EPISODD.11
なぜ生きていたのか、あれからどうしていたのか、なぜここにいるのか・・・・聞きたいことは山ほどあったけれど今はそれよりも、サボが生きていた、それが分かっただけで、どれほど心が救われただろうか。
もうこれからは泣かないと自分に言い聞かせていたのに、一度流れた涙はなかなか止まってくれない。
「ルフィ・・・メラメラの実、おれが食ってもいいか?」
「・・・!!う゛ん゛・・・!!!う゛ん゛!!そ、れが・・・ッい、い・・・!!それしかねェ・・・!!!」
座り込んだまま俯き、泣いてる私はルフィとサボが何か会話しているのを頭の中でぼんやりと聞いていた。私と同じように涙を流しながらルフィは「先に行ってるな」と言い残してベラミー達と去っていき、バルトロメオもいなくなっていて・・・気づけばその場にいるのはサボと、私だけだった。
『ひくっ、う、ううッ・・・ふ、』
ゆっくりと足音が近づいてくる。
両腕で顔を覆っているせいで今サボがどんな表情をしているかわからない。でもきっと困ってるに違いない。
「ナマエ」
『ま、っ、て・・・ッい、ま、泣き止っ、む、か・・・ら・・・!』
もう少し、頭の中を整理する時間がほしくて。まともにサボの顔も見れず俯いたまま涙を拭っていると――ぎゅうっと、包み込むように強く抱きしめられた。
触れた肌から伝わる心臓の鼓動、温もりに、本当にサボが生きているという実感が湧いてくる。
『っお化け・・・じゃ、ない・・、よ、ね・・・?』
「おいおい、人を化け物扱いしないでくれよ」
『・・ッ生きて、て・・・ほんとに、よかっ・・・た・・・!』
「急にいなくなって、つらい思いさせて・・・ごめんな?ナマエ」
『うっ・・・ううぅう』
背中に腕は回されたまま、サボは少し顔を離すと両手で顔を隠し俯く私の顔を覗こうとしてきた。でも今の私の顔は涙でボロボロで、とてもじゃないけど人に見せられる顔ではなく・・・ましてや相手がサボなら尚更見せたくなかった。
ほんの少し抵抗してみればすぐ目の前で小さく笑う声が聞こえて、次の瞬間、両手首を掴まれて意図も簡単に視界が開ける。思ったよりも至近距離にいたサボと目が合った私は、昔は無かった左目の傷痕に気づいて思わず唇を噛み締めた。
「なんでお前がそんな悲しそうな顔するんだよ」
『だ、って・・・ッ・・・』
「大きくなっても昔から変わらねえな・・・ナマエも、ルフィも」
『どうせ・・・っ子ども、だ、もん・・・・・ッううわあああああん』
「お、おい!泣くなって」
そう言われても涙は止まらなくて、困ったように笑うサボは私が泣き止むまで、ずっと抱きしめてくれていた。
――昔、エースがしてくれたように。
*
『・・・・・・』
子どものように沢山泣いてスッキリしたはいいが、冷静に考えて今、サボに抱きしめられているこの状況にナマエは頬を赤くさせていた。エースやルフィに抱きしめられる感覚とはまた違い・・・ドクドクと早く心臓が鼓動を打ち、サボにまで伝わらないか不安になる。
『(そ、そうだ私、サボのこと・・・)』
10年前、ナマエはサボを兄として、また異性としても慕っていた。もちろんその事はサボ本人はもちろんのことルフィ、そしてエースにも話した事は無く、サボが亡くなったあの日からナマエはその気持ちを永遠に心の中にしまっておこう、そう決めていた。
けれどサボが生きていた事が分かった今、再び蓋が開いてしまったその気持ちとどう向き合っていけばいいのか・・・・・・それまで恋愛のれの字も経験したことのないナマエにとって考えれば考えるほど頭が混乱し、湯気が出そうだった。
「ど、どうしたナマエ?顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないか?」
『・・・あ・・・の、』
「ん?」
『っ・・・わ、私、次の試合出なきゃいけない、から・・・!』
「おれが勝つんだから、ナマエは無理して出なくても・・・」
『う、ううん!そういうわけにはいかないよ!ちょ、ちょっとでも役に立ちたい、から・・・ッ』
側にいるだけでナマエの鼓動はどんどんと早くなり、居てもたってもいられなくなったナマエは「行ってくる!!」とだけ言い残し、サングラスを掛け直すと逃げるように会場へと真っ直ぐ走って行った。
「お、おい!ナマエ――」
慌てて止めかけるもナマエの姿はあっという間に見えなくなってしまい、サボは呆然としながらも伸ばしかけていた手を自分の口元に持っていき、小さく呟く。
「っなんだよあの顔・・・あれじゃ、まるで・・・」
サボもそれほど鈍感ではない。
エースやルフィとは違う、自分を見るその瞳は今まで自分に好意を寄せてきた女性に向けられるそれと一緒で、まさかそんなはずがない、と自分に言い聞かせるも、サボは思わず緩みそうになる口元を抑える。
「自惚れてもいいのか・・・?」
10年前――ナマエと出会い、一目見たときから一瞬で心奪われていたサボ。しかし兄弟の盃を交わしてからはその気持ちを隠し通してきた。・・・世間的に考えて、兄が妹に恋をするなどもってのほか・・・唯一、エースだけは2人の気持ちに薄々気づいていたのか、ナマエを泣かせたら承知しねェぞ、と釘を刺された事もあったが10年ぶりに再会した今、込み上げてくる気持ちは自分でも止められそうにない。
一目惚れした相手が自分に好意を寄せていると知れば尚更だ。
「(・・・エースが知ったら、怒るだろうな)」
それまで親同然に愛情を注いできた大切な妹に恋をしてしまったなんて、亡きエースが聞いたらどんな顔をするだろうか。おれより強い奴としか交際は認めねェ、それはエースの口癖のようなもので、サボは自嘲気味に笑うと天を仰ぐ。
「お前を超えられるかな・・・エース」
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