EPISODE.24
戦いを終えたルフィはレベッカの膝元で、すやすやと眠っていた。
そんなルフィを見下ろすレベッカもまた国民たちと同様に大粒の涙を流し、その涙はルフィの顔へと落ちていく。
背中の痛みを堪えながらレベッカとルフィの元へと駆け寄ったナマエはルフィを見て安堵の笑みをこぼした。
『よかった・・っ・・・!』
傷は深いものの、命に別状はなさそうだ。早くこの海楼石の手錠を外し、ルフィだけでなく他の者達の治療にあたらなければと力なくナマエが顔を上げた――その時だった。
「ウィーッハハァア!!!」
『きゃ!!』
「!歌姫屋!」
「偽名!!」
サボと戦っていたバージェスが突然、上空から現れる。目の前に降り立ったバージェスはナマエを担ぎ上げるとそのまま逃げ去っていき、小さく舌打ちをしたローが「ROOM!」と球状の結界を張り出そうとするが――ロー自身も体力の限界なのか出てきた結界は掌に収まるほど小さいものでナマエを救えるほどの結界を出す事が出来ず・・・。
「ウィーッハハァ!!手に入れたぞ!キラキラの実!!!」
『ッ・・・』
抵抗する力すら出ないナマエが悔しそうに唇を噛み締めていると――バージェスの背後から、炎の柱が襲い掛かる。
「火拳!!!」
その攻撃はナマエに当たる事はなく、バージェスの背中に直撃した。空中で攻撃されたバージェスはほんの一瞬意識を失い、担がれていたナマエは上空へと放り出される。
――先に落ちたバージェスが地面にのめり込むと続くようにナマエも落下していく・・・が、地面に落ちる寸前にサボに受け止められ、ナマエは安堵したように笑みをこぼすと自分を横抱きするサボを見上げた。
『サボ・・・』
「悪い・・・ほんの目を離した隙に逃げられちまった」
『う、ううん』
「ちょっと待ってろ」
サボはナマエを地面に座らせると背負っていた鉄パイプに覇気を纏わせ、そしてナマエの手首についている海楼石の手錠を破壊した。
少しずつ体力が戻ってきたナマエはサボに礼を言い、ニカッと太陽のような笑みを浮かべたサボはナマエの手を取ると立ち上がらせた。
「ッハア・・・ハア・・・とどめは、ささねェのか!?」
『!』
「必要ない。全て終わったみてェだ」
「ウィッハハハァ・・・!!甘えなァ・・・お前ら兄弟は!」
倒れていたバージェスが、苦しそうに息をしながらサボにそう言い放つ。ナマエを連れてその場から離れようとしていたサボの足は自然と止まり、それと同時にサボのポケットに入っていた電伝虫が鳴り始めた。
――プルプルプル、電伝虫の音が鳴り響く中、サボはゆっくりとバージェスを振り返る。
「バナロ島でうちの船長に敗北したエースが海軍に引き渡される前に言った台詞を聞きてェか?」
『・・・・・』
「ウィッハハァ・・・聞いたら笑っちまうぜェ?っハア、ハア・・・ッ・・・てめェが処刑されると悟ってエースはこう言ったんだ!」
――妹と弟には、黙っていて欲しい。
「『・・・!!!』」
「ウィーハハハァ!!!!馬鹿な男だ!てめェの命と価値を知らねェ!!火拳のエースが海軍に捕まりゃ世界中に報じられるさ・・・!!軍は奴の命を120%利用――ぐぬっ!?」
言い切る前に、バージェスの顔面を掴み上げるサボ。ほんの少し力を入れればメキメキと骨の軋む音が鳴り響く。
「もういい・・・喋るな」
「ぐわああああ!!!!」
「あいつがどんな気持ちでこの世を去ったか・・・・・・っ・・・そんな事、あの日から夜の数だけ考えた・・・・・お前に言われなくても全部分かる・・・!!!!」
「ッ・・・ぐ・・・(動揺しろ馬鹿め・・・!!お前の手にしたあの悪魔の実・・・ここで奪えなきゃ能力者狩りの名折れだ・・・!逃がさねェぞメラメラの実・・・そしてキラキラの実!!)ッ――お前は後悔してんだろ!!!それだけ地位と力もありながら兄弟を救いに行かなかった事を!!あの場に・・・お前はいなかったもんな!昼寝でもしてたのかァ?ハッハァ!!肝心な時に駆けつけられねェで何が兄弟だ、情けねェ!!」
