被害者の会
※生徒達は全員寮住まいというご都合主義


日向創は困っていた。
原因は、先程まで一人で屋上を占拠していた自分の隣で膝を抱えて蹲る苗木後輩に違いないのだが、彼がこうなった原因は自分のクラスメート達なのだ。
可哀相に、周りの女子生徒よりも小柄で可愛いからという理由だけで女装を強要されそうになったという。
苗木のクラスメートである過保護者達の乱入によってどうにか事無きを得た……と言ってしまいたいのだが、どうやら過保護者達の乱入理由は「苗木にセーラー服は似合わない、どうせ女装させるならもっと苗木に似合うものにするべきだ!」という主張の為だったらしい。
まさに前門の虎、後門の狼。
しかし王道セーラー派の虎と萌え袖ブレザー派の狼が醜い学年裁判をしている間に這う這うの体で何とか逃げ出し、学園の良心との異名を持つ(超高校級の良心ではない辺り何か考えさせられるものがある)という噂の日向の元に辿り着いたのだ。
逃げ場としての候補には懇意にしている左右田和一も挙げられたのだが、女装計画犯の一人に想いを寄せている以上彼に縋るのはさすがに憚られたようだ。
何度か対面はしていてもあまり言葉を交わした事のない生徒の元へ逃げるという事は相当切羽詰まっていたのだろう。

「確かにボクは舞園さんや霧切さんよりも小さいですけど……だからって女装なんて……!」
「そうだな。小さいのが可愛いなんて男にとったら侮辱以外の何でもないよな」
「ですよね!ボクもそう言ったんですけど、みんなセーラー服とかスク水ニーソとか裸エプロンとか手ブラジーンズとか全開パーカーとかワケ分かんないことばっかり言ってて聞いてくれなくて……」
「……」

さすがに何の言葉も返せず、日向は苗木の頭を優しく撫でた。
完全に、男にさせる格好ではない。後半にいたっては女装ではなくただの各人の好みだ。
前々から超高校級の希望厨にストーカー行為を働かれている可哀相な生徒だと思っていたのだが、どうやら日向が思う以上に様々な方面から被害を受けているらしい。

「でも苗木はまだ一年だし、これから伸びると思うぞ?俺も高校入ったから伸び始めたしな」
「!ほ、本当ですか!?」
「ああ。逆にその身長で成長が止まるっていう方が難しいと思う」

平均身長にすら届いていないクラスメート二人の姿が日向の脳裏を掠めるが、彼らもまたいずれ成長期を迎えるだろう。
こればかりは個人差の為何とも言えないが、何も言わないよりはいいだろう。
気休め程度でも、この不憫な後輩をどうにか安心させてやりたかった。

「睡眠が大事って聞いた事あるな。八時間睡眠で十時には寝た方がいいらしい。あと牛乳は飲むだけじゃなくてその後に運動しないとカルシウムとして吸収できない、とかなんとか」
「な、なるほど…!じゃあ八時頃にはバリケード作り始めないといけないんですね」
「……なあ、そのバリケードって、主に誰対策だ?」
「え?狛枝先輩とか江ノ島さんとか十神クンとかジェノサイダー翔とかですけど……」

苗木が挙げた中にクラスメートの名前を聞きつけ日向は大きく息を吐いた。
ストーカー行為を働いた挙げ句住居への侵入まで試みるとは大した度胸だ。

「……悪い。狛枝には俺からキツく言い聞かせておくから」
「え、や、日向先輩が謝る事ないですよ!それに結構慣れてきましたし!」
「苗木。ああいうのは慣れた頃が一番危ないんだ。扱い上手くなったと周りまで思い込んだ時にいきなり牙を剥くからな。いや、本性を現すって言った方がいいか……。とにかく、気を抜いてると何されるか分からないんだからな?危ないと思ったらすぐ助けを呼ぶんだぞ?わかったな?」
「あ、えっと、はい!!」

日向の念押しに慌てて頷く苗木。
だが日向が狛枝に一体何をされたのか気になって仕方がない。
これほどまでに真剣な表情をするという事は相当酷い目にあったのだろう。
事実苗木と接点を持つ以前に日向は狛枝のストーカー被害に遭っており、過去に何度か組み敷かれた事もある。
苗木と知り合った事でその興味の対象は日向から移ったが、狛枝への警戒心は最早反射レベルで身体に染みついてしまっているのだ。

「俺の番号教えとくから、何かあったらすぐ連絡しろよ?多分、どうにかしてやれるからさ」
「あ……、ありがとうございますっ!」

日向が生徒手帳の後ろのほうのページを破り、ケータイの番号とアドレスを書く。
それを苗木に渡せば、恐怖の為か青白くなっていた頬に赤みを足して礼を告げられた。
受け取った紙を大事そうにポケットにしまった苗木は再度嬉しそうに深々と頭を下げる。

「そろそろ帰るか。苗木、鞄は?」
「あ!先輩の教室に置いてきちゃいました…!!」
「じゃあ一緒に行くか」
「え、いいんですか?先輩帰るんじゃ…」
「いや、七海に帰り一眠りしてから帰るからどこかで時間潰しておくように言われてさ。どうせ教室寄らないといけないし。ついでだついで。それに、一人で行ったらどんな目に遭うかわかったもんじゃないしな」
「……お、お願いします……」

最初はただの気遣いだと思って遠慮しようとした苗木だが、確かに日向の言う通りどんな目に遭うか分からない。
日向は素直に頷いた後輩の不憫さを哀れに思いながら立ち上がり、自分と苗木の制服についた土埃を叩き落として教室へと向かう。
そして途中で出会った狛枝に説教を喰らわせ、目を輝かせていたソニアを説得し、九頭龍と辺古山にいざというときの護衛を頼み、まだ眠たそうにしている七海を起こしてようやく帰路についたのだった。



(早く日向先輩みたいに大きくなりたい……)
(どうにかして変態共から守ってやらないと……)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -