心中希望カムクラ君が日向君に絆されかけてたら私得


誰の目も、誰の思惑も届かない深い場所で、あなたと沈んで死んでしまいたい。


彼の綺麗な部分といったらやはり目だと思います。
その目に映る感情はすべて予想から外れる事がありませんが、それでも目の輝きだけはいつだって、才能に愛された僕の予想を裏切るのです。
もしかするとそれは、僕と異なる部分だからかもしれません。

「……ん…?ああ……お前が呼んだのか」

僕が呼べば彼は中に沈んできます。
何もない、広くてひたすら黒いだけの空間に。
この隙に主導権を奪い返し、日向創の身体を完全に自分のものにするのも可能ですが、それはツマラナイ。
彼を失って生きたいわけではないのですから。

「で?どうしたんだよ?またツマラナイから暇潰しでもさせろっていうのか?」

最初は不安がっていた彼も、度重なる呼び出しでだいぶ慣れたのか今では笑顔を浮かべる余裕さえあります。
慈しむような色が浮かぶのをジッと見つめているだけでも充分ツマラナクナイと言ったら、彼は次はどんな顔を見せてくれるのでしょうか。
同じ顔のはずなのにこうも違うものなのかと少しだけ感心します。
表情筋は彼の方が発達しているのかもしれません。
僕には表情を作る必要なんてなかったので、当然といえば当然です。

「……お前さ、無言で人の顔凝視するのやめろよ」
「照れますか?」
「照れるっていうか、なんか変な感じになるだろ」
「そうですか」

正反対な自分と顔を突き合わせている奇妙な状態だからでしょう。
彼は僕の視線になかなか慣れません。

「なら、なにか喋りながらならいいんですね」
「……お前の頭の良さって時々すごく憎たらしいよな」
「憎いですか、僕が」
「よく言うよ。万が一にもそんな事有り得ないってわかってるくせに」
「ハジメは僕の予想外の言動を取る事があるので」

ハジメの目は優しくてあたたかいです。
そのうえ、ハジメは自分の才能のなさに絶望はしたけれど世界に絶望した訳ではないので、終わってるヤツ特有の匂いもありません。
終わる前に終わってしまったのだから当然かもしれませんが。
きっとこれが未来機関の人間が望む希望というものなんでしょう。
無価値が才能を求め、天才になり絶望し、才能をなくして希望を得る。
随分と遠回りをしたものです。
だからこそ、希望でありながら絶望の側面を持つハジメだからこそ――ツマラナイ有象無象を、引き寄せてしまう。

「……カムクラ?」
「なんですか?」
「今凄い顔してたぞ。どうかしたのか?」
「……いえ、なんでもありません」

少し、ハジメの周りに寄って来た虫の事を考えていました。
ハジメを前にしている時に他に考えを持っていかれるなんていけませんね。
けれど、役割を放棄しているはずの表情筋の動きがわかるのも、ハジメの目があってこそなんでしょう。
僕を理解できずとも見ていてくれるというだけで胸が弾みます。
もしかすると、必要がないと奪われたものでさえ、ハジメの前では当たり前に存在するような気になるんです。

「僕と一緒に死んでくださいと言ったら、ハジメはどうしますか?」
「……お前と心中は嫌だ」
「そうですか」

ハジメの顔に苦い色が浮かびました。
けれど失望はありません。
そもそも希望も絶望も持っていないので、失うような事はないのです。
なのに。

「俺はお前と一緒に生きていきたいからな」

酷い、酷すぎる殺し文句です。
二人で時を止めるより、二人で時を歩む方がいいなんて。

「……プロポーズですか」
「ぷっ!?いやいやいやいやっ、違う!違うからな!?そういう意味で言ったんじゃないぞ!!ほ、ほら、俺とお前って、一心同体っていうか、一蓮托生っていうかさ、だから、あの、プロポーズとかそういうんじゃなくてだな…っ
「慌てすぎです。わかってますよ」

顔を真っ赤にして慌てるハジメを宥めたら「笑うな!」と怒られてしまいました。
どうやら少し頬が緩んでいたようです。
それほどプロポーズの威力が絶大だったと言えばわかってもらえるでしょう。

それでも僕はあなたと死にたいんだと、そう言ったらどうしますか?
希望にも似た形のそれを、僕はそっと飲み込みました。



沈んで、沈んで、沈んで。
誰の目も声も思惑も、光さえも届かない場所で、二人で一緒に、ただ息を止めたいだけなんです。

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