サボの力が一瞬弱まったのを見逃さなかったバージェスが背後に隠し持っていたナイフを振り下ろす――が、サボに当たる事はなかった。雲の隙間から差し込んだわずかな月の力を利用しキラキラの実の能力を解放したナマエが指でそのナイフを挟むようにして受け止めたからだ。
たった2本の指で受け止められ、ナイフを抜こうと抵抗するバージェスだが――抜くどころかナイフは微動だにせず、力だけが自慢だったバージェスの瞳が大きく揺らぐ。
目の前で沸々と怒りを露にするナマエは目に涙を溜めながら、バージェスを睨みつけると指先に力を入れ、ナイフを真っ二つに割った。
『私の大切な人たちを・・・っ馬鹿にするな!!』
「もう後悔しねェ・・・!火拳!!!」
「う・・・ッうわああああああ!!!!!」
爆炎と、月の光によって遠くの建物まで吹き飛ばされていったバージェス。――炎はバージェスごと建物を燃やし、掌に炎を灯らせながら、サボが呟く。
「おれはいいけど、エースが許さねェってよ」
『っ・・・』
「・・・・・・行こう、ナマエ」
『・・・・・ふっ、う・・・』
悔しくて、声が出てこない。結局自分はエースに守られっぱなしだったのだ。それなのに自分はエースを助ける事も、守る事も出来なかった。
――表面でいくら取り繕ってもエースの死をまだ完全に受け入れる事が出来ていない。・・・サボが生きていたと知ったときも、もしかしたらエースもどこかで生きているのではないか・・・何度もそう思った。けれどエースは目の前で殺され、確かに死んだ。
微かな希望さえ持つ事が出来ない現実に、静かに涙を流すナマエを見たサボはゆっくりとした足取りでナマエに近づくと、小さく震えるその身体を優しく抱きしめ頭を撫でた。
――プルプルプル。プルプルプル。
ナマエを抱きしめながら、ポケットから取り出した電伝虫に出てみれば・・・すかさずコアラの焦った声が聞こえてくる。
[あ、もしもしサボくん!?キミ一体どこにいるの!?さっきバージェスがナマエさんを追いかけに行ったからわたし慌てて電伝虫したのにサボくん全然でないんだから!]
「そっか、気にしなかった」
[気にして!!!]
「大丈夫、その件はもう片付いた。それよりもコアラ、リストは見つけたのか?」
[もう見つけたよ!!]
「じゃあすぐに船を呼んで・・・」
[呼んだよ!!!]
「それなら一旦地下でハックと合流しよう」
[地下でハックたちとキミ待ちだよ!!!!]
・・・ガチャリ。
要件だけを伝え、サボは電伝虫を切った。――もちろん、切られたコアラが仲間に怒鳴り散らしていたのはいうまでもない。
サボとコアラの会話が全く耳に聞こえてこなかったナマエは自分を抱きしめるサボの腕をぎゅっと握り、小さな声で言った。
『サボ・・・っ・・・』
「ん?」
『わ、たし・・・怖い・・・いくら、強くなっても・・・ッ結局、守られてばっかり、で・・・うっ・・・"また"私のせいで、だれかが・・・ッ死んだ、ら・・・』
「また、って・・・ッエースはナマエのせいで死んだんじゃねえよ」
『で、も』
エースはあの時、ルフィを守ろうとしたナマエを守ろうと己の命を犠牲にしてサカズキの攻撃を受け止めた。
あの頃の映像が鮮明に脳裏を過ぎり、不安を振り払おうと頭を左右に振るナマエだが・・・何故だろうか、今頃になって再びどうしようもない不安が押し寄せてくる。
――シャンクスの船にいた時は、必死にその不安が来ないよう自分の気持ちを押し殺して2年間を過ごしてきた。・・・きっとシャンクスならナマエの抱える不安全てを受け止める事が出来たかもしれない・・・けれどそこまで甘えるわけにはいかなかった。
再会したルフィ、そして一度は死んでしまったと思っていたサボの生存・・・この1日で色々な事が起こり、少し気持ちが緩んでしまったのだろうか・・・それまでずっと1人で抱えていた不安は一度吐き出してしまえば止める事が出来ず、ナマエは声を押し殺すようにして涙を流した。
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