EPISODE.22
「出て来ねェ奴は・・・出て来させるまでだ・・・麦わらァ・・・!」
沸々と怒りを露にするドフラミンゴが手をかざした、次の瞬間――鳥カゴの縮小速度が速まっていくではないか。
「ッ冗談じゃねェ!間に合わないじゃないか!」
『・・・っ・・・』
ルフィの回復まであと4分・・・しかしこの収縮速度を見ると、ルフィが目覚めるより前に鳥カゴが中心街に到達する勢いだった。
鳥カゴの端ではゾロ、錦えもん、カン十郎が自身の武器で迫り来る糸を押し、反対側では海楼石で出来たSMILE工場を盾に小人とフランキーが工場ごと糸を押し、さらにもう一方でバルトロメオが張った巨大バリアを、戦士たちが押し・・・皆が少しでも糸のスピードを弱めようと対抗しているが・・・どちらもギリギリの状態であった。
戦士たちと同じくバリアを押すロビンは、必死にバリアを押す戦士たちを見て疑問に思うことがあった。
「不思議だわ・・・あの傷ついた身体で、どうしてこれほどの力を・・・」
「チユポポの実れす!」
「!チユポポ・・・?」
「そうれす!それはマンシェリー姫の涙の成分によって実るタンポポ・・・チユポポの綿毛は広範囲の人々に奇跡的な超回復をもたらすのれす!!マンシェリー姫は今、傷ついたドレスローザを憂い涙を流し続けているから数多くの命を救う事が出来るでしょう・・・!」
「それで動けないはずの戦士たちが・・・」
「けれどこの能力の欠点はたった数分間の超回復という期限付きであること!申し訳ないれすけど、時間がくれば元通り・・・だからこれは今を生き延びるための延命処置なのれす!!」
それまで動けなかった街の者達も、空からふわふわと降ってくる綿毛によって超回復を起こし、再び走ることが出来た。
希望の光はまだ消えていない――ギャッツと並行に走りながら、それまでルフィに治癒をかけていたナマエは出来るかぎりの治癒を終えると、すやすやとギャッツの背中で眠るルフィの頭を撫でながら優しく微笑んだ。
『ルフィのこと、お願いねギャッツさん』
「え!?」
言いながら、ギャッツたちとは逆の方角へと走り出すナマエ。驚きながらも振り返るギャッツだったが・・・すでにそこにナマエの姿は無く、元来た道から帰ってきたナマエは視界に映ったドフラミンゴを見つけ、瞳を鋭くさせる。
どういう訳かドフラミンゴの前には倒れているヴィオラと、レベッカの姿まであった。
『っ、レベッカー!!』
「!偽名・・・!!」
「!」
地面を強く蹴ったナマエはキラキラの実の能力を解放すると同時、レベッカに攻撃を仕掛けようとしていたドフラミンゴを蹴り飛ばす。
遠くまで蹴り飛ばされていくドフラミンゴ・・・だったが途中で体勢を整え、全く効いていないのか口角を持ち上げていた。
「ふふふ・・・まさかお前から来るとはなァ?ポートガス・D・ナマエ・・・」
『っ』
全く効いていない攻撃にまさかと思い、上空を見てみれば・・・またもや空は厚い灰色の雲によって覆われてしまっていた。毎回肝心な部分でどうしてこうなるのだろうか、心の中で弱音を吐きながらもナマエはドフラミンゴからヴィオラとレベッカを守るように、中央に立ち、構える。
「不幸中の幸いとはまさにこの事だァ・・・工場は破壊され、シーザーを失ったおれの前に現れた伝説の悪魔の実の能力者ナマエ・・・ふふふふふ!お前の力があれば工場も、シーザーももはやどうでもいい・・・」
『ッわたしがあなたに力を貸すとでも・・・?』
「ふふふふ!力づくでもそうさせてもらうさ」
――その時だった。
突然周りの"音"が消え、ドレスローザに静寂が訪れる。
周りを見渡してみれば・・・なんとそれまで急スピードで動いていた鳥カゴが止まっているではないか。逃げてばかりではいけないと感じ取った街の者達、そして海兵たちまでもがゾロ達と共に鳥カゴの糸を押していたのだ。
・・・しかし止まったのはほんの一瞬のみだった。再び鳥カゴは動き始めたものの、それまで糸を押していた者達に希望が見える。小さい力が集まり、少なからずそれは確実に鳥カゴの速度を弱めている。これでルフィ回復の時間稼ぎが出来るのだ。
