確かめさせて


「おっ!苗木じゃん!」
「あ、左右田先輩」

廊下でバッタリ会った左右田先輩は一人だった。
ソニア先輩はどうしたのかと気になったが、きっと左右田先輩のストーカーが失敗に終わったのだろう。
演技が下手な左右田先輩のことだから、ここ最近のストーカー行為に対する上手い誤魔化しが思いつかなかったのだと思う。
そんな事を考えているといきなり肩を掴まれた。
失礼な事を考えたのがバレたんだろうか。

「なあ苗木」
「な、何ですか?」
「骨格確かめさせてくんね?」
「…………は?」

予想に反した言葉につい反応が遅れてしまったが、左右田先輩は一体何を言っているのだろう。
まさか、例の病気に感染してしまった、とか……?

「肘とか骨が出っ張ったトコとかさ」
「……別に他の人と骨の数が違うとかいうのはないと思うんですけど」
「いやいや、そういうんじゃなくてさ!なーんか苗木の骨格すっげー気になってよォ」
「……」

これが冗談だと分かる口調か表情なら戸惑うこともないのだが、いつもと変わらぬ口調と真剣な眼差しに言葉を失ってしまう。
その眼差しがまた首筋やら手首やらを凝視しているものだから堪らない。
左右田先輩は……どうやら本気のようだ。

「頼むって!後でバナナまるまる奢るからさ!」
「……しかたないですね」

財布の寂しさを思うとボクの首は勝手に頷き、口は勝手に了承の言葉を吐き出していた。
同時に、掴まれていた肩に自由が戻った。

「よっしゃ!じゃあちょっと服脱いでくれ!」
「は!?何で脱ぐんですか!?」
「何でって……脱がなきゃ確かめらんないだろ?」

きょとん。
そんな言葉がピッタリな表情で左右田先輩が言う。
それに毒気が抜かれそうになったが、ここで「確かにそうですね」と言うことを聞くほどボクも馬鹿じゃない。

「脱ぎませんから!」
「バナナまるまる奢ってやるってのに!?」
「さすがにバナナまるまるの為に廊下で裸になるほど落ちぶれてないです!」

こんなところで服を脱いで、もし誰かに見られてたらどうなる。
きっと明日にはボクのあだ名が「露出狂」になっているに違いない。
セレスさんかジェノサイダー翔あたりが嬉々として呼びそうだ。
想像して泣きたくなってきた。
嫌だ、嫌すぎる。

「第一、何で骨格なんて確かめたがるんですか!?」
「そりゃお前、フツー惚れた女の骨格確かめたくなるだ……ろ………」
「え……と……」

惚れた女?
ソニア先輩のことだよな?
え、じゃあ何でボクの骨格を確かめさせろって……え、え?

「ち、ちげぇからな!そういうんじゃなくってよ!ほら、アレだ!あの……オレは、そうじゃなくて……違う……違うんだああああああああ!!!」
「あ、ちょ、左右田先輩っ!?」

真っ赤になってよく分からない弁解を繰り返したあげく叫び声だけ残して、左右田先輩は来た道をすごい速さで戻っていった。
途中、石丸クンの「廊下を走るんじゃない!!あとその髪の色はどうにかならないのか!!帽子も外したまえ!!!」という怒号が響いたが、はたして大丈夫だろうか。
……それにしても……。

「……ビックリしたなぁ」

走り去っていった方を見ながら呟く。
胸に手を当てればいつもより速いリズムを刻んでいるのが分かった。

「惚れた女じゃないのは分かってても、あんな顔されたらちょっと焦るよ……」

顔を赤く染めて視線を泳がせて、あれじゃまるでソニア先輩の前にいるときの左右田先輩みたいだ。
ワケが、分からない。

「……熱い……」

何の気なしに触れた頬の熱さに目眩がしそうだった。



(オレはソニアさん一筋なんだ!)
(……骨格確かめてえなァ……)

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