逃走癖の逃げ場


苗木は膝を抱えて蹲る左右田の隣に腰を下ろした。
ズズッと鼻を啜る音が聞こえる。また泣いているのだろう。左右田の涙腺は絶望的に緩いのだ。

「オレってさァ……ダメだよなァ……」
「え、そんな……いきなりどうしたんですか?」
「いや……苗木と比べたら、なんか、情けなくなってきてよ。ほら、オレって……すぐ逃げ出そうとするしさ……」

苗木は困ったように眉尻を下げた。確かに左右田の逃走癖は苗木もよく知るところだ。どうやら本人も気にしていたらしい。

「直さねえとって思うんだけどさ……どうすりゃ苗木みたいに逃げないようになるんだろうな……ずずっ」
「うーん……ボクは何だかんだでどうにかなるって思ってるから逃げないだけだと思うんですよ。ほら、ボクって一応"超高校級の幸運"ですし」
「幸運、かぁ……。オレもメカニックじゃなくて幸運だったらよかったぜ……」
「何言ってるんですか。先輩は"超高校級のメカニック"だから先輩なんですよ!」

それに幸運って言ったって、普段は結構不運なんですよ?
苦笑する苗木につられて左右田も笑った。
少し気が軽くなったようだが、今度は気が軽くなった事実に頭を抱えるのが左右田という人物である。

「ハァ……後輩に泣きついて慰めてもらうとか……ソニアさんにはみっともなくて見せらんねえよ……」
「まあ……そうかもしれないですね。でもボクは左右田先輩のそういうところも好きですよ」

バッと顔を上げた左右田は自分に向かって微笑む苗木を見て我知らず頬を染めた。
そのまま抱えていた膝にぽすっと埋めて、小さく「アリガトな」と呟く。
「いいえ」と笑って苗木は左右田の派手な色の頭を帽子の上から撫でた。


(逃げなくなったらまた来るからな)
(逃げたくなったらまた来てください)


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