14番目の王様の罪


三十分ほど前、一体何を思ったのかモノクマが16本の棒を持って現れた。
よく見るとそれは割り箸で、しかもその先には赤く塗られた一本を除いてすべてに番号が振られていた。
曰く「最近のキレやすい若者は何が殺人の動機になってもおかしくないからね!せっかくだから遊べてしかも動機になるかもしれない王様ゲームをおっぱじめようと思いまーす!!あ、全員強制参加ね。もしフケたりしたら……うぷぷ!ワックワックドッキドッキ!素敵なオシオキが待ってるよ!!」
退路を断たれたうえで割り箸の番号が見えてない側を突き出され、全員疲れたような表情で割り箸を引いていった。

1回目は桑田が王様になり、15番とのキャッチボールを所望した結果不二咲にボール投げ方を指導することになった。
5回目では腐川が王様を引き当て、十神の私物を盗ってくるように命令しようとしたが、それに気づいた十神の「権利を放棄しろ」をいう命令によって事なきを得た。
10回目の王様はなんとモノクマで、「持てる語彙のすべてでモノクマを讃えろ」という無理難題を押しつけてきたがセレスの活躍によって逆にモノクマの士気を削ぐことに成功した。

何だかんだ楽しみ始めた王様ゲームだが、14回目の王様を決める回で悲劇は起きた。

「王様だーれだ」
「俺だべ!」

葉隠がそう言った途端、食堂に少しの沈黙が流れた。
そして葉隠以外の全員が隣近所に座る者達と囁き合う。

「葉隠君が王様ということはロクな命令じゃありませんわね」
「きっと『金くれ!』とかいうやつだよ!」
「む……命令で金品を要求するとは……」
「いやいや、葉隠康比呂殿のことですから、『女性陣全員スク水姿で傅け』とかいうのではないですかな?」
「うげっ、最低だな葉隠のヤロー」
「あ、占いのサクラやらせるとかどう?あいつの占い7割外れるしさぁ、サクラいないと無理っしょ」
「うぷぷ。確かに3割当たるってことは7割外れるってことだよね!いやぁ、江ノ島さんもなかなかいい表現するじゃない!」
「さ、さっさと命令する権利を白夜様に献上しなさいよ……っ!!」
「私、そろそろ部屋に戻ってもいいでしょうか」

「俺のときだけ野次が多すぎるべ!!」

冷たい視線と野次に泣きそうになりながら、葉隠は一度咳払いをして、その命令を口にした。

「震え上がれ女子!俺の命令はなぁ……3番と11番がキスだべ!!」

そして再度沈黙。

「葉隠の変態!」
「低俗な人間が考えそうなことだな」
「ドキドキ……思春期の男子高校生らしい命令だね……この命令がきっかけで葉隠君が殺されちゃったりしちゃうんじゃないかと思うと、ボク心配で胸がいっぱいだよ……はぁはぁ」
「つか、自分じゃなくていいんだな……」
「この逆風の中あえて言おう……葉隠康比呂殿ならばやってくれると思ってました!!!」
「わたくしでなくてよかったですわ。もしわたくしだったら……学級裁判が必要だったでしょうから」
「殺人宣言!?」
「セレスさんが引いたら面白かったのにね?残念だなぁ、葉隠君命拾いしたね!うぷぷ!」
「いーじゃんいーじゃーん!もしかしたらぁ、ちーたん×まーくんっていう新しい扉開けちゃうかもしれないし?てか開かなくてもあたしが拓いちゃいますけど!!ゲラゲラゲラゲラ!!」
「ああっ!腐川さんいつの間にくしゃみしちゃってたんですか!はやく腐川さんに戻ってください、ジェノサイダーさん!」

