける江ノ島クン。
さすがにマズイと思ったボクは慌てて江ノ島の胸板を押し返した。

「ホントにダメだからっ!」
「えー。煽るだけ煽っといておあずけとか、苗木いつからそんな小悪魔になったのさー」
「なってないし煽ってないよ!」

渋々離れる江ノ島クン。
一体どういう思考回路をしてるのか……舞園さんじゃないからわからないけど、本当突拍子もない。
ところ構わずこういう事してこなければ、もう少し素直に甘えてもいいかなって気になれるのになぁ…。

「だいじょーぶだいじょーぶ。苗木の世界から色が消えたって、その度に俺が色付けしてやるからさ」
「………」

どうして色が消えるのが前提なんだとか、消えた色をどうやって付けるんだとか、いろいろ言いたい事はあるのに、なんだか言葉にするのは無粋な気がしてしまって。

「……うん、その時はよろしくね」
「オッケー!安心して俺に任せてくれちゃっていいからね、苗木!」

にひひ、と笑う江ノ島クンの金色が眩しくて少しだけ目を細めた。



(いっそ俺以外から色なくしちゃう?)
(……そういうの本当にやめて)

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