ハジメは野菜も肉も好き嫌いなく食べるが、イズルの方は恐ろしい事に食事にあまり興味がないようだ。
ハジメに注意されてようやく食べ物を口にする。
酷い時はハジメが口元まで運んでやらないと食べない。
これは由々しき問題だ。
レストランに全員が揃ったらやっと昼食が始まる。
脂身が足りないのが少々不満ではあるが、とてつもなく不味い訳ではないし、量が少なくて飢えるような事もまずない。その点では満足している。
ハジメとイズルのメニュー俺達とは違い、今日はオムライスとオニオンスープとコーンサラダのようだ。
確かに子供が好きそうではあるが、あれだけの食事でも不満を零さないとは将来に些かの不安を覚える。
大体、どうしてこんなにもスプーンで食べやすい物ばかり用意したんだ!
これではイズルが自力で食べずに済んでしまうじゃないか!
「いずる、あーん」
案の定ハジメがオムライスをスプーンで掬ってイズルの口元に運ぶ。
箸を使う日はこうはならないのだから、あまりスプーンを使わせないようにしなければならないと言うのに。
前にも一度注意してみたのだが、イズルは無視、ハジメは申し訳なさそうに笑うだけだった。
「イズル。ハジメに食べさせて貰ってばかりでどうする」
だからと言って無視する訳にはいかないと、俺は再度注意した。
注意した、つもりなのだが……。
「はじめ」
「ん。あーん」
「…………俺がいつ、ハジメにも食べさせてやれと言った?」
あろう事かイズルは俺の言葉を「偶にはハジメにも食べさせてやれ」という風に解釈したらしい。
何故自分で食べろと言われているのだと思わない!
「おいしいな、いずる」
「ん」
俺の気も知らずにほわほわと柔らかい空気を醸し出し始めた。
周りのヤツらもそれを見て頬を緩める。
そんな風に誰も注意しないからハジメがイズルを甘やかすんだろうが!
「お前達…っ」
「白夜ちゃん、怒っちゃダメっすよー。食事は楽しく!これ鉄則っす!!」
澪田……。
「きっとあの二人は、自分達以外を知らないんす。まだちっちゃいのに、二人だけで世界ができあがっちゃってるんす。だからね、焦らないでちょーっとずつ教えてけばいいんすよ」
確かにあの二人は自分達だけで完結しているような節がある。
あくまで俺の主観に過ぎないが、ハジメはイズルに頼られる事に安心していて、イズルはハジメに甘える事で安心しているようだ。
それが双子特有の依存関係なのかはわからないが、あまりいいものには思えない。
「最初は白夜ちゃんの注意も無視してたイズルちゃんが、白夜ちゃんの言う事聞いたんすよ?ちょっと間違っちゃったっすけど、これって大きな一歩っす。イズルちゃんも、少しだけど歩み寄ってくれたんすよ。だから、ゆっくりやるっす!」
「……ふぃふぉぶぁ」
いいから手を退けろ!
注意どころか食事もできないじゃないか!!
「……たはー!唯吹ってばうっかり白夜ちゃんの口塞いじゃってったっすー!白夜ちゃんのぷっくり色艶リップに手押し付けてたとか罪深い!罪深すぎる!役得っすな!!」
「ええいッ!何が役得だ!いいから離れろ、俺はメシを食うんだ!!」
「唯吹もご相伴にあずかるっすー!」
「やかましい!静かにメシも食えないのか!!」
「いずる、あのふたり、なかいいな」
「はじめ」
「はい、あーん」
(まあ、澪田の言う通り)
(もう少し時間をかけて教えていくか)