8月1日(水) ソニア・ネヴァーマインド

ハジメさんとイズルさんは破壊神暗黒四天王さんと仲がよろしいようです。
田中さんのご指導の下、魔獣の手懐け方を学んでいます。
今日は田中さんが採集で海まで行かなくてはならないので、お休みを割り当てられたわたくしがお二人を手懐けようと思い立ったのです!



ハジメさんとイズルさんは、ウサミさんと一緒のコテージに住んでいます。
ハジメさんはしっかりしていますし、イズルさんはとても聡明なのですが、さすがに子供二人だけで住まわせるには心配だったようです。
有事の際に即座に対応できるように、との配慮だと言っていました。
ですがウサミさんはコテージ以外にちゃんと家があるらしく、時々しかコテージにいません。
これは由々しき問題です!
わたくしは急いでお二人のコテージに向かいました。

「ハジメさん!イズルさん!」
「あ、そにあおねえさん。おはよう」
「はじめ」
「いずるも、おはようだってさ」
「あ、はい。おはようございます」

扉を開けると、図書館から借りてきたと思われる図鑑を眺めているお二人の姿がありました。
ハジメさんの言葉で朝の挨拶を忘れていた事を思い出したわたくしは、にっこりと笑って挨拶を返しました。
今日のお二人は外に出掛ける予定がないのでしょうか、いつもとは違って、ハジメさんがウサギ、イズルさんがクマを模したパーカーを着ています。
何故かそのウサギは白とピンク、クマは白と黒に左右で色が分かれていて、ジャパニーズアニメにこんな可愛らしくないキャラクターがいたのかと少し感心してしまいました。

「なにかあったの?」
「え?どうしてですか?」
「まだあさなのに、こてーじにきたから」
「いいえ。ウサミさんが今日はお留守と聞いたので、わたくしがその間お二人を手懐けようと思いまして!」
「てなずけ…?」
「……はじめ」

イズルさんがハジメさんを庇うように背中に隠しました。
田中さんよりも赤い目が、敵を威嚇する魔獣のように輝いています。
……どうやら言葉の選択を間違ってしまったようです。

「て、手懐けるではありませんでしたか?となると……ああ!盟約でした!わたくし、お二人と盟約を交わそうと思って来たんです!」
「!めいやくっ」
「!」
「はい!そうなんです!」

盟約、と正しい言葉を出した途端に、イズルさんの目にあった敵意が消えました。
よかった、どうやら誤解は解けたようで一安心です。

「そにあおねえさんも、おれたちのともだち!」
「ええ!そうなると盟約を交わした記念としてパーティーを開かないとなりませんね」
「ぱーてぃー」
「そうです。田中さんと破壊神暗黒四天王さんも呼んで盛大に行わなければ!このコテージをお借りしても大丈夫でしょうか?」
「だいじょうぶっ!ぱーてぃーやろう!」
「そう言っていただけて幸いです。では飾り付けをしないとですね。ええと、日本ではどのような飾り付けをするのですか?」
「うーん…………あ、ほそながいかみをわっかにして、それをつなげてかざりにしてたきがする…?」
「なるほど、細長い紙ですね!ロケットパンチマーケットから調達して来ましょう!」

思い立ったが吉日、善は急げです!
わたくしはハジメさんとイズルさんを連れてロケットパンチマーケットに向かいました。
お二人が歩く度に、ウサギとクマのフードが揺れているのが大変愛らしいです。

「折り紙で大丈夫でしょうか?」
「たぶんだいじょうぶ。ほかにもかざるのないかなー」
「はじめ、はじめ」
「ん?これもかざるやつなの?」
「ん」

イズルさんが持って来たのは、どうやらイルミネーションライトのようでした。
箱に書かれている説明を読んでみると、赤青黄緑白の五色のライトが五つのパターンで明滅するようになっているようです。
これならコテージも一層煌びやかになる事間違いなしですね!

「イズルさん凄いです!よーし!わたくし達も負けないようにパーティーに役立つ物を探しましょうね、ハジメさん!!」
「うんっ!」

その後お二人とマーケット内を探索し尽くし、飾り付けに必要な折り紙、ハサミと糊、イルミネーションライト、それに食料と、破壊神暗黒四天王さんの為の伝説の宝を確保したのです。
探している間にだいぶ時間が経っている事に気付いたわたくし達は慌ててマーケットを飛び出しました。
ハジメさんとイズルさんは折り紙や伝説の宝が入った袋を一緒に持って、ウサギとクマのパーカーを揺らしながら歩いていきます。

「もうお昼だったんですね…」
「ねー。おなかへったな、いずる」
「ん」
「それではパーティー前に腹ごしらえしないといけませんね。腹が減っては戦は出来ぬのですから!」
「はらごしらえー」

わたくしの言葉を繰り返しながら歩くハジメさんはとても可愛らしいです。
それを見て頬を緩めるイズルさんも。
子供というのはどうしてこうも愛らしいのでしょうか。
その場にいるだけで雰囲気を明るくしてくれる存在というのはとてもありがたいものです。
子はカスガイとかこの事を言うんですね!


