7月27日(金) 小泉真昼

ハジメくんはしっかりしてて挨拶も返事もちゃんとできる子で、イズルくんとは正反対。
イズルくんは大人しすぎて、ずっとハジメくんにくっついてて喋りもしない。
お父さんやお母さんが傍にいないから不安なのかもしれないけど、さすがにこんなんじゃダメ!
小さくたって男の子なんだから、もっとシャキッとしないと!



「イズルくん!なんでもかんでもハジメくんに頼りっぱなしじゃダメでしょ?」
「…………」
「自分の事は自分でやらなくちゃ!それに自分のお口があるんだからちゃんと自分で喋らなきゃダメよ?ハジメくんがイズルくんの事わかってくれてるからって、他のみんなにはわかんないんだから」
「…………」
「イズルくん?わかったの?」
「…………」
「あ、ちょっと、イズルくん!」

叱ってる途中でイズルくんが歩いてっちゃった…。
アタシの言ってる事わかってくれたのかな…。
溜め息を吐くと、スカートの後ろをグイッと引っ張られた。
やだ、もしかして左右田?…と思ったら、そこにいたのはハジメくんだった。
イズルくんと話してる間は千秋ちゃんに任せたはずなのに、どうしてここにいるんだろう?

「いずるをいじめないで」

ハジメくんと話をする為に腰を落としたら、ハジメくんがアタシをまっすぐ見てそう言った。
もしかして、さっきの見られてた…?

「あ、あのね、ハジメくん。アタシはイズルくんをいじめてた訳じゃないのよ?ただ、イズルくんがもう少しみんなと仲良くしてくれたらいいなってお願いしてただけなの」
「でも、いずる、いやだっていってた」
「え?イズルくんは何にも…」
「いってた。おれにはきこえたもん。いずるをいじめないでよ」

いじめないでって言うハジメくんの目は本気で、もしかしたら本当にイズルくんが嫌だって言ってるのがわかったのかもしれない。
アタシ達がわからないだけで、イズルくんとハジメくんはちゃんと意思疎通ができてるみたいだし。
でも、だからってイズルくんをあのままにしておく訳にはいかない。

「あのね、ハジメくん。ハジメくんとイズルくんは今のままでもいいかもしれないけどね、このままだと大人になった時に大変な思いをするのはイズルくんなの。だから少しずつでもみんなとお話しするのに慣れていかなくちゃいけないんだよ」
「いずるは、おはなしできるよ。でも、しないだけ」
「じゃあ、なおさらみんなとお話しするのに慣れておかないと。できるのにやらないのはね、よくない事なんだよ?」
「どうしてよくないの」
「え…それは…」
「どうして」

どうしてって言われると困る。
話すのは当たり前の事だし、話さないと色々不便で、大変だから。
でも二人はそう思ってないし、全然不便でも大変でもないみたいだし…。

「こいずみおねえさんは、いずるをしらないのに、そういうこというんだね」

ハジメくんが嫌な物を見るような目でアタシを見る。
どうして?
違うよ、アタシは、イズルくんにちゃんとした大人になってほしくて。

「ななみおねえさんは、いわなかったよ。いずるがしゃべらないの、おこんなかった」

それは、千秋ちゃんは大人しくて、ぼーっとしてて、きっと子供の叱り方がわからないからで…。

「いずるは、わるいとこなんにもないのに、どうしておこるの?」

怒る?怒ってないよ、アタシは、叱っただけだよ?
もしかしたら、ほんの少しだけ、強く言い過ぎちゃったかもしれないけど、少しでもみんなと話すようになってほしくて。
そう思うのは、アタシの独り善がり?

「いずるは、」
「はじめ」
「いずるっ」

いなくなったはずのイズルくんがアタシの後ろにいた。
ハジメくんがイズルくんに駆け寄る。
振り返ると、ハジメくんとイズルくんが手を繋いでて、ハジメくんが笑ってて、イズルくんも、なんとなくだけど、嬉しそうで。
あれ?あれ?……あれ?
もしかしてアタシ、間違っちゃった?
アタシの存在を忘れたみたいにコテージの方に歩いてく二人を目で追う事しかできなかった。

「……小泉さんは、ちょっと焦り過ぎちゃったんだよ、うん」

気づいたら地面に座り込んでいたアタシの隣に、千秋ちゃんがちょこんと座っていた。
アタシと違って、イズルくんの事を怒らなかった千秋ちゃんが。

「イズルくんのあれって、きっと二人にとっての繋がりなんだよ。だからね、私達が無理矢理取り上げたりしたらダメなんだ…と思うよ」
「……嫌われちゃったかな、アタシ」
「うーん……謝れば、許してくれるんじゃないかな?ハジメくんもイズルくんも、素直だし」
「そっか…そうだよね。アタシ、謝って来る」
「うん、いってらっしゃい」

千秋ちゃんに背中を押して貰って、駆け出す。
二人にちゃんと謝って、そしたら、ちゃんと、二人のペースを見守ってあげなくちゃ!



(話さないのも離れないのも)
(あの子達だけにわかる絆、だったんだね)

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