つくってあそぼ


好きな相手には自分の事以外考えないでほしい。というか、考えるな。
それを悪びれもせず地で行くのが"超高校級の絶望"こと江ノ島盾という男だ。
江ノ島は今日も今日とて、誰に憚る事なくお気に入りの"希望"の元に足を運んでいた。
鍵がかかっていたはずの扉を何の躊躇もなく持っていた鍵ですんなり開け、苗木の部屋に入り込む。

「おっはよー、苗木!」
「う、ん……おあよ……えのしま、く……」
「寝起きの苗木超カワイー!……でもちょっとは警戒心持てよ。パクっと喰っちゃうぜ?」
「っ……いたい……」

ベッドから上体を起こしてうつらうつらしている苗木の額を軽く指弾する。
呂律の回らない甘ったるい声で名前を呼ばれるのはいいものだが、江ノ島としてはもう少し嫌がってもらいたいのだ。
嫌いなヤツにいいようにされる自分、というものに絶望させたいのだろう。

「なーえーぎきゅーん、あっそびっましょー」
「んー……ん……?え、江ノ島クン……?な、何でボクの部屋にいるの!?」
「あーんな可愛い声で挨拶してくれたクセに、何でいるのとかヒドくない?はぁ……苗木に無下に扱われて絶望しちゃいそう……ゾクゾクする……あ、やばい、勃ったかも?」
「へっ、変態……!」
「はーい、変態でーっす。まあまあそんな警戒しないでさ、寝起きの牛乳でもどうぞ」

あらかじめ用意しておいた二本の牛乳瓶を取り出し、一本を苗木に差し出す。
寝起きの開き切っていない目で訝しげに見られて江ノ島は苦笑いを返した。

「何も入ってないってば。なんなら交換する?」
「……いいよ。江ノ島クン、本当はそっちに薬入れてるとかやりそうだし」
「なーんだ。ちゃんと学習してんじゃん!」

呆れたように息を吐く苗木に気づかれないように江ノ島はひっそりほくそ笑んだ。
苗木は今までの経験から牛乳にも薬が入っていると言ったが、今回は本当に何も入っていない。
江ノ島が部屋に来る途中に食堂から調達した、何の変哲もない牛乳に間違いないのだが、江ノ島は強く主張しようとはしなかった。
ただ早く飲むようにと視線で急かす。

「……じゃあ、貰うけど……」
「はい、召し上がれー。苗木はちっちゃいんだからちゃんとカルシウム摂んなきゃね」
「よ、余計なおせ――っんむ!?」

苗木の悲鳴が小さく響く。
唇に寄せて僅かに傾けていた瓶を江ノ島がさらに傾けたのだ。
飲み込めずに噴き出した牛乳が顎のラインを伝って滴り落ちていく。
器官に入ってしまったのかゲホゲホと咳き込む苗木の苦しそうな姿を見て、江ノ島は至極楽しげに唇の端を持ち上げる。

「うわー、苗木ってば牛乳まみれでえっろい事になっちゃってんじゃん!」
「だっ、誰の所為だと……!!」
「うん、俺の所為だね」

素直に頷く江ノ島を認めて、苗木はぶるりと身体を震わせた。
背を汗が伝うような、或いは背筋から首筋にかけてを指で伝われたような、一瞬で脳に危険と判断させるほどの悪寒が苗木を襲う。

「ひ……っ!」

どうにか逃げようとベッドを飛び出す寸前で江ノ島に取り押さえられた。
ベッドの上で馬乗りになられてスプリングが嫌な音を立てる。

「俺の所為で汚くなったんだから、せめてものお詫びに俺が綺麗にしてやるよ」
「い、いいから、どいて……!」
「なんか顔射された苗木犯そうとしてるみたいで興奮する……」
「やめ……っ」

べろり。
江ノ島の舌が苗木の顔を汚す白を舐め取っていく。
頬、唇、顎、首筋を舌で辿って、パーカーのファスナーを下ろして現れた鎖骨のくぼみ部分を執拗に舐める。
快楽に酔う喘ぎは聞こえてこない。
かわりに聞こえるのは恐怖によって歯がカチカチと鳴る音。
江ノ島は笑みを深くした。

「ところで苗木知ってる?精液って粘膜を冒す性質があるんだってさ。二重でオカされるって絶望的だよな。しかも目に入ると下手したら結膜炎どころか失明もありえるらしくてさ」

江ノ島は舐めるのをやめ、苗木の目尻に指を伸ばす。
綺麗に整えられた爪がまるで眼球を抉り出そうとしているようにしか見えず、苗木は必死で目をつぶった。
その固く閉じられた瞼を舐め上げてから江ノ島は苗木の耳元に唇を寄せる。
吐息がかかる度に身体を震わせる苗木が愛らしくて堪らない。

「俺に犯されて尊厳どころか視力まで失うとかすごい絶望じゃない?最後に視界に入るのが俺の姿で最後に目に入るのが俺の精液とか最高に絶望すぎる……絶望すぎてこの場でヤっちゃいたいくらい」
「――ッ」

恐怖に支配された顔で必死に逃げようともがく苗木の姿が江ノ島の劣情をより一層刺激する。
中途半端な位置のファスナーが徐々に下ろされ、苗木の白い肌が江ノ島の視線に犯されていく。
あともう少しですべてを曝け出すというところで、扉が開く音と明るい声が同時に室内に響いた。

「なっえぎー!!早く来ないと朝ゴハン食べちゃう……よ……!?」
「あ……、朝日奈さん……!助けて……!!」
「江ノ島何してんの!?さっきまで食堂にいたのに!!」
「あーあ、邪魔入っちゃった。これも"超高校級の幸運"ってヤツのお陰かな?まあいいや。――またね、苗木」

苗木の目尻に一つキスを残して江ノ島は颯爽と部屋を出て行く。
あまりに自然で堂々としたその態度に朝日奈は呆然と後ろ姿を見ているしかなかった。

「い、今の江ノ島だよね?何?何かあったの……って、え、な、苗木、泣いてるの!?大丈夫!?」
「こ……怖かったぁ……!」

朝日奈に縋りついて泣きじゃくる苗木は、その日から牛乳を見ると震えが止まらないようになったという。



(出来上がり!)
(次はどんなトラウマ作って遊ぼうか)

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