所有権を主張します


我が物顔で苗木の部屋に居座るモノクマ。
その向こうで様子を覗いている彼を思いながら、苗木は意を決して口を開いた。

「ねえ、もうやめない……?」
「――ハァ?何言っちゃってんの?残念なオニーチャンに感化されて誠まで残念になっちゃったワケぇ?」

僅かに震えた声に返ってきた口調は、モノクマを通してはいるが間違いなく江ノ島盾のものだった。
江ノ島の嘲るような笑い声は、苗木が初めて会ったときから変わらず歪んでいる。

「だって、クラスメートなのに……コロシアイとか、そんなの、」
「あー、ウッザー。何勝手に前向きな方向にむくろ化しちゃってんだよ。俺許可したっけ?」
「……許可とか要らないよ」

モノクマ越しで良かったと思う。
きっと江ノ島本人がこの場にいたら悪意を煮詰めに煮詰めて歪んだ瞳に負けて、苗木は発言権すら奪われてしまっていただろう。
あの瞳がなければ多少は苗木も耐えられる。

「ふーん?誠ってば反抗期?優しい優しいお兄ちゃんが、せーっかく誠と仲良かった奴ら残しておいてやったのにさ」
「殺すつもりで、でしょ」
「ンなワケないじゃん!俺は手出しないよ。アイツらが勝手に始めるだけ。……ま、どっかの兄不幸な弟に邪魔されちゃってるけどね。あーあ、絶望絶望!」

コロシアイは始まっていない。
苗木が全員の間に入り、険悪な雰囲気を和らげようと奮闘しているからだ。
居場所に固執する舞園。夢を見失った桑田。弱さに隠れる不二咲。強さを誇示する大和田。心の機微に疎い石丸。二次元に逃げる山田。呼吸と同じく嘘を吐くセレス。裏切りを強要された大神。孤立しようとする十神。明るく馬鹿な葉隠。才能を忘れた霧切。情に篤い朝日奈。後ろ向きに全力疾走な腐川。
ただ前向きな言葉を吐くワケではない。
冷たくされても何をされても今まで同じクラスで過ごした仲間に変わりはないのだ、接し方なら心得ている。
江ノ島を演じる戦刃に関しては不安に思うところがあるが、彼の普段の姿を知っている苗木としてはさほど不安要素として考えていない。
怖いのは彼らがいがみ合う事。
この学園から出る為に殺し合い、希望を潰し合う事。

「始まってもないのに"もうやめよう"?何馬鹿な事言ってんの?それこそやめてくんね?マジで萎えるから」
「……やめないよ。みんなは友達で、仲間なんだ。そんなみんながコロシアイしなきゃいけないなんて、認めない」
「誠が認める認めないとかどーでもいいんだよ。お前の言動には俺の許可が要るけど、俺の言動にはお前の認可なんて要らないんだから」

江ノ島の今の表情をそのまま映しているのかは知らないが、ベッドの上で仁王立ちをしていたモノクマが目を細める。
苗木はそれをただ見返す。
その姿は江ノ島が残念と称する血を分けた実の兄と似通っていて、実に腹立たしい。

「てかさぁ、」

苛立ち紛れに口を開く。
それが最も苗木を苦しませるものだと理解した上で。

「誠のお友達で仲間だからこそ、アイツらは今コロシアイなんてさせられそうになってるんだぜ?」
「――!」

図星を突かれた苗木が目を見開いて押し黙る。
辛そうに顰められた顔を見て江ノ島は僅かばかりの喜びと、それを大きく上回る嫉妬を覚えた。
義弟の顔を歪ませるのは自分だけ。
理由も目的も対象も元凶もすべて自分でなくては気に喰わない。

「むくろと違って残念じゃない誠なら分かるよな?お前は俺の所有物だ。だから俺には所有権がある。つまりお前は俺に従わなきゃいけない。誠が俺に従順な可愛い可愛い弟でいてくれるなら、俺もそこまで横暴な事しないって。――お友達との楽しい学園生活に茶々入れられたくないだろ?」

是と頷くしかないのを分かっていてなお問う。
苗木誠として、自分の所為で巻き込まれてしまったクラスメート達の殺しを看破し、希望を体現した善人として死体の山を築いていくか。
江ノ島誠扮する苗木誠として、黒幕の手足として、内通者として、裏切り者として働き、シナリオにはなかった殺人の動機が追加されるのを防ぐのか。

「……ボクは……」
「誠は?」

続きを促す声孕まれた多大な毒。
苗木はそれを長く躊躇った後に嚥下した。



(江ノ島誠だ、と)
(死にそうな目で彼は呟いた)

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