コテージに戻って腹ごしらえを終えたわたくし達は、急いでパーティーの準備を始めました。
わたくしが折り紙をハサミで細長く切って、ハジメさんとイズルさんが輪にして繋げていきます。
イルミネーションライトの方はわたくしではよく勝手が分からなかったので、コテージの掃除にやって来た狛枝さんを捕まえてやっていただいたのですが……。

「ハジメクンもイズルクンも、可愛い服着てるんだね?ウサギとクマ単体だとすっごく憎たらしいのに、二人が着るだけでこんなに可愛らしくなるなんて、やっぱり二人は凄いなぁ!特にハジメクン!白とピンクが似合うなんて、本当に男の子なの?あ、疑ってる訳じゃないんだよ!ただそれくらい可愛いなって意味なんだ!まあボクとしてはハジメクンが男の子でも女の子でも全然気にしないんだけどさ!」
「…………いずる」
「はじめ」

イズルさんが固まるハジメさんを手招きして自分の背中に隠しました。
今朝方わたくしも同じようにされましたが、これはハジメさんが本気で警戒していて、イズルさんも本気で威嚇しているようです。
……どうやら狛枝さんを招き入れたのは失敗だったようですね。

「狛枝さん。このコテージの掃除はわたくしがしますので、狛枝さんは他のコテージの掃除の方に移ってくださって構いませんよ」
「え、そんな!ソニアさんは今日休みなんでしょ?せっかくの休日をボクごときの為に潰すなんて申し訳なさのあまりうっかり首を吊っちゃいそうだよ!でもそのボクみたいなゴミ虫への気遣いもソニアさんの王女としての才能の一部なんだよね?ならボクはこれ以上食い下がらないでソニアさんの優しさに感謝しながら他のコテージの掃除に行く事にするよ!じゃあまたね、ハジメクン、イズルクン、ソニアさん!!」
「苦しゅうない、よきにはからえ!」

わたくしの後ろでまだ警戒しているお二人に笑顔で手を振って出て行く狛枝さん。
本当に一体どうしたというのでしょうか。
あそこまでの執着を見せるような方ではなかったような気がするのですが……。
狛枝さんがいなくなったのをしっかり確認して、ハジメさんがふっと息を吐きました。

「……へんしつしゃだ」
「変質者ですか……悲しいですが否定できませんね」
「もう、これきない…!」

パーカーを脱ぎ捨てようとするハジメさんをイズルさんが必死に宥めています。
わたくしとしても、お二人の可愛らしいお姿を田中さんにも見せて差し上げたいので、できれば着ていていただきたいのですが。

「……へんしつしゃのまえでは、きない。ぜったい」

どうやらイズルさんが勝ったようです。
無言のままどう説得したのかわからないのですが、やはり双子の神秘、テレパシーというものは存在するのですね!
ぎゅっと繋いだ手がお二人の絆を表しているようで、なんだか温かい気持ちになります。

「さて、とにかくこれで準備は整いましたね。田中さんを呼んで来なくては!ハジメさんとイズルさんはコテージで待っていてください。鍵をかけて、狛枝さんが来ても絶対に開けてはダメですよ?わたくしが来たら扉を三回叩いて、ソニア・ネヴァーマインドと田中眼蛇夢が来ました、と言いますから、そしたら鍵を開けてください」
「わかった!」
「イズルさん、ハジメさんをしっかり守ってくださいね」
「ん」

こくこくと必死に頷くお二人を見て、わたくしは田中さんを呼びにコテージを出ました。
呼びに行った先で左右田さんが泣き崩れていたり、花村さんが鼻から出血していたり、狛枝さんが「可愛いウサギのハジメクン達はコテージにいるの?ハァハァ」と訊いてきたりしましたが、お二人を放って長話をする訳にもいかないので、失礼かとは思いますが無視させていただきました。
コテージに戻って、念の為なにもなかったか訊ねたところ、様子を見に戻って来たウサミさんがコテージに入れず泣きながらどこかに行ってしまったそうですが……別宅があるのですから気にする必要はありませんよね?

盟約を交わした者達だけのパーティー、田中さんに言わせればサバトは少人数ながら盛大に行われました。
ハジメさんとイズルさんと田中さんとわたくし、それぞれの手のひらに伝説の宝を頬張る破壊神暗黒四天王を乗せて、もふもふを堪能したのです。
他にもハジメさんお気に入りの動物図鑑……いえ、魔獣ノ書に載っている魔獣達の生態などを田中さんに教えていただいたりと、とても有意義な時間を過ごす事ができました。
やはり盟約を交わした者同士、共に過ごす時間というのはこれ以上なく愉快で甘美なものなのですね!


(ハジメさんは変質者に怯えるウサギさん)
(イズルさんはウサギを守るクマさんなのです)

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