そして再度、罵倒の嵐。
しかし今回は多少の賛成意見のようなものも見られた。
言わずもがなの顔だったので周りもその声には無視を決め込んでいたが。

「あ……11番ってボクだ」

苗木の呟きに一部の目の色が変わる。
嫌悪感を顕わにしたものから、獲物を狩る肉食獣のそれに。
明らかに雰囲気を変えた彼らを尻目に、見事3番を引き当てた彼女は優雅に席を立って苗木の隣に向かった。

「私が3番よ」

ニッコリとそれはそれは綺麗に笑った霧切だが、周りからしたら挑発しているようにしか見えない。

「さあ苗木君。やりましょうか」
「え、いや、でも……さすがにキスって……」
「王様の命令だもの。……苗木君は、私とのキスは嫌?」

苗木を立ち上がらせ、頬を両手で包む。
悲しげに目を伏せながら問う霧切を拒めず、苗木は赤い顔で「嫌じゃない」とだけ答えた。
それに周りの野次が飛ぶ。
だがそれは葉隠に対してのときの野次とは大きく違い。

「俺というものがありながらそんな女に現を抜かすのか苗木!!」
「きょーちゃん×まーくんとか新しさねえええええじゃん!ちょっときょーちゃんそこかわれ!あたしとまーくんのらっぶぃべろちゅーシーン見せてア・ゲ・ル!!ゲラゲラゲラ!!!」
「異議あり!今のは誘導尋問です!誘惑です!!はやく苗木君を解放してください!!」
「真昼間っから食堂で××……?うぷぷ、たってますね……たってますね……」
「男女逆転なんて腐女子層にしかウケな……いや、もしかしてこれって、新しい?普段は辱められてるぶー子が優位に立ち相手を嬲り尽くす!……ふぅ、ただのSMですな」
「僕の目の黒いうちは不純異性交遊だなんて絶対に許さないぞ!!」
「いや、あんたの目最初っから赤いじゃん」

わいわいがやがやと騒いでいるだけならいいのだが、一部の視線が殺気立っている。
冷たいものが背筋を伝う感覚に苗木は逃げ去りたくて仕方なかったが、頬を包んでいた霧切の手が雑音を遮断するように苗木の耳を塞いだ。

「私の音だけを聞いていて」

手袋の上からでも伝わる温度を感じていると、ドクドクと脈打つ音だけが響くようになる。
霧切さんの音だ、と苗木が聞き入ってるうちに、霧切は吐息ごと唇を奪った。
押しつけるだけの稚拙なキスだが、当の二人はそれで満足のようだ。
むしろそれ以上では特に苗木の身が持たないのだろう。
幸せだと全身で訴える二人が眩しくてたまらない。

だがしかしそんなシーンを目の当たりにした彼らの心情を慮るとどうにもやるせない。

「しっ、神聖な学び舎で、白昼堂々、しかもクラスメートの目の前で……き、き、キス、だとォ!!?」
「なっ!?しっかりしろ兄弟!!」
「い、石丸君!!大丈夫!?」
「馬鹿な……俺の苗木が……」
「あたしとしては霧苗よか不二苗とか江苗とか桑苗とかそういうマイナーどこいってもらいたかったんだけどぉ……でもまーくんが受け受けしかったから全ッ然ありよね!女子にいいようにされるまーくん……震えがとまらない、とまらないわ……!!」
「な……なんか、見てるこっちが恥ずかしいね……」
「こっ、これは……不純異性交遊ってことでとっちめるか、それとも続きを促すかで視聴率に大きく影響が……」
「視聴率?何の話ですか?」
「あー、気にしないで気にしないで!こっちサイドの話だからさ!うぷぷ」
「……俺も幸運だったら……舞園ちゃんと……」
「桑田君、頭の悪い妄想はその辺にしておいてください。なんだか臭いますわ」
「にお……っ!?」


「とりあえず葉隠、死ね。話はそれからだ」
「ええっ!?苗木っちと霧切っちの恋のキューピッドしただけなんに酷い言われよう……うぎゃああああああああああ!!!」


(うぷぷ……王様ゲームは、用量・用法を守って正しくお楽しみくださいな!)

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