EPISODE.04
ルフィの手を引っ張り、人気の無い場所まで辿り着いたナマエはキョロキョロと辺りを見回す。・・・周りに人の気配はなく、ホッと安堵の息を吐いたナマエは後ろで「えらい目にあったなァ」と頭を抱えるルフィに向き直った。
『ずいぶん強くなったね、ルフィ』
「!だ、だからおれはルフィじゃねェ!ルーシーだ!」
ほらみろ、と背中のゼッケンに書かれたルーシーという名前を指差すルフィ。
そんなルフィを愛おしそう見つめていたナマエはこのままでは埒が明かなさそうなので、手っ取り早く自身がかけていたフードを外し、そしてウィッグとサングラスを外した。
「!」
目と口を、これでもかというくらい大きく開かせるルフィ。
ウィッグの下に隠れていた、緩いウェーブの掛かったピンクの長い髪がぱさりと腰辺りまで落ち、正体を露にしたナマエはまるで幽霊でも目にしたかのような反応をみせるルフィを見て笑みをこぼした。
「あ、あ・・・・あ・・・・・・」
『2年振りに会うお姉ちゃんの顔、忘れた?』
「ッ〜・・・・・ナマエーーーー!?!?」
ぶわっと涙と鼻水を出しながら、ルフィはナマエに抱きついた。抱きとめたナマエも目に涙を溜めながら、会いたかったと背中に回した腕に力を込める。
「お、前・・・ッど、こ・・・行っ・・・・・・しん、ぱ・・・いッしたん、だぞ・・・!」
『・・・新聞読んでなかったの?』
あんなにニュースになっていたものだから、てっきりルフィは自分がシャンクスの元にいることを知っていたと思っていたのだが・・・。しかしすぐ納得もした。ルフィが新聞を読むはずないのだから。
心配かけてしまったことに謝ると、それでもルフィは「生きてて良かった」と嗚咽しながら言い、その言葉にナマエの胸は強く締め付けられる。
「うわああああ〜〜!!!」
『ちょ、ちょっとルフィってば・・・あんま大きな声出すと誰かに見られちゃうよ』
「だ、だっで・・・だっでぇえええッ・・・おれ、ひ、とりに・・・っなったら、どう・・・しよう、って・・・思ってた、から・・・!」
『!・・・ごめんね・・・不安にさせちゃって』
「うっ、うっ・・・!」
『ルフィ――これからは頑張って、2人の分まで生きていこうね』
「!う゛ん゛・・・・・!!うっ、うわああぁあ!!」
*
暫くして落ち着きを取り戻したルフィと、そしてウィッグをつけ直したナマエはBブロックの試合を観戦しながら、これまでの2年間、お互い何をしていたかを話していた。
「そっかァ、シャンクスのとこにいたんだなナマエ。シャンクス、元気だったか?」
『うん。他のみんなも相変わらずだよ。・・・でも驚いた、ルフィもレイリーに会ってたなんて!』
ルフィはナマエと同じように2年間修行をしていたらしく、しかもその修行相手が何の巡り合わせだろうかレイリーだったそうだ。
レイリーの修行厳しかったでしょ、と聞けばルフィは自分の手を握り締め、「でもこれでもう誰にも負けねェ」と自負し、ずいぶんと逞しくなった弟の姿にナマエは笑みをこぼす。
目で見ずとも、覇気を通してみればルフィの強さは一目瞭然だった。
「あ、そうだ!なあナマエ!おれの仲間にならないか?」
『え』
「なあいいだろー!?仲間にさ、音楽家もいるんだ!そいつと今度一緒に歌ってくれよー!」
『う、うん・・・』
元々そのつもりだったのだが、こうもあっさり決まるとは思ってもみず拍子抜けしてしまうナマエ。頷くナマエに満面の笑顔を浮かべたルフィは「やったー!」と両手を力強く天に突き上げ喜んだ。
2年経ってもその無鉄砲さは健在のようだ。
『ねえルフィ、この大会の優勝賞品知ってる?』
「ああ!メラメラの実だろ?だからおれエントリーしたんだ!エースの力、誰にも渡したくねェもん!」
『もしかしてそれでわざわざドレスローザに来たの?』
「いんや!メラメラの実が優勝賞品って知ったのはちょっと前でよ、ドレスローザに来たのは別の目的なんだ。実はトラ男のやつがさー・・・」
『・・・トラ男?トラファルガーのこと?』
「ああ!話せば長くなるんだ!えーっと、どこから話せばいいんだ?まずよ、パンクハザード島でな、トラ男に会って、そんでおれ達海賊同盟結んでさ、トラ男の目的は――」
『ちょ、ちょっと待って!』
ルフィの説明じゃ到底理解できないと察したナマエは、ルフィの顔を両手で挟むように取ると自分の額とルフィの額を合わせ、そして目を瞑った。
「?何してんだおめェ?」
『シッ。大人しくしてて』
――ナマエとルフィの身体は淡い光に包まれ、そしてナマエは能力を使ってルフィのこれまでの出来事を見て、全てを理解した。
『・・・またすごい事件に首を突っ込んでるね』
「へ?今ので分かったのか?」
『うん。月華憑依の応用でね、その人が今思い出そうとしている記憶だけ見ることができるの』
ルフィは四皇カイドウを倒すべく王下七武海のトラファルガー・ローと海賊同盟を組んだ。
カイドウはドフラミンゴから人造動物系悪魔の実「SMILE」の取引を受け、悪魔の実の能力者を生産していた。そしてルフィとローはその「SMILE」の生産を取り消すために製造者であり科学者のシーザー・クラウンをパンクハザード島にて捉えることに成功し、ローはシーザーを返す条件としてドフラミンゴの王下七武海脱退することを要求。
狙いはドフラミンゴの脱退による混乱に乗じてドレスローザ内にある「SMILE工場」の破壊することだった。
工場の破壊が目的でありながらその場所がわからない麦わら一行はグリーンビットでドフラミンゴにシーザーを受け渡すチーム「ウソップ・ロー・ロビン」、サニー留守番チーム「ナミ・チョッパー・ブルック・モモの助」、侍救出・工場破壊チーム「ルフィ・ゾロ・サンジ・フランキー・錦えもん」
に別れ、ルフィは町を調べているうちにコリーダコロシアムの優勝賞品メラメラの実の存在を知り、現状に至るようだ。ちなみに他の仲間とははぐれてしまったらしい。
『だったら尚更、早いところ決着つけてメラメラの実をもらってみんなと合流しなきゃ・・・もしかしたらこのコロシアムも罠かもしれないよ』
「そん時はそん時だ!おれが絶対優勝するからよ、ナマエは辞退していいぞ!」
『わ、私だって修行してちょっとは強くなったもん!それに人出は多いほうがいいでしょ』
「で、でもよー・・・」
今回の大会はルフィから見てもかなりの猛者達が集まっている。もし万が一、ナマエに何かあったらと思うと不安で不安で仕方ないのだ。
「や、やっぱりダメだ!おれが絶対勝ってみせるから!」
『大丈夫!絶対に無茶なことはしないから。危なくなったら、棄権するよ』
「・・・ほんとか?」
『うん!』
ほら約束、と昔のように小指を差し出すナマエ。
ナマエはエースとは違い、必ず約束を守ってくれる姉であったことを一番理解していたルフィは渋りながらも、差し出された小指と自分の小指を絡め、きゅっと握る。
「約束だかんな!破ったら承知しねーからな!」
『・・・なんだかルフィ、エースみたい』
弟にまで心配されてしまい、そんなに頼らないかなぁとナマエは苦笑いを浮かべるしかなかった。
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