「ッ馬鹿共が・・・何秒時間を稼ごうが無駄だ・・・状況は何1つ変わってやしねェ」
『・・・そうかな?』
不適に笑ったナマエは両手両足に武装色の覇気を纏わせると、ドフラミンゴに向かって攻撃を繰り広げる。
キラキラの実の能力に頼らずとも、レイリーとシャンクスに教わった武術はドフラミンゴを押していた。
『たった数秒でもいい・・・それが、あなたの命取りになる・・・!』
「チッ・・・調子に乗るなァ!!」
『っ』
指先から糸の弾丸が発射される。見聞色の覇気を使ってそれを全て避けたナマエだったが・・・元々ドフラミンゴの狙いはそれではなかった。
一瞬でもナマエの気が逸れた次の瞬間ドフラミンゴは器用に指先を動かしヴィオラ、レベッカを能力の糸で強制的に操りはじめる。
「「きゃああ!!」」
『!!何を・・・!』
ドフラミンゴによって身体を操られてしまっているレベッカとヴィオラがドフラミンゴによって捕らえられてしまう。2人も人質に取られたナマエは迂闊に動くことができず、唇を噛み締める。
「ふふふふ!さて・・・こいつらがどうなってもいいのならおれはこいつらを殺す」
『っ』
「もし助けたくば・・・おれの力になれ、ナマエ。悩んでいる時間はないぞ?」
いくら弱っているといっても相手はあのドフラミンゴ――下手な小細工が通用する相手でもない。悔しそうに自分を睨みつけるナマエを見て上機嫌に笑うドフラミンゴはいつまでたっても返答しないナマエに痺れを切らしたのか、「なんなら同士討ちをさせてもいい」といってレベッカに剣を持たせるとヴィオラにその剣先を向け始めた。
「ッなにするの・・・・・・!!」
「レベッカ!!」
「ヴィオラさん・・・いや・・・っ嫌だよお・・・!!偽名助けてぇえ・・・!」
「ふふふふ!さあ、殺せ」
『――やめて!!分かった・・・分かったから・・・ッ早く2人を、解放して』
「分かっただァ?何がどう分かったのか・・・ちゃんと自分の口で言うんだな」
『っ』
まるで悪魔と契約を結ぼうとしているようだ。唇を噛み締めながらもナマエはレベッカとヴィオラの涙を見て一度目を閉じると・・・静かに息を吐き、そしてドフラミンゴにゆっくりと歩み寄る。
「ふふふふ!決心はついたか」
『・・・あなたに、力を・・・・っ・・絶対に、貸さない!!』
「!!!ックソアマが・・・!」
ブレないナマエの強い意思が気に食わないのか、ドフラミンゴの額の青筋が何本も立っていく。その一瞬でナマエはヴィオラの背後に回り込むと首の後ろに手刀を打ち、気を失わせた。意識を失った瞬間、ヴィオラについていた寄生糸の効果は解除され、大きく舌打ちしたドフラミンゴはレベッカを使ってナマエに攻撃を仕掛けてくる。
「いやあああ!!」
『っ』
「ふはははは!さあどうする、お前を殺しに来るぞ?」
「偽名ーーー!!!」
前にはドフラミンゴ、後ろからは操られたレベッカ・・・ナマエがレベッカに気を取られたその一瞬の隙を、ドフラミンゴが見逃すわけが無かった。
ドフラミンゴの指先から放たれた糸がナマエのがら空きだった背中を切り裂き、不意をつかれたナマエの顔が歪む。
『っ・・・!』
「痛い目見なきゃ分からねえようだなァ?」
ドクドクと流れる血。けれどそれに構っている暇はなかった。すかさずドフラミンゴはどこに隠し持っていたのか海楼石で出来た手錠を、見知らぬ一般人を操って両手首に嵌めさせ、どんどんと力が抜けていきその場に倒れこむナマエ。
――正面からは涙を流しながら自分に剣を向けるレベッカがやってくる。
「逃げて、偽名−!!!」
『(・・・っなんとかレベッカ達だけでも、)』
自然系の身体を持つナマエも、海楼石によって今は生身の人間・・・普段は効かない剣の攻撃さえも命取りとなってしまう。
顔を上げたナマエはどうにかしてレベッカ達をドフラミンゴから逃がす事は出来ないか・・・落ち着いて考えるも、時間は待ってくれない。
泣きながら叫ぶレベッカは大きく地を蹴ると、ナマエに向けて剣を真っ直ぐと振り下ろした。
「いやああああ!!!」
『っ・・・!』
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