EPISODE.13



決勝戦までまだ少し時間があるらしく、その間にサボから色々な話を聞こうとナマエは小走りでスタジアム内を走っていた。暫く探していると丁度突き当たりのところでサボの後姿が見え、思わず笑みがこぼれる。
先ほどまで黒と青のスーツを纏ったシックな装いだったが今はルフィが着ていたものを身に纏っており、笑顔のまま駆け寄ろうとしたナマエだったが・・・途中でサボの啜り声が聞こえ、自然と足が止まる。その手には電伝虫があり誰かと電話しているようだった。


「グスッ・・・おれが泣くか・・・!!」
[――あの場に君がいたら何か変わった?・・・そんなの誰にもわかんない]
「・・・・・・ああ」


電伝虫から聞こえてきたのは女性の声だった。咄嗟に柱に背中を預けるようにして身を隠したナマエは胸元に当て、唇を噛み締める。・・・この10年間サボがどこで何をしていたのか分からないが彼には彼の居る場所があり、そこに大切な人がいてもおかしくはない。
サボにとって自分は妹以外のなにものでもなく、それ以上の関係は絶対に無いと分かっていても相手が誰なのか気になってしまう自分に嫌気が差してしまう。

電話先の人が一体誰なのか気になるが会話を盗み聞くような真似はしたくはなく・・・結果的にナマエは電話が終わるまで耳を塞ぎ、小さな声で歌を口ずさむしかなかった。


暫く話していたサボは通話を終え電伝虫をしまうと後ろを振り返り、そして柱から少しはみ出ているナマエの白いローブに気づき笑みをこぼした。
バレないように足音を立てず近づいてみれば、柱に寄りかかるようにして座り込んでいるナマエは両手で自身の耳を塞ぎ、目を瞑って歌っている。


「試合はどうだった?ナマエ」
『っ』


片手を外され、耳元でそう囁かれたナマエは驚いたように目を大きく開け、目の前にいるサボを見上げる。


『サ、サボ』
「いるなら声かけりゃいいのに」
『なんか話しかけちゃいけないかなと思って・・・だ、大丈夫だよ!会話は聞いてないから!』
「ははっ、それで耳塞いで歌ってたのか?別に聞かれてマズイ事なんてねェよ」
『な・・・なんとなく。あ、あと試合は、勝ったよ』


そう答えるナマエがどこか元気なさそうに見えたサボの眉間にシワが寄る。


「どこか怪我したのか?」
『えっ』
「誰にやられた?待ってろ、今すぐそいつぶっ飛ばしてくるから」


さらりと恐ろしいことを言いながらポキポキと指を鳴らすサボに慌てて否定するナマエ。


『ど、どこも怪我してないよ!元気だよ!』
「そうは見えねェけど・・・」
『そうかな?えーっと・・・あ、さっき泣きすぎちゃったからかな?』


大丈夫だよ、と笑顔を見せるナマエをジッと見つめるサボ。通っている血は違えどさすがは兄というべきなのか、サボはその笑顔が嘘だと分かっていた。真っ直ぐ自分を見つめてくるサボの視線から逃げるように顔を逸らしたナマエは必死に誤魔化そうと口を動かす。


『ほ、ほんとに大丈夫だから!・・そ、そうだ!私、サボの話が聞きたいなって思って・・・!決勝戦まで少し時間あるみたいだし、今までの事とか、さっきの電話の女の人の事とか・・・・・』
「女?」
『あ・・・・・』
「女って・・・・・・コアラの事か?」
『・・・・さ、最初の方だけ、ちょっと、声聞こえちゃって・・・ご、ごめんなさい。コアラさんっていうんだね!な、仲良さそうだったけど、まさか彼女さんだったりして?え、へへ・・・』
「へ?コアラが?」


カアアッと顔を真っ赤にさせたナマエはどうすればいいのか分からず言いたくないことまで口走ってしまい、後悔した。そんな慌てるナマエのこれまでの言動を思い返していたサボは、なぜ元気がなかったのか・・・すぐに納得した。
ナマエの言うさっきの女の人――コアラとは同志であり年齢が近い分、友人関係にも近い関係もあるだけで、特別な感情を抱いた事は一度も無い。今回もルフィとナマエに再会できた旨を報告をしていただけなのだが・・・どうやら大きな勘違いをしているようだ。
分かりやすい反応を見せるナマエが堪らなく愛おしくなり、抱きしめたくなる衝動を必死に堪えるサボが額に手を当てながら顔を仰いでいると不安そうにナマエが顔を覗き込んでくる。


『サ、サボ?怒ってる?』
「・・・いや・・・あのな、ナマエ。なんか勘違いしてるようだけど」
『?』
「さっき電話してた相手は・・・あーっと・・・話せば長くなるんだけど、とにかくコアラはおれの仲間なんだ」
『仲間・・・?』
「ああ。それ以外なんも関係はない」


一体何を訂正しようとしているのか、自分で言ってておかしく思えた。けれど超がつくほど純粋なナマエはそうなんだとあからさまに安堵したようにはにかんで笑い、その姿に胸がぎゅっと締め付けられる。
これ以上ナマエの悲しむ顔は見たくないと、意気込んで顔を上げたサボはナマエの両肩を掴むと真剣な表情で言った。


「ナマエ、お前にずっと言いたかったことがある。もしかしたら幻滅されるかもしれねえけど・・・それでも、伝えておきたいんだ」
『?』
「おれ・・・ずっと、お前のことが「コリーダコロシアムバトルトーナメント決勝戦ーー!!
『あ、決勝戦始まるみたいだね』
「・・・・・・ああ・・・そうだな・・・」
『?サボ、今何か言いかけてたよね?どうかした?』
「いや・・・・・・終わってから言う・・・」


大事な部分がギャッツの言葉によって掻き消され、意気消沈するサボ。首を傾げながらも立ち上がったナマエは離れた場所にあったルフィの兜を拾い、それをサボに被せる。最後に付け髭と、サングラスをつければどこからどうみてもルーシーそのものだった。

気持ちを切り替え、より一層気合いを入れて立ち上がったサボは足元にあった鉄パイプを持ち、それが子どもの頃にエースとサボが持っていたやつと同じものだと気づいたナマエから笑みがこぼれる。


『その鉄パイプ、懐かしいね』
「だろ?手放せなくてな」

「見つけたべ〜〜!!!」


そんな会話をしながら二人がリングの入り口に向かっている最中、どこからともなくバルトロメオが現れた。興奮気味にまた涙を流しながらバルトロメオは昔からルフィのことを崇拝しており、今回この大会に出場したのもメラメラの実をルフィにプレゼントするためだと話した。


「ルフィもえらいもんに好かれてるな」
「ま、まさかこんなところで大先輩やナマエ様にも会えるだなんて、おら幸せもんだべ・・・!!決勝戦で必ずやあんたらのお役に立てるよう頑張らせてもらうべよォ!!」

「ルーシー!!偽名ー!!」


今度は誰だろうか、顔を上げてみればそこにはレベッカの姿があった。こちらに向けて笑顔で手を振っていたレベッカだったが・・・ルーシーに変装したサボを見るなり眉間にシワを寄せた。


「ルーシー・・・じゃない・・・?」
「おいおめェ!この方々に気安く話しかけんじゃ・・・!」
「レベッカだな?・・・お前の素性は大体知ってる」
「!私の、素性?」
「少し騒ぎになるかもしれねえけど悪いようにはしねえから」


そういいながら、サボはレベッカの肩に手を置き通り過ぎていく。――ゆっくりと歩きながら、サボはゴア王国を思い出していた。


「・・・表面だけ取り繕って、この国はなんか・・・・・・おれ達の育った国に似てるな」
『・・・・・・うん』


ルフィもナマエも同じ事を感じ取っていたが・・・貴族に生まれ、不自由を嘆き、誰よりも国を憂いていたサボのその言葉は誰よりも重く感じた。



会場入り口に近づくにつれ、歓声が一際大きくなっていく。


「国中が注目するなか、特別リングも準備完了!!火拳のエースが命を落としたことで再生した最強種自然ロギア系悪魔の実メラメラの実は、一体誰のものになるのかァ!?いよいよ6人の戦士の入場を待つのみです!!!」
「へへっ、楽しくなってきたな・・・おし!行こうぜ、ナマエ、マリコンロッセオ!!」
『うん!』
「バルトロメオっすよ!!なんだべそれ!?」


「さあ、まず最初に現れるのは――今大会の風雲児、我らがルーシー登場ぉおお!!!!!」





――見てろよ、エース!!!!







   



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