EPISODE.16



まだコントロールが難しいのか、サボの放った炎はリング全体を包み込み、リング底にまで衝撃を与えた。激しい爆発音と共に、灼熱の炎によって水は蒸発し、跡形もなくなったリングの瓦礫たちは大きな穴の空いた地下へと落下していく。

ディアマンテたちがどうなったか分からないがレベッカは咄嗟にバルトロメオが張ったバリアのおかげで被害に遭うことはなかった。力なく安堵の溜息を吐いていると蒸気の向こうからキャスケット帽を被った女性が1人現れる。


「ハックと連絡が取れたわ!一旦、合流しましょ」
「ああ!」
『っ』


その声には聞き覚えがあった。サボが電伝虫で電話をしていた女の人と同じで、彼女がサボの仲間のコアラなのだろう。サボ、ナマエ、そしてコアラは落ちていく瓦礫たちと共に地下へと落下していき、暫くして深部に辿り着くと、サボはナマエを抱えながらコアラの後をついていく。

――その途中で巨人族や海賊たち、そして傷だらけの鼻の長い、どこかで見覚えのある男が視界に入った気がするが・・・・・・全身が濡れていて力が入らないナマエは通り過ぎていく彼らを振り返る事すら出来なかった。

暫くしてコアラに案内された場所は人気の無い、倉庫のような場所であった。細くて暗い道に入っていくとそこには胴着を身に纏った魚人――ハックが立っていた。


「ハック!なんだか久しぶりに会った気分ね、不思議・・・・・・あら?その手はどうしたの?」
「ッこれは・・・ちょっと、転んだ」
「転んだ?貴方が?本当〜?」
「ど、どうして嘘を言う必要がある!」
「ふふふっ」


コリーダコロシアムに出場した際、バルトロメオのバリアを攻撃して右手に怪我を負ったなんて、格闘家として口が裂けてもいえなかった。
コアラとハックが話している最中、サボは腕の中にいたナマエをゆっくり地面に下ろすと心配そうに顔を覗き込み、頬にそっと触れる。


「大丈夫か、ナマエ」
『う、うん・・・なんとか・・・』
「あ、そうだった!はい、着替え。ナマエさんのも用意しといたよ」
『え・・・』
「悪いな、助かる」
「さっ、あっちで着替えましょう!手伝うわ!」


サボから今度はコアラへとバトンタッチされる。腕を掴まれ、そのまま支えられながら連れて行かれるナマエが不安そうにサボに視線を向けてみれば、サボは安心させるように微笑んでいた。
連れて行かれるがまま、サボ達の見えない場所まで来るとコアラは手際よくナマエの水で重くなったローブを脱がし、次から次へとどんどんと脱がしていく。

あっという間に下着姿になり、その完璧なプロポーションに見惚れつつも、コアラは持っていたタオルでナマエの髪を拭き、水分を吸収させる。


『あ、の・・・ごめんなさい、こんな事、させちゃって』
「気にしないで!ナマエさんのことはサボくんからよーーーーく聞いてるから。わたしコアラっていうの、よろしくね」


にこりと笑ってみせたコアラは「私ので入るのかなあ」と不安になりつつもナマエに一式の服を着させた。着替え終わった途端、元気を取り戻してきたナマエはコアラと共に、サボとハックの待つ場所へと戻る。

――丁度着替えを終えたサボはナマエを見るなり笑みを浮かべ「もう大丈夫か?」と頭に手を置いた。照れながらも小さく頷いたナマエに笑みを深めていると・・・遠くの方からサボたちを呼ぶ声が聞こえてくる。そこにいたのは後を追いかけに来たバルトロメオと、レベッカであった。


「ちょっとおー!!置いてけぼりなんてひでェじゃねえっスか大先輩!そりゃおら男だしバリア張れますけど・・・!!」


肩で息をするバルトロメオより前に出たレベッカは、すっかり容姿の変わってしまったナマエとサボを見て目を見開かせた。


「偽名・・・?」
『・・・騙しててごめんね。偽名は偽の名前なの』
「!じゃ、じゃあ本当に、あなたが・・・」
『ポートガス・D・ナマエ。これが、私の本当の名前』


それであんなにも強かったのかと納得したレベッカは、驚きながらもナマエの隣にいるサボを見上げる。


「そ、それならあなたは一体何者なの?」
「おれか?おれの名は――サボ。おれ達は革命軍の戦士だ」
「!革命、軍・・・?」

『(革命軍・・・)』


噂で聞いた事はある。打倒世界政府を目的に暗躍する反政府組織だと。


「え?じゃあ最初のルーシーも?」
「最初のルーシーは4億の首・・・いつか海賊王になる男、麦わらのルフィ!」
「か、海賊!?ってことは偽名も!?」
「ああ。おれの弟と――妹だ。よろしく」
『わっ』
「え、ええ・・・!?」


いきなり肩を掴まれ、そのままサボに引き寄せられるナマエ。ルーシーがルフィで、偽名がナマエ・・・どちらも一度はその名前を聞いた事があり、混乱するレベッカの頭上には沢山の?マークが浮かんでおり、そんな姿を見て小さく笑うサボ。


「ルフィもナマエも、いいやつだろ?・・・昔と全然変わらねェ」


指先に灯る火を見つめながら、サボは昔の事を思い出していた。4人でいた懐かしい頃の思い出・・・少しの時間ではあったがサボ、エース、ナマエ、ルフィ・・・4人で暮らしたその光景は今も鮮明に覚えている。




――お前ら知ってるか?盃を交わすと"兄弟"になれるんだ。海賊になる時、同じ船の仲間にはなれねェかも知れねェけど、おれ達4人の絆は"兄弟"としてつなぐ!!どこで何をやろうと、この絆は切れねェ!!!これでおれ達は今日から兄弟だ!!

――兄弟〜!?ホントかよ!エースやナマエみたいになれるのか!?

――ああそうだ!これでおれ達は今日から兄弟だ!!

――おう!!




「――無茶やるとこも、何もかも」
「サボくんだって相当無茶するけどね?」
「そうか?ま、おれは考えた上での無茶だ」
「なにそれー」
「ルフィやナマエの場合は本能のままに無茶をする」
『そ、そんな事ないもん』
「というか、それってどこが違うの?」


不貞腐れるナマエの横で、サボはコアラにハット帽を被せてもらう。
ではなぜ革命軍がこのドレスローザにいるのか、疑問に思ったレベッカが問えばハックは近くにあった木箱のうちの1つを破壊してみせる。

派手な音を立てて壊れた木箱から姿を現したのは――大量の武器であった。
この港から出る武器が世界中の戦争を助長し、サボたちはそれを止めにきたのだと、ナマエもここにきてサボ達の狙いを初めて耳にした。

革命軍は幾度もこの国に兵士を送り込んでいるのだが全員ここでオモチャにされていた為、この闇のマーケットのことを長い間、暴く事が出来なかった。


「・・・だが武器の生産は別の場所みてえだな・・・一体どこから運ばれてくるのか・・・それも分かれば"ドラゴンさん"へのいい手土産になるんだが」

「コアラ!」
「!」


突然、現れた1人の女性を視界に捉えるとコアラは勢いよくその女性に抱きついた。


「ロビンさーーん!!」
「ふふ、やっぱりそうだったのね。元気だった?」
「うん!!」
「サボ、ハックも変わりないようね」
「よっ」

「ろ、ろろろろろろっ・・・ロビン先輩いい・・・・・!?!?」


ニコ・ロビン――彼女もまたルフィの仲間で、続々と現れる憧れる存在に興奮するバルトロメオ。ロビンはサボの脇にいるナマエを見て優しく微笑んで言う。


「やっと会えたのね、よかったわ」
「ああ」
「ルフィやサボから話は聞いてるわ。私はニコ・ロビン。こっちはウソップよ。よろしくね、ナマエ」
『よ、よろしくお願いします!』
「よ、よほひく・・・・・・」


ロビンに手を差し出され、緊張しながらもその手を握り返すナマエ。ちなみにウソップと紹介された鼻の長い男は全身傷だらけで喋ることも難しいほど血を出しており、先ほど見えたのは彼だったのか、と納得したナマエは慌ててウソップに治癒を始めた。



   



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