あい、あむ、そふぃすと
※黒幕バレした上での気楽な学園生活


「苗木ってまるでソフィストだよなー」

人の部屋のベッドを仰向けで占領しながら江ノ島クンがそう言った。
居場所を奪われて仕方なしに床で寝転んでいた僕はその言葉に上体を起こし、疑問を示す意味を兼ねて首を傾げた。
ソフィストというのは一体何だろう?

「まあ苗木だけってワケじゃないけどさ。でも一番近いのは苗木だね、やっぱり」
「えっと、江ノ島クン……まず、ソフィストっていうのが何なのか教えてほしいんだけど……」
「説明しましょう。ソフィストというのは紀元前5世紀半ば頃から前4世紀に古代ギリシアで活躍した知識人……まあ簡単に言ってしまえば教師のことです。『智恵ある者』『智恵が働くようにしてくれる人』という意味がありますが、私が言っているのはそういった意味でのソフィストではありません。苗木君の学力でそういった意味でのソフィストを名乗れるとしたら、ソフィストという存在が意識に留める必要もないほどに重要性に欠ける存在ということになります。理解出来ましたか?」
「う、うん。わざわざありがとう……」

半分くらい聞き流してただなんて言ったらきっと絶望的とか騒いで息遣いが荒くなるだろうから言わないでおいた。
それにしても、教師かぁ……。
確かに似合う言葉じゃないけど、そこまでハッキリ言われるとさすがのボクでも沈むな……。

「ぼくが言ったのは……プラトンが評した意味でのソフィストです……」
「プラトン……名前くらいは聞いたことあるけど……」
「ソクラテスの弟子でありアリストテレスの師匠っていう、有名所に知名度を持っていかれた可哀相な哲学者だよ。彼はソフィストについてこう言ったんだ――『真実でないことを真実であるかのように語る者』ってね」

上体を起こした江ノ島クンの目がボクを捉えた。
妖しく笑う彼から逃げるように顔を背けて考える。
真実でないことを真実であるかのように語る者……。
それってつまり詐欺師のようなものだろうか。
……ということは、ボクは今、詐欺師の称号を得たっていうことに……?

「ね?苗木君みたいでしょ?だってぇ、苗木君ってありもしないのに希望があるなんて言ってみんなを騙してるでしょ〜?まさにソフィストだよね〜!!」

ならなかった。
どうやらソフィスト云々の話はこの学園生活でのボクのスタンスを否定する為の導入話だったらしい。
江ノ島クンがベッドの占有権を放棄してボクの隣に文字通り這い寄ってくる。
貞子を彷彿とさせるその姿に正直逃げ出したかったけれど、そんなことしたら彼は嬉々としてボクを追いかけ回すと分かっているから我慢した。

「うぷぷ……苗木君もそんな蔑称で呼ばれたくないでしょ?はやくこっち側にくればいいのに」
「江ノ島クンと同じくなるくらいなら……ボクはシャワールームに閉じこもるよ」
「覚悟安っ!つか薄ッ!!シャワールームくれぇ簡単にぶち破れるっつーの!!」
「……だよね」

苦く笑ったら額を小突かれた。
話題は重いのにこういう軽い事をしてくるからボクもあまり実感が湧かないんだと思う。
霧切さんや十神クンあたりに言ったらすごく怒られそうだ。
ただでさえみんなはボクと江ノ島クンが二人で会うのを嫌がってるんだから。

「俺様のものになれば救ってやると言っているのに、やはり低俗な人間の考えはわからんな」
「うん……多分江ノ島クンにはわかんないと思うよ」
「ハァ?何それ?黒幕差別とか酷くない?」

差別反対!と言いながら、さっきまで枕代わりにしていたモノクマをボクに投げつける江ノ島クン。
暴力反対!と言ったら鼻で笑われた。
悔しいからここで意趣返しに、と彼の目をまっすぐ見返す。

「ボクは希望を持ち続けるし、希望を語り続けるよ。江ノ島クンが何と言ってもね」

笑顔で宣言したら、苗木のクセに生意気だと頬を抓られた。
痛いけど幸せだなんてそんな事言わない。言ってやらない。

ボクは、絶望なんかに靡かない。


(なんてね、確かにボクは嘘つきのソフィストかもしれないけど、でも、)
(絶望したボクに、君は興味を持ち続けてくれるとでもいうの?)

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