彼女が彼女を恨むワケ

食堂で白夜様を待っていたアタシは、いつになく真剣な眼差しでアタシを見つめる苗木に気付いた。
アタシと違っていつも誰かが側にいる苗木が誰かと一緒じゃないことに驚いて訊ねたら、二人きりになりたくて、とはにかむように笑って。

「腐川さんが好きなんだ」

苗木が、アタシに告白した。
無音。
自分の鼓動の音さえ聞こえない。
やだ、アタシ、もしかしてショックすぎて心臓止まっちゃった?
告白されてショック死なんてホント馬鹿みたいなのにどうしてこうも心惹かれるの?
あ、あれ…?
心ってどこにあったかしら…?
心臓?
なら止まったアタシが惹かれるわけないじゃない。
それとも脳?目?手足?
ごちゃごちゃになった頭では訳の分からない考えしか出てこない。

「な、な、ななななななな何言ってるのよ、苗木ってば…!あ、アタシをからかおうったってそうはいかないんだから…!!」
「それは違うよ!ボクは本気で腐川さんが好きなんだ。腐川さんの為だったら、桑田クン秘蔵の舞園さやかフォトブックでも葉隠クンの髪の毛でもなんでもトラッシュルームで燃やしてみせるよ」
「う、え、えぇ…!?」

苗木の目はどう邪推したって本気で、アタシは無駄に高鳴る心臓を服の上から押さえつけた。
アタシが好きなのは白夜様。
それに間違いはないけど、でも……こんなに真剣な顔でアタシに愛を囁いてくれる人なんて他にいるはずない。
相手が白夜様なら犬のような扱いを受けるのも存外幸せだけれど、こうも熱烈にアタシを求めてくれている苗木の想いを裏切るなんて……アタシには……。
目を閉じて、苗木との未来を想像してみる。
アイツごとアタシを受け入れてくれる苗木。
このお人好しはきっとなによりアタシを優先してくれる。
一緒に行った映画館で途中で寝ることもないだろうし、アタシを陰で嘲笑うようなこともない。
アタシを馬鹿にしたり気味悪がったりしないで、普通の女子みたいに接してくれる。
照れたように笑って手を差し出す苗木と、その手を取るアタシの姿が見えて。

「あ、あのね、苗木……あ、あた、アタシも…っ」
「待て!!」
「……十神クン」
「びゃ、びゃきゅ、白夜様!!」

苗木のことが好き、そう言い切る前に現れた白夜様の姿に、アタシは一気に正気に戻された。
それにしても白夜様のお名前を噛むだなんて…なんて罪深いのかしら…!
入り口で声を上げた白夜様は、とても優雅な足取りでこっちに近づいてきた。

「そんな庶民の言葉に耳を貸すな。お前の所有者は俺だろう」

徹底的に人の尊厳を無視した発言。
自分以外のすべてを見下した態度。
なのにそれにどうしようもなくアタシへの想いを感じ取って、アタシは口から心臓が飛び出るんじゃないかと思った。
白夜様がアタシを所有物と認めてくださった!
それはつまりアタシの存在を認めてくれたということ、許してくれたということ。
ああ…人は歓喜すると震えるって本当なのね…。
アタシは今、白夜様に許された。
それは、アタシを愛する誰かに求められるよりも幸福で、本来なら絶対に有り得ないはずだったのに……。

「白夜様ぁ…っ!!」
「……十神クン。キミが腐川さんに並々ならぬ執着を持ってるのは知ってるよ。でもそれって、腐川さん、いや、ジェノサイダー翔に対する興味からくるものでしょ?そんなの、愛情なんかじゃない」
「所有の理由は愛情じゃないといけないのか?これだから庶民の発想力の貧困さには付き合っていられないんだ」
「そもそも、本当に好きなら所有とかそういう表現は使わないはずだよ。いくら人間の尊厳を度外視する十神クンでもさ」
「ふん、当たり前だ。こいつに好意を抱いたことなど一瞬たりともない」
「え?」

え、え、えええ?
どういうこと?どういうことなの?
さっきのあれはアタシを認めてくれたってことで、アタシが傍にいることを許してくれたってことで、間違ってないはずなのに。
好意を抱いたことなど一瞬たりともない?
え?じゃあ白夜様のさっきの言葉はなんだったの?

「え……じゃあ、どうして腐川さんに告白なんて…」
「あれを告白と呼ぶあたりお前の低度が知れるな。……お前が腐川を好きと言ったからだ」
「……は?」
「え、えええ、あの、白夜様、それは一体どういう…」

困惑するアタシなんて見向きをせずに、白夜様が苗木の目の前に立つ。
不思議そうな顔で見上げる苗木の頬に手を添えて、白夜様は言葉を続けた。

「お前が腐川を好きと言ったからだ。腐川を手元に置いておけば、必然的にお前が手に入ると思ってな」
「と…十神クン…」

ちょっと待って、待ってください白夜様。
それってつまりアタシは苗木を釣る為のダシってことですか…?

「お前が俺ではなく腐川に好意を寄せているというのは不快で仕方ないが…」
「それは違うよ!ボクは……ボクも、腐川さんが十神クンを好きだって言うから……十神クンが腐川さんを傍に置いてるから……腐川さんと恋人になれたら、少しは十神クンの近くにいられると思って……」
「苗木……」
「十神クン……」

見つめ合う二人。
白夜様が下を向いて、少し屈んで。
それに応えるように、苗木が上を向いて、背伸びをして。
だんだん近づく唇が、重なっ――


「い、いやああああああ……ああ……あ…れ……夢…?あ、あはは、そう…そうよね、夢、夢よ、あんな……あんな…っ!ジェノサイダー翔…!絶対…絶対許さないんだから…ッ!!」



(アタシの夢にまで影響しないで